記事・インタビュー
浜松医科大学
特任助教
鳴本 敬一郎
婦人科健診/検診(以下、「健診」に統一します)、婦人健診、女性健診、女性生活習慣病健診という言葉から、どんな診療サービスが想像されるでしょうか?一般的な病歴聴取や、身長や体重を含む基本的な身体診察に応じて必要な情報提供やカウンセリング。子宮頚癌に対する子宮頚部細胞診。
乳癌に対する乳房触診とマンモグラフィー。卵巣腫瘍や子宮筋腫といった明らかな婦人科領域の病態を検索するための経腟超音波検査。こんなイメージが浮かび上がります。通常、健診結果は郵送にて通知され、食生活や身体活動に関する標準化されたコメントが添えられたり、精密検査の必要性が指摘されたりします。
婦人科健診に対するこのようなイメージを持ちながら、海外での臨床研修が始まりましたが、初めて受け持った婦人科健診では、この常識が覆されました。米国では、婦人科健診は「annualgynecologicexam」などと呼ばれ、自分自身のプライマリケア医(家庭医、内科医、産婦人科医、ナースプラクティショナーなど)による約15-30分間の診察を年1回受けられます。この婦人科健診では、内診を含む一般的な診察、子宮頚部細胞診とマンモグラフィー、必要な情報提供やカウンセリングなどが提供されますが、着目すべき項目が多岐に渡っていて非常に幅広いのです。
具体的には、①避妊、計画的な妊娠、受胎前カウンセリングなどの家族計画、②月経前症候群、うつ、不安などのメンタルヘルス、③Intimatepartner violence、アルコールやドラッグ使用などの安全性、④性機能障害、性的嗜好などの性生活、⑤年齢やリスク因子から推奨されるスクリーニング検査、予防接種、禁煙などの予防医学、⑥フィットネスや食生活、⑦学校や会社でのいじめ、対人関係、学習障害、といった項目が含まれます(文献1)。これらの視点の背景にあるのは、一人の女性について、生物学的だけでなく心理的そして社会的側面が相互に健康に影響を及ぼしているという考え(Engelが提唱した生物心理社会モデル)(文献2)や、「健康増進(Healthenhancement)」を環境社会的要因から疾患そのものまで一連のつながりとして捉える考え(McWhinneyのThehealthenhancementcontinuum)(文献3)なのでしょう。
もちろん、プライベートに深く入り込むような項目もあるため、医師患者関係があまり構築されていない状況では、健診の中で触れられない場合があります。その点、日頃から通院しているかかりつけ医に婦人科健診を受けることがメリットになるのかもしれません。
婦人科健診を繰り返していくにつれて、健診は思っていたよりも奥深い! ということにも気付き始めました。
女性特有の臓器疾患に加え、月経周期、妊娠、出産、閉経といった女性特有のライフサイクルを考慮しながら、健診を行う必要があります。例えば、偏頭痛は月経周期によって影響を受けますし、妊娠を考えている女性への情報提供や患者教育ではフォーカスを変えていく必要があります。また、家族、学校、会社、地域の中での「女性」に対する捉え方、といった文化的、歴史的背景も加味しながら、カウンセリングを行う必要が出てきます。例を挙げると、女性から言いにくいような避妊や、月経困難症についての理解が少ない職場への対応です。標準的な治療や患者教育だけでは、実用的な解決策につながらないことがあります。
国によって保険制度や診療報酬、文化や価値観の違いもあるため、上記のような婦人科健診に対しては色々な考えがあると思います。ただ、健診そのもののあり方、そしてその内容について様々な視点から眺めてみると非常に興味深く、その幅広さと奥深さに驚かされます。女性に特有な生物学的、心理的、社会的背景を考慮し、かつ健康増進に結びつくような健診によって、一般住民の健診に対する意識も今後変わってくるかもしれません。
【参考文献】
1.Annual Women’s Health Care.The American College of Obstetricians and Gynecologists. July 2013.
2.Engel GL. The clinical application of the biopsychosocial model. Am J Psychiatry 1980;137:535-544.
3.Ian R McWhinney. A textbook of Family Medicine. 2nd Edition. Oxford. 1997.
※ドクターズマガジン2014年3月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。
鳴本 敬一郎
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