記事・インタビュー
政策研究大学院大学・東京大学 名誉教授、
東海大学 特別栄誉教授、日本医療政策機構 代表理事
黒川 清
この月刊誌『DOCTOR’S MAGAZINE』が発刊されてから21年になる。
当時、多くの医学関係の月刊誌がある中、まったく違ったコンセプトで始まったこの『DOCTOR’S MAGAZINE』は、創設した方たちと私の意見交換がきっかけで始まった。その評価が広がり始め、その後、本誌の経営が変わり、さらに成長して現在に至る。
創刊号の表紙を飾ったのは私の東大同級生の黒岩卓夫先生、次いで聖路加国際病院の日野原重明先生と、素晴らしい選択だったと思う。黒岩くんは卒業後、当時必須だった1年のインターンを終えると、新潟でへき地医療を立ち上げた先駆者の一人だ。ちなみに、日本の地域医療は佐久総合病院の若月俊一先生とその後継者たちがよく知られており、その後、政府は自治医科大学を創設する。
20年前といえば、皆さんは何をされていただろうか? ちょっと振り返ってみてほしい。21世紀を迎えた頃、ラップトップパソコンを使い、インターネットが広がり始め、どこで、何をして、自分たちの課題は何だっただろうか。医学教育、医療制度、専門医制度など、社会の、そして医療の現場が大きく変化しつつあった頃だ。
私は14年にわたる米国ペンシルベニア大学に始まる留学からUCLA医学部の内科教授として、恩師の尾形悦郎教授のお誘いで母校の東京大学へもどった。その後は母校の古巣である第一内科教授として大学院大学への改革などに対応した後、東海大学の医学部長として活動していた、これが20年前の私だ。帰国して東京大学で活動していた頃は、米国では医学教育改革の真っ盛りで、特にハーバード大学はトステソン医学部長がその先頭に立って革新的教育への大変化を指揮していた。
私は東京大学教授、そして東海大学の医学部長という重責の機会を得て、医学教育、制度など、学会では国内や国際での腎臓学会、内科学会などの理事長、また国際腎臓学会、国際内科学会を主催した。また日本学術会議の一員、副会長、会長としてその制度改革にあたり、政府関係も特に文部科学省、厚生労働省、内閣府などでの審議会等の委員などを務めるなど、活動が広がっていた。特にこれらの委員会では国際関係で多くの機会を頂いた。
これらの要因として、冷戦の終結とインターネットの広がる世界がグローバル化し、特にバブル経済の破綻以来、日本社会が世界の変化に対応しきれない部分があったのだろう。1970年~1990年の「ジャパン・アズ・ナンバーワン」といわれた経済成長の大成功などが背景にあるのだろうが、現在も、アジア、特に中国の経済成長を受けての日本のグローバル化への対応は緩やかと言わざるを得ない状態にある。
この30年、高等教育・科学研究ではアメリカの地位が圧倒的であり、世界中の若者がアメリカの大学、大学院への留学を目指す中、日本からの進学者は極めて見劣りする。医学教育、臨床研修においても日本の低調な現実は明らかだ。
私たちの世代、その上の戦後直後の世代は、医学分野では、基礎・臨床ともに多くの人が日本での博士号を取得後に「ポスドク」として、2、3年間留学することが主流だった。現在、科学分野で日本の大学を卒業後に米国の大学院へ留学しPh.D.を取得する日本人はこの10年でもおよそ250人から170人程度に減っている。ちなみに、中国からは4、5000人、韓国は1200人、台湾は700人ほどがアメリカの大学院へ進んでいるのだ。
医学分野では基礎医学は別として、臨床医学では卒後の臨床研修があるが、これをアメリカで受ける人も相当に減っている。毎年20人もいないのではないか。日本の大学の科学研究の成果について、最近ではその低下、内向きの傾向が明らかである。
一言で言えば、このグローバル化の時代、「若者よ、大志を抱け、外へ出ろ」だろう。もっと多くの日本の若者がまずは世界に出て行ってみることだ。中高でも、大学でも、大学院でも、医学部でも、臨床研修でも。従来の日本の成功モデルだった「タテ社会」は、冷戦が終わり、インターネットの時代になったこの30年で、もうとっくに終わっており、世界はグローバル化の時代へと変わってしまっている。いまや世界は不確実の時代へと変わってきている。
外へ出ることで初めて「外から見える祖国日本」が見えるようになるのだ。
くろかわ・きよし
1962年東京大学卒。1969 ~1984年在米、UCLA医学部内科教授、東大医学部教授、東海大医学部長等を経て現職。国際科学者連合体の役員等を務め、日本学術会議会長、内閣府総合科学技術会議議員、内閣特別顧問、国会の福島原発事故調査委員会委員長などを歴任。世界認知症審議会委員、新型コロナウイルス対策の効果を検証する国のAIアドバイザリー・ボードの委員長。「ドクターの肖像」2000年1月号に登場。
オフィシャルブログ:https://kiyoshikurokawa.com
※ドクターズマガジン2021年1月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。
黒川 清
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