記事・インタビュー
たかせクリニック
理事長
髙瀬 義昌
3年目を迎える「常識の非常識」に、隔月で執筆することになりました髙瀬です。私は、大田区で在宅療養医療専門のクリニックを開業しています。24時間365日の往診診療で培った「常識の非常識」を今後、広くご紹介していきます。
2012年の夏は、「熱中症」が連日ニュースになるほど暑かったですね。高齢者がなりやすい「脱水症状」には特に注意が必要です。
「水やスポーツ飲料をよく飲むので水分補給は十分」と思っている人は多いようですが、脱水状態になりかけているときは非常に危険です。激しい発汗、発熱による発汗や嘔吐、下痢などで水分と塩分(電解質)が大量に失われているときに、電解質がほとんど入っていない水、お茶、ソフトドリンクや電解質濃度の低いスポーツドリンクを飲むと体液が薄くなってしまいます。そうなると、水分と電解質濃度バランスを保つために利尿作用が促されて、水分と一緒に電解質も排泄されてしまうため脱水状態が改善されず、低張性脱水は悪化します。
脱水が怖いのは、血液が濃くなって固まりやすくなること、血栓が脳の血管に詰まれば脳梗塞、心臓の血管に詰まれば心筋梗塞を発症し、生命の危険を伴います。また、高齢者は、室内でも熱中症を起こすことがあります。短時間で症状が悪化し、命を落とすこともあるので注意が必要です。
●脱水によるせん妄は見逃されやすい
せん妄の原因の一つとして、体内の電解質濃度が異常になり、脳の神経細胞の活動が妨げられます。突然わけのわからないことを叫んだり、ウロウロ歩きまわったり、いるはずのない人や物が見えたり(幻視)、聞こえるはずのない音が聞こえたり(幻聴)します。病気の悪化や服用している薬の副作用、手術後などにせん妄が起こることはよく知られていますが、脱水によるせん妄は見逃されやすいので要注意です。
●脱水とせん妄はともに悪化する
低張性脱水が進行するとせん妄が起こります。せん妄が起こると、さらに脱水が悪化するとともに、せん妄も重症化。命を失うこともあります。こうした脱水とせん妄の負のスパイラルを断ち切ることが大事です。
呼吸や消化、体温などを調整しているのは、自律神経の働きによるもの。認知症の場合、脳の働きが低下して自律神経の働きが悪くなり脱水を起こしやすくなっています。また、判断力が衰えているため、脱水症状があっても自覚できません。「水やお茶を飲んでいるから大丈夫」と安易に考えてはいけません。
●脱水を回復させる経口補水療法
熱中症を含む軽度〜中等度の脱水が起こったときに、すぐに役立つのが経口補水療法(ORT:Oral Rehydration Therapy)。塩分(電解質)と糖分をバランスよく配合した経口補水液(ORS:Oral Rehydration Solution)を飲ませ、失われた水分や電解質を速やかに補給するというシンプルな治療法です。
欧米ではガイドラインもつくられ、高齢者の経口摂取不足や発熱、過度の発汗、嘔吐、下痢による脱水状態の改善に適している療法として、一般にも認知されています。重度の脱水の場合は、経静脈輸液療法を行なった後、状態が安定してから経口補水療法に切り替えるとよいとされています。
●脱水は治療よりも予防が大切!!
正しい水分補給をして脱水を予防することが一番大切ですが、イザというときのために、経口補水液(ORS)を準備しておくとよいでしょう。塩と砂糖などを用いて代用ORSをつくることもできます。
●作り方
① 水 ……… 1リットル
② 塩 ……… 3グラム(小さじ1/2杯)
③ 砂糖 ………40グラム(大匙4と1/2杯)
①〜③をかき混ぜます。
水1リットルの変わりにトマトジュース(300㎖に水700㎖)を使ってもよいでしょう。
※ドクターズマガジン2013年1月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。
髙瀬 義昌
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