記事・インタビュー
武蔵国分寺公園クリニック
院長
名郷直樹・五十嵐博
冬場になってインフルエンザだけでなく、胃腸炎の子供さんが増えています。
よく聞かれる質問に、「普通のご飯はいつごろ食べさせてよいか?」というものがあります。伝統的には、下痢症の初期には「おなかを休める」ために食事を禁止し、食事の再開は慎重に、おかゆやうどんなどの消化の良いものを少量から始めて徐々に増量する、という指導が行われてきました。胃腸炎では小腸粘膜の消化吸収機能が低下しており、早期に食事を再開すると経過が長引くという考え方です。これに対し、1996年の米国小児科学会の勧告では、脱水が補正されたらすぐに経口摂取を再開する、母乳は続ける、ミルクの希釈や乳糖除去ミルクは不要、通常の食事で再開する、食事の量は欲しがるだけ与えてよい、など、正反対の推奨がなされています。一体、どう説明すればよいのでしょうか?2011年に、12のランダム化比較試験を統合したメタ分析の報告があります。発症14日未満、1日3行以上の急性の下痢を呈する10歳未満の小児1283人を対象に、水分補給開始後12時間以内に食事を再開した場合(母乳継続を含む)と、水分補給開始後12時間以降(実際は20〜48時間以降)に食事を再開した場合が比較されています。
主要評価項目である下痢の持続時間については、7つの研究が統合され、早期に食事を再開する(443人)と、遅れて食事を再開した場合(242人)と比較して、6.90時間(95%信頼区間18.70〜4.91)下痢の持続時間が短い傾向にあるという結果です。
また、有害事象としての持続性下痢(2週間以上持続するもの)も、早期に食事を再開した群で1.1%、遅れて食事を再開した群で3.6%と早期に食事を再開した群で少ない傾向にありました(相対危険0.57、95%信頼区間0.18〜1.85)。
点滴治療や嘔吐についても検討されていますが、いずれもほぼ同等(点滴治療:相対危険0.87、95%信頼区間0.48〜1.59、嘔吐:相対危険1.16、95%信頼区間0.72〜1.86)となっています。
これらの差は統計学的に有意ではないものの、食事再開を遅くした方がいいとはいえない結果です。ただ信頼区間の幅は広く、一概に再開を早めればいいともいえません。ただ早期に食事を再開すると胃腸炎の経過が長引くという考え方が、科学的な根拠に基づくというより、たぶんいいに違いないというようなナイーブな仮説に過ぎないということは、臨床医としてはきちんと自覚すべきでしょう。
食事の再開を遅らせるということは、薬の治療のように害があるわけではないので、仮説のレベルだとしてもいいかもしれない可能性を重視して、食事の再開は遅らせるような説明をしても悪くないのではないかと考える人がいるかもしれません。しかし、食事の再開を遅らせるのは決して無害ではありません。母親はいつもと違う胃腸炎用の食事を準備するために、多くの時間を使うことになります。できるだけ早くいつも通りの食事に戻したいと思っている母親は多いでしょう。
下痢の時の食事の開始時期に限らず、医者は患者に対していろいろアドバイスをします。もちろん患者や家族もなにがしかのアドバイスを求めている場合が多いでしょう。そういう状況で、何もアドバイスしないというのは医者-患者関係を悪くさせるかもしれません。しかし、そこには医者の言うことは正しいというような無根拠な前提があります。間違ったアドバイスや本当に役立つかどうか分からないアドバイスで、医者-患者関係を維持するというのはどんなものでしょう。ここはやはり元のもとにまで戻って、アドバイスをした方がいいという前提は、そもそもないことこそ強調すべきではないでしょうか。
余計なアドバイスは害にもなりえます。しない方がましだということが案外多いのかもしれません。患者に対して単純なちょっとしたアドバイスをする時にも、そのアドバイスにどんな根拠があるのだろうと論文を探してみると、案外意外な結果が見つかるかもしれません。
【参考文献】
Gregorio GV, Dans LF, Silvestre MA. Early versus Delayed Refeedingfor Children with Acute Diarrhoea. Cochrane Database Syst Rev. 2011 Jul6;(7):CD007296. PubMed PMID: 21735409.
※ドクターズマガジン2015年3月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。
名郷直樹、五十嵐博
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