記事・インタビュー
本連載 「夜間在宅で切り拓く〈第三の医師像〉」 は、夜間・休日往診代行サービス ON CALL を率いる私・符 毅欣(ふう たかよし)が、“勤務医でも開業医でもない” 第三のフィールド で医師が果たせる新しい役割を探る 全12回 シリーズである。泌尿器科専門医として臨床に立ち、現在は株式会社 on call CEO として経営にも携わる立場から、そのビジョンをどう形にしていくのか—まずは導入となる本稿で全体像を示したい。
「すべての人にあたたかい最期を。」—これが ON CALL のミッションだ。さらに掲げるビジョンは「好きな場所で最良の医療を受けられる社会の実現」。自宅の畳の匂い、壁いっぱいの家族写真、いつもの食卓—そんな日常のまま最期を迎えられるかどうかは、夜の数時間をどう支えるかで決まる。全国で在宅診療を実施する約 3.8 万施設のうち、夜間・休日も含めた24 時間の連絡・往診体制を正式に届け出ている医療機関は4割弱にすぎない。言い換えれば、6割超の医療機関では夜間帯に患者が直接アクセスできる仕組みが整っていないのが現状だ。この“空白”を埋めること―それこそが私の挑戦の出発点だ。
1 東京で見えた「点在するバイト体制の限界」

泌尿器科医として働き始めた頃、私は東京で複数の医療機関の夜間オンコールを非常勤で経験をしていた。多くの医療機関は独立して若手を当直に入れるので、クリニック同士の連携や症例共有はあまりない。深夜に駆けつける医師の経験値もまちまちで、マニュアルも院ごとにばらばら—場所と担当医によって医療の質が揺らぐ現実を目の当たりにし、「点在するバイト体制では限界がある」という違和感が胸に残った。
2 長野で感じた「仕組みの欠落」と小さな挫折

その後、縁あって長野市の病院に赴任して、当番で救急当直を担当した。県庁所在地でさえ医師の流動性は低く、夜間に動ける人員は限られる。救急車で運ばれてくる高齢患者に点滴を始めながら「もし往診チームがもう一人いれば搬送は避けられたのでは」と何度も思った。東京で得た問題意識をもとに小さな往診ネットワークを試みたが、仲間も資金もノウハウも足りず受け入れられなかった。
この挫折は逆説的に私を奮い立たせた。夜の不安を減らすには、都市の余剰リソースを集めるだけでなく、地方でも機能する“型”として仕組みを磨き上げる必要がある。もう一度東京に戻り、モデルを洗練し、確かな成果とデータを手にして長野へ戻ろう—そう決意した。
3 都市部で磨いたモデル——ON CALL の現在地

2022年、仲間と共に夜間・休日往診代行サービス ON CALL を立ち上げた。電話相談の一次評価から往診、カルテ共有までを一気通貫で運用するプロトコルを構築。導入クリニックも対応件数も年々着実に増え、救急搬送を避けられたケースが少なくないことは現場の実感として明らかだ。コールセンターが症状を選別し、医師・ディレクター(看護師や救命士等)を即時ペアリングする動線は、東京時代のばらばらな体制を再設計した成果でもある。
月一日の参加から始められる仕組みにより、若手医師の“余白時間”が夜間医療へ転換される循環が生まれた。症例の質を高めるため、往診後の記録をDX化して反映し、プロトコルを地道に更新し続けている。夜半の電話が一本つながるたび、患者と家族が「これなら最期まで一緒にいられるかもしれない」と語る—その瞬間こそ、ミッションが具体化する場面だ。
4 長野はビジョンを完成させる「鍵を握るピース」

都市で磨いたオペレーションとデータを、再び長野へ届ける準備を進めている。雪深い冬季の移動手段、夜間看護師との連携、自治体との協働など東京とは異なる条件が待つが、仕組みとチームがあれば夜を支えられると確信している。長野は“次のステップ”ではないが、ビジョンを完成させる鍵を握るピースだ。
夜の不安を抱えた家族のもとに駆けつけ、「いつもの先生のクリニックから来ましたよ」と微笑む代わりの医師がいる—そのひと言が患者の呼吸を落ち着かせ、家族の肩をそっと下ろす。都市と地方の区別を超え、需要の高まりに合わせて供給側が柔軟に連携し、医学と地域の知恵を重ね合わせる社会。それが私たちのビジョンの具体像である。
5 若手医師へのメッセージ
在宅医療は決して“妥協のキャリア”ではない。患者の暮らしそのものに触れ、見えない不安を和らげる行為は、専門診療の技術に深みを与える。月一回の往診からでも構わない。あなたの余白時間が、ある地域の夜を照らす。やがてその経験を携えて別の町へ向かえば、医療の地図から空白が一つずつ消えていく。ON CALL は、ミッションとビジョンに共鳴する仲間を待っている。
まとめ
「すべての人にあたたかい最期を。」この言葉が示すのは、単に延命を図る医療ではなく、安心と尊厳を守る仕組みだ。好きな場所で最良の医療を受けられる社会を実現するために、私は東京でモデルを磨き、今その仕組みを全国へ届ける準備を進めている。夜間・休日の医療空白はまだ大きい。しかし、一歩を踏み出す医師が増えれば、空白は確実に埋まり、誰もが自宅であたたかい最期を迎えられる日が近づく。
―― 連載をフォローして次回をお待ちください
【 夜間在宅で切り拓く〈第三の医師像〉シリーズ 】
- ① 医療の空白を埋めるプラットフォームを創る ※今回
- ② 30秒で医師が動く!オンコールDXの裏側
- ③ 0 → 1 の資金調達:保険診療でも「成長曲線」は描けるか

符 毅欣(ふう たかよし)プロフィール

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