記事・インタビュー

大阪大学名誉教授
仲野 徹
佐川 恭一( 著)/集英社発行
小田嶋 隆(著)/イースト・プレス発行
本田 由紀(編著)、久保 京子、近藤 千洋、中野 円佳、九鬼 成美(著)/筑摩書房発行
受験には誰もが何らかの思いを残してはるんとちゃいますやろか。学歴なんか関係ない、という意見もあるにはあります。けど、本当のところどうなんやろ。1冊目は、自らの思い出を書きながら、学歴とは何かを考えさせてくれる『学歴狂の詩』を。
京都大学文学部出身の小説家・佐川恭一氏によるノンフィクションである。1985年生まれだから20年ほど前の話になるが、なにしろ笑える。佐川氏は、滋賀県の田舎で神童と呼ばれる成績を収め、京都の「真のトップ校に追いつくべく躍起になっている段階のいわゆる自称進」、某R高校に進学する。
本の内容から、関西に住む者ならすぐに特定できる学校なのだが、一応は匿名である。勘違いされるといけないので、念のために書いておくが同じく京都にある「R星」ではない。当時は男子校だったが、いまや共学校になり、自称どころか押しも押されもしない進学校になっている。けれども、当時の某R高は「東大京大国公立医学部志望でなければ人間として扱われない」異空間である「スーパー学歴洗脳施設」だった。
登場する人物たちがあまりにユニークすぎる。「こんなんもう手の運動やん」とつぶやきながら問題集を猛スピードで解いていた≪天才≫濱慎平。「東大文一に落ちたら死にます。ここまで育てていただきましたが、その時はすみません」と家族に語っていた≪東大文一原理主義者≫内山。「『センター英語で180点以下を取る奴は人間でなくゲジゲジである』という凶悪な思想」を持つ、いまならアカハラ間違いなしの≪伝説の英語教師≫宮坂。他にも≪努力界の巨匠≫菅井、≪数学ブンブン丸≫片平、≪極限坊主≫野々宮、≪非リア王≫遠藤など、キャラの立ちまくった人たちを紹介しながら、学歴とは何かを考えていく。
多感な時代の刷り込みにはすごいものがある。「京大と阪大の間にはベルリンの壁以上の隔たりがあるという強烈な洗脳」を受けた佐川氏は、「いまだに東大京大病のせいぜい『寛解』状態にあるのであり、いつそれがまた再発するかわかったものではない」という。こんなクールな本を書くようになっていてもそうだとは驚かされる。しかし、「なぜ東大京大でなければならないのか? それは一言で言えば見栄のためである」と断言する。さらに学歴という「ラベルは遊びに使う程度でちょうどいい」との考えから、「学歴以外のことが考えられなくなっている受験生のみなさんは、学歴のその先があるということを自分に言い聞かせ、少しでも将来をイメージする時間を作っておくべきだろう」とアドバイスする。受験生がこのような本を読むことはあまりなさそうだが、力の入りすぎている関係者にはぜひ読んでほしい。
2冊目は、今は亡き名コラムニスト・小田嶋隆さんの『小田嶋隆の学歴論』を。小田嶋さんとは対談をさせてもらったこともあり、ご著書のほとんどを読んでいたが、この本のことは知らなかった。『学歴狂の詩』と一緒に紹介する本を探していて偶然見つけて読んだ。最初の出版は2000年とかなり古く2022年に再版されたものだが、内容は少しも古びていない。
「私自身は、学歴について偏見やコンプレックスを持っていないつもりだ。が、そもそもこんなふうに『僕には学歴偏見はありません』という宣言をしなければならないところからして、既におかしいのだ」というスタンスが小田嶋さんらしい。「学歴については、あらゆる人間が、その人間なりの立場で屈折している。あるいは、本人は屈折している自覚を持っていなくても、彼が学歴社会の中で生きている人間である限り、その言動には一定の屈折率が加わる」という考えには納得だ。
ご本人が書かれているとおり「読んで面白い、誠実な、良い本」なのだが、確かに「歯切れが悪い」印象を受ける。あの小田嶋隆をもってしても、学歴というのはそれだけ扱いが難しいのである。まぁ、誰もが拘泥されていてもしゃあないっちゅうことですわな。
ラストは、学歴といえば東京大学、『「東大卒」の研究――データからみる学歴エリート』を。「地方出身東大女性」、大学第一世代(=両親が大卒でない子弟)を通して眺めた「東大生の学生生活」、「東大卒のキャリア形成」、「東大卒の家族形成」などが、卒業生のアンケート調査から描かれていく。へぇ~そうなんや、というのと、やっぱりそうやったんや、というところが混ざり合っていて面白い。
医学部卒という学歴は悪くありませんな。でも、それって、いつまでも続きますやろか。
今月の押し売り本

今月の押し売り本

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仲野 徹
隠居、大阪大学名誉教授。現役時代の専門は「いろんな細胞がどうやってできてくるのだろうか」学。
2017年『こわいもの知らずの病理学講義』がベストセラーに。「ドクターの肖像」2018年7月号に登場。
※ドクターズマガジン2025年11月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。
仲野 徹
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