記事・インタビュー
長崎大学病院 医療教育開発センター
センター長
浜田 久之
現実は厳しい。
医療費の削減、病床機能再編、人手不足、少子高齢化などなど、医療をとりまく環境で、マイナスなことをあげればきりがありません。それらは、我々の世代の努力が足りなかったせいかもしれません。矛盾しているのですが、だからこそ、若い医療者、若い医師には夢を持ってもらわなければならない。夢や希望があれば、様々な問題に、立ち向かっていけるのではないかと思います。
2017年より新しい専門医制度が始まります。
関係者の努力とご尽力に心より敬意を表します。しかし、若い人が新制度にワクワク感やドキドキ感を与えられているか、ちょっと心配です。「なんか、面倒そうです」「ちょっと不安ですね」「縛られそうですね」との声を聞いたりします。現在、若手医師の3割程度は、専門医を取る志向がないともいわれますが、誰もが取りたい専門医資格制度にする必要があると思います。
小さい頃から勉強し、医学部へ入り、医師国家試験をパスし、初期研修を修了し、ある意味資格のゴールである専門医を、30歳をすぎてやっと取れることになります。
「やったー!」「トッタドー!」と、若者が叫んで喜ぶくらいの感動を与えるものを作るべきだと思います。
10年前、カナダへ医学教育を学びに行っていたときに、レジデントが専門資格を取るために必死になる姿をみました。カナダでは、制度的に専門医資格を取らないと生きてゆけません。取った医者から、盛大なパーティーに呼ばれたこともありました。そりゃ給与が5倍から10倍上がれば…と、冷めて見てましたが、カネの問題だけではなかったと思います。本当に自分がプロフェッショナルと認められた瞬間だったのです。
現実は厳しいからこそ、夢の持てる制度を作っていかなければならないと思います。じゃあ、どうやって?
いくつか方法はあると思います。
一番目には、「制度の未来を若手に積極的に語ること」だと思います。例えば、将来的に「専門医が国民に認められるプロ中のプロとなるだろう」「専門医による診療報酬が、非専門医による診療より高くなる必要があるだろう」「社会的なステータスも上がる必要があるだろう」、また「専門医としての責任と高い倫理性を備えたプロフェッショナリズムを求められる」などと、現場の我々が夢を語ることは大切です。若者に夢を伝え、我々が努力することが重要です。制度作りにおいて、若者を縛るような感覚を与えるのみにならないようにしたいと思います。
二番目としては、「魅力ある柔軟なプログラムを容認すること」だと思います。各科のモデルプログラムが発表されると、モデルを真似た無難なものが多くなるでしょう。都会も田舎も同じプログラムなら、当然、都会に集中すると思います。都会vs地方の構図で競争するのではなく、プログラムの質で競争できるようになればと思います。例えば、地域を越えた連携を促進、診療科を越えた研修が可能、海外での研修期間を認める、症例を集めれば飛び級で試験が可能…など。あまりにも均質で標準化されたプログラムでなく、多様性を持たせることが重要だと思います。
最後は、あくまで個人的な願望です。病床数削減、病床機能転換に続く、新専門医制度導入が引き金となり、地方の医療は崩壊する可能性が現実的にあるように思えます。そうならないためにも、専門医資格を取得したら、1年間ほど卒業した母校のある県や希望する地方で働くのはどうでしょうか。長い医者人生の中で1年間くらいいいじゃないかという横暴な発想です。多々ご批判もあろうとも思いますが、国民のために作った専門医制度が、「あれが引き金になって、日本の医療は…」と、10年後に後悔されないようになればと、心より願っております。また、そうしないように、努力していきたいと思います。
はまだ・ひさゆき
1995年大分医科大学(現大分大学)卒業。予備校講師などを経て医師に。厚労省技官としてトロント大に留学。長崎医療センター、長崎大学病院を経て、 2011年名古屋大学院博士(教育)取得。長崎県に医師をリクルートする新鳴滝塾事務局長としても県内外を奔走している。「崎長ライト」のペンネームで小説執筆も。
※ドクターズマガジン2016年1月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。
浜田 久之
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