記事・インタビュー
民間医局が、専攻医・研修医・医学生におすすめ書籍を集めた「医書マニア」。
医学書を読むのが大好きな先生方より、医学書のレビューをお届けします。
レビュー:三谷雄己先生(踊る救急医先生)

「熱中症の分類が四つになったけれど、どう現場で活かせばよいのか分からない……」
「救急外来で高齢者が搬送されてきたけれど、本当に熱中症か判別が難しい……」
こうした戸惑いは、私が病棟で後輩と話すたびに耳にする悩みです。そんなときにおすすめしたいのが、ガイドライン改訂後の最新知見を網羅し、熱中症診療の最前線で活躍する一二三亨先生が単著でまとめたのが、本書『熱中症の謎となぜ』です。
本書は熱中症を正しく診るための最初の一冊として最適であり、最新ガイドライン・臨床研究・世界動向を縦横に取り込みながら、現場で役立つ情報をわかりやすく解説しています。
夏季に熱中症患者を診る初期研修医・看護師・救急救命士はもちろん、熱中症診療に従事することも多い家庭医やスポーツドクターにも強力な助けとなるでしょう。
- 書評『熱中症の謎となぜ』
1.本書のターゲット層と読了時間
【ターゲット層】
熱中症診療に従事する救急医・集中治療医・研修医・看護師・救急救命士
【推定読了時間】
通読:約 4〜5 時間(164 ページ)
本書は、熱中症の診断・治療・予防を最新ガイドラインに沿ってアップデートしたい救急医、集中治療医、初期研修医、看護師、そして現場で初期対応に携わる救急救命士の方々を主な読者として想定していると感じました。
発熱や意識障害を前に「これは本当に熱中症か」と迷った経験のある医療者であれば、きっと楽しく読み進められると思います。新分類(Ⅰ~Ⅳ度)やジェラートスコアなど最近議論が活発なトピックスを一気に学べるため、これから夏本番のシーズンになる前の“総仕上げ”として最適です。
通読に要する時間はおおむね4~5時間で、疑問や質問ベースでサクサク読み進められるため、救急外来の合間や通勤時にも無理なく読み切ることができます。
2.本書の特徴
●ガイドライン2024改訂内容を即戦力として解説
●疑問形式で約30項目にも及ぶ「謎となぜ」をスッキリ整理
●国内外の臨床研究・裁判事例・COVID‑19 影響を網羅
●新分類(Ⅰ〜Ⅳ度)の背景と実戦的な使い方
●WBGT・ジェラートスコアなど診断ツールの利点と限界
●高齢者特有の症候、DIC・脳症など重症化メカニズム
●予防策としての暑熱順化・マスク着用指針・経口補水液
各章は「診断」「治療」「予防」など目的別に独立しており、目次から気になる項目へ直接ジャンプしても理解が途切れません。
豊富な図表やイラストに加え、経口補水液の手作りレシピなど実務に直結するビジュアル資料が充実しているため、読んだそばから日常診療へ落とし込める構成になっています。
3.個人的総評

必要性は五点満点中4.5点と高評価で、2024年改訂ガイドライン後の疑問を一冊で網羅できる希少性が際立ちます。本の薄さもちょうどよく、携帯性と情報量のバランスが絶妙です。わかりやすさは疑問形式と豊富な図表とイラストのおかげで文句なく5.0。面白さは熱中症裁判事例やサウナの暑熱順化効果など読み物としての要素が効いて高めに評価いたしました。
継続使用度もまずまずで、診断や冷却プロトコルを確認する際に辞書代わりとなります。
良い点として、分類変更の背景やWBGTの限界といった“なぜ”に答えながら具体的アクションプランを提示していること、そして重症症例のDIC管理などガイドラインだけでは拾いきれない現場の工夫が盛り込まれていることが挙げられます。
惜しい点は、法的事例の一部が医療訴訟に不慣れな読者には難解に感じられることのみでした。日常診療の範囲であれば大きな不足は感じません。
4.おすすめの使い方・読み進め方
●自分が遭遇した疑問を目次からダイレクト検索し、ピンポイントで解決する
●時間がある方は、読み物としても面白いので通読もおすすめ
●予防章を患者教育用パンフ作成の参考にし、指導内容をアップデート
5.まとめ
本書は、ガイドライン改訂後の最新知見を踏まえて熱中症を深く広く学びたい医療者に最適の一冊です。疑問形式で整理された内容と豊富な図表およびイラストのおかげで、読後には診断・治療・予防それぞれの「なぜ?」が明確に解け、現場での迷いが大幅に減少します。夏が来る前にぜひ手に取り、熱中症患者さんの対応に自信を持てるよう、備えましょう。
6.医書レビュー
より多くの医学書レビューをご覧になりたい方、医学書の読み進め方を学びたい方は、私がこの4月から運営しているウェブメディア、医学書LABOもぜひ覗きに来てもらえると嬉しいです!
▶https://medicalbooklabo.com/
<プロフィール>

三谷 雄己(みたに ゆうき)先生
救急科専門医
日本医師会公認健康スポーツ医
JATEC・ICLSインストラクター
立派な救急医を目指し、指導医の先生方に教えていただきながら日々修行させていただいています。
信念である「知行合一」を実践できるよう、臨床で学んだ内容をアウトプットすることで心掛けております。
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