記事・インタビュー
民間医局が、専攻医・研修医・医学生におすすめ書籍を集めた「医書マニア」。
医学書を読むのが大好きな先生方より、医学書のレビューをお届けします。
レビュー:三谷雄己先生(踊る救急医先生)
「鉄粉の角膜異物は翌日眼科受診で大丈夫なの?」
「大動脈解離の可能性があるけど、この病院にはCTがないよ…」
リソースが限られている中でどこまで検査を進めるべきなのだろう…?
救急外来や地方の病院で働く医師にとって、日々の診療の中で、クリニカルクエスチョン(CQ)が尽きることは、ありません。
そしてCQは、遭遇するセッティング(どんな施設で診療にあたっているか)によっても変わるのが厄介です。そんなCQに真っ向から向き合っているのが、この一冊。
2024年度の日本救急医学会総会で、医学書ブースで最も目を引き、おもしろそうだと思った書籍だったため購入させていただきました。
そして、編集代表の坂本先生にサインまでいただけたのは、とても良い思い出でした。
この本を読めば、今後どんなセッティングで患者さんに出会ったとしても、エビデンスに則った対応ができるようになります!
救急外来や地方病院、さらにはクリニックまで、それぞれのセッティングに応じたCQと具体的な救急患者対応を学べるのがこの一冊です。
- 書評『救急対応のエビデンス・エクスペリエンスをぎゅうっとまとめました』
1.本書のターゲット層と読了時間
【ターゲット層】
●救急診療に携わるすべての医師
●初期研修医から専門医まで幅広いステージで活躍する救急医
【推定読了時間】
全体を通読する場合は1~2週間(合計10時間程度)
この書籍は救急診療に従事するすべての医師におすすめです。中でも、一般的な救急の基本についていろいろな書籍で学んだ後、さらなる理解を深めたい医師や、専門医となった後、さまざまなシチュエーションで診療するケースが多くなった救急系の医師に特におすすめの書籍だと感じました。
2.本書の特徴
●セッティング別の具体的な解説
●豊富なCQ(約100個)の実践的な解答
●エビデンスと現場での経験を融合した診療・判断のポイント
●各診療現場に合わせ、リアルな課題を掘り下げたテーマ
●Walk-in患者に紛れた危険な兆候を見のがさないためのTips
本書は、それぞれの悩ましいクリニカルクエスチョンを反映したケーススタディから始まります。どのような症例か具体的にイメージした上で、セッティングの視点から議論すべきポイントが明示され、そこについて文献などをベースに紐解いていくという構成になっています。最終的には、日々の診療にどのようなところをプラスできるかという視点で、テイクホームメッセージのように情報がまとまっています。
3.個人的総評
本書の特徴はなんといっても、セッティングごとにわかりやすく整理されているため、どの診療現場でも参考になる点です。
こういった教授陣などによる分担執筆の書籍において、それぞれの方によって完成度やメッセージの量にばらつきが出るという陥りがちな点についても、全体的な執筆の雛形がしっかりしているため、セッティング後のポイントを設けて議論すべきところが明確になっており、最終的に日々の診療にどのようにプラスしていくかという内容が分けられています。このようなしっかりとした構成ができているため、それぞれの項目について読みやすさや読みにくさを感じることがほとんどなかったのが、とても良い点だと思いました。
中でもイメージがつきにくい救急外来と地方の二次救急医療機関というセッティングの差別化についても、それぞれの状況が詳細に記載されているので、より実践的な内容を理解することができると思いました。私自身、いわゆる田舎と呼ばれる地域の診療所やクリニックでのバイトで救急診療に従事することも何度か経験しましたが、この書籍にあるように、本当にガイドラインで書かれているようなセッティングとは異なる場合、悩ましいことがたくさんあります。そういったガイドラインを超えた診療が、それぞれの地域、そしてシチュエーションでどのようにベストな形で行えるのかという視点から論じられているこの書籍は、他に類書があまりなく、非常に参考になりました。
自分自身、今後書籍を執筆する、もしくは監修する立場となったときに、このセッティングということをいかに意識しながら執筆できるかということは非常に大切な視点だと思いました。
この書籍は、小さな病態や疾患、そしてマイナーエマージェンシーまで幅広い主訴や病態を持つ患者さんを、それぞれのセッティングでどのように対処すべきかについて最善策を検討する際の疑問を解消する内容となっています。
一方で、この書籍の構成上、やはり難しいのですが、それぞれのセッティングベースで見出しを大きく分けているので、それぞれの診療科を縦割りで勉強しようと思うと少し不便に感じました。例えば、耳鼻科の内容について重点的に学びたいと思ったときには、それぞれの目次を見て耳鼻科に該当するような疾患やクリティカルクエスチョンを選択して学習する必要があるということになります。
もちろん、それぞれ診療科ベースのタグ付けがされているので、その点は少し見やすくはなっていますが、やはり診療科を横断するようなクリニカルクエスチョンの場合は少し勉強しにくい印象はあります。
4.おすすめの使い方・読み進め方
●目次を活用し、悩んだ経験のあるトピックから読み進める。
●シミュレーション形式で症例を追体験しながら読む。
●勤務先の環境に合ったセッティングを中心に学ぶ。
●各セッティングを越えて、横断的な視点を持ちながら内容を整理する。
この書籍は、時間があればすべてを通読するのも良いですが、目次を見てみると、今まで自分が悩んだシチュエーションやクリニカルクエスチョンが必ず記載されていると思います。なので、そういった自分自身が悩んだことのあるものから読み進めると、自分の経験談も反映された上で、文献上、そしてガイドライン上適切だった対応についてフィードバックを得ることができます。自分の経験したようなクリニカルクエスチョンから読み進めるというのがおすすめです。
5.まとめ
本書はどのようなセッティングで患者さんに出会ったとしても、エビデンスを意識して最適な診療ができるようになる一冊 である!
まとめると、本書はセッティング別の救急診療について、深く学ぶことができる救急診療に従事する医師すべてにおすすめの一冊です。
この一冊を通じて学ぶことで、今後どんなセッティングで患者さんに出会ったとしても、エビデンスを持って素早く対応できるようになります!
今後の学びや業務をより良いものにしたい方には是非手にとっていただきたい一冊です◎
以下に要点や基本事項をまとめましたので、購入する際には是非参考にしていただければ幸いです。
6.医書レビュー
より多くの医学書レビューをご覧になりたい方、医学書の読み進め方を学びたい方は、私がこの4月から運営しているウェブメディア、医学書LABOもぜひ覗きに来てもらえると嬉しいです!
▶https://medicalbooklabo.com/
<プロフィール>

三谷 雄己(みたに ゆうき)先生
救急科専門医
日本医師会公認健康スポーツ医
JATEC・ICLSインストラクター
立派な救急医を目指し、指導医の先生方に教えていただきながら日々修行させていただいています。
信念である「知行合一」を実践できるよう、臨床で学んだ内容をアウトプットすることで心掛けております。
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