記事・インタビュー
武蔵国分寺公園クリニック
院長
名郷 直樹・五十嵐 博
コルヒチンはユリ科のイヌサフランに含まれる成分で、古くから痛風の治療薬として使用されてきました。痛風発作時の治療の他、尿酸低下薬開始時の再燃予防にも用いられています。痛風以外ではベーチェット病で使用される他、急性心膜炎患者にコルヒチンを投与すると再発が少ないという報告もあります。コルヒチンの抗炎症作用は、冠動脈プラークの安定化により、冠動脈疾患の発症予防につながることが期待されてきました。2012年には、痛風患者でコルヒチンを使用していると心筋梗塞の有病率が低いという横断研究が報告されています。1)
そこで今回は、2013年に発表された、心血管疾患の二次予防におけるコルヒチンの効果を検証したランダム化比較試験(LoDoCo試験)を紹介したいと思います。2) 6ヶ月以上安定している35〜85歳の冠動脈疾患患者532人を対象に、低用量コルヒチン(0.5㎎ /日)投与群と、コルヒチン非投与群で、心血管イベントの発症(急性冠症候群、院外心停止、非心原性脳梗塞の複合アウトカム)を検討したものです。中央値3年間の追跡で、複合アウトカムはコルヒチン群で5.3%、対照群で16.0%と、コルヒチン群で67%少ないという結果となっています(ハザード比0.33、95%信頼区間0.18〜0.59、治療必要数[NNT]11)。
心血管イベントが67%少ないというのは、驚くべき結果です。高用量のスタチンよりも予防効果が大きいのです。しかも、93%が抗血小板薬(アスピリン、クロピドグレル、または両者の併用)、95%が高用量スタチンを投与されている、標準的な二次予防が徹底されている患者での結果です。
この研究の弱点としては、医師と患者が盲検化されておらず、アウトカム評価者が盲検化され、PROBE法を採用していることが挙げられています。PROBE法ではアウトカムが客観的であり、医師の判断に依存しないことが重要ですが、急性冠症候群のうち不安定狭心症については医師の判断によるバイアスが入り込む余地があります。しかし、ここで複合アウトカムの内訳を見てみると、有意差が出ているのはステント関連以外の急性冠症候群ですが、そのうち急性心筋梗塞(ハザード比0.25、95%信頼区間0.08〜0.76)でも不安定狭心症(ハザード比0.27、95%信頼区間0.10〜0.75)でも同様にコルヒチンの効果が認められており、PROBE法の研究デザインが結果に大きく影響したということはなさそうです。
コルヒチンで懸念されるのは副作用です。最も頻度が高いものは下痢ですが、この研究ではコルヒチン群の11%が下痢で早期に内服を中止しており、さらに5%が種々の副作用で30日以降に内服を中止しています。また、肝代謝酵素CYP3A4やP糖蛋白を阻害する薬剤との相互作用には注意が必要で、骨髄抑制などの重篤な副作用が生じるおそれがあります。入院中にコルヒチンと、CYP3A4とP糖蛋白の双方を阻害するクラリスロマイシンを投与された患者の症例対照研究では、3)2剤を同時に投与された患者の10.2%、時期をずらして投与された患者の3.6%が死亡しており、腎機能障害がある患者では特に注意が必要です(同時投与された患者における死亡の相対危険9.1、95%信頼区間1.75〜47.06)。
今回のLoDoCo試験は小規模試験ですので、結果をすぐに臨床に適用するのはいささか早計かもしれませんが、効果の大きさと薬価が安いことを考えると、今後の大規模ランダム化比較試験の結果に大いに期待したいところです。
【参考文献】
1 Crittenden DB, Lehmann RA, Schneck L, et al. Colchicine use is associated with decreased prevalence of myocardial infarction in patients with gout. J Rheumatol . 2012 Jul;39(7):1458-64. PubMed PMID: 22660810.
2 Nidorf SM, Eikelboom JW, Budgeon CA, Thompson PL. Low-dose colchicine for secondary prevention of cardiovascular disease. J Am Coll Cardiol. 2013 Jan 29;61(4):404-10. PubMed PMID: 23265346.
3 Hung IF, Wu AK, Cheng VC, et al. Fatal interaction between clarithromycin and colchicine in patients with renal insufficiency:a retrospective study. ClinInfect Dis . 2005 Aug 1;41(3):291-300. PubMed PMID: 16007523.
※ドクターズマガジン2015年7月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。
名郷 直樹、五十嵐 博
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