記事・インタビュー
大阪大学名誉教授
仲野 徹
仲野 徹・若林 理砂(著)/左右社発行
山本 高穂・大野 智(著)/講談社発行
キム テウ(著)、 酒井 瞳(翻訳)/柏書房発行
え~っと、申し上げにくいのですが、今回は自著の紹介から。まぁ、これぞ押し売りの極致と言えなくもありませんけど。といっても、「予約の取れない鍼灸師」若林理砂さんとの対談本なので、半分自著というのがちょっと奥ゆかしいかも。って、そんなことないか。『医学問答 西洋と東洋から考えるからだと病気と健康のこと』は、東洋医学と西洋医学の考え方や方法論の違い、東洋医学がどうして効くのかなどについて書いた本である。対談ではあるけれど、全体としては、東洋医学に造詣が深い若林さんに、僭越ながら西洋医学を代表して私が厳しい質問を出し続けるという内容だ。何回かにわたってZoomで話した内容をまとめたもので、これがもう自分で言うのも何なのだが、抱腹絶倒の面白さなのである。
漢方薬や鍼灸がどうして効くのか。不思議に思われたことはないだろうか。西洋医学的な見地に立つと、エビデンスがほとんどないのにもかかわらず、である。しかし、効果はある。なにしろ何千年もの間、生き残り続けてきたのだから。とはいえ、どうにもわからない。その疑問を解消したいというのが、この本の目的である。
で、それがわかったかと言われると、結論としては、わからなかった。なんやねんそれは、と言われるかもしれない。が、どうしてわからないかが、かなりわかった。これは、私にとっては大きな進歩だった。
いきなり驚いたのは、東洋医学は哲学であるということだ。西洋医学、少なくとも近代の西洋医学は完全なる科学である。そう、両者は依って立つところが根本的に違うのである。西洋医学は還元主義的に細分化していき、エビデンスを求めるという立場である。東洋医学はそうではなくて、大本の思想があって、そこへいろいろなことを当てはめていくという。う~ん、それって大丈夫なんか。
漢方薬がどのように効くのかは本当に不思議である。ほとんどの漢方薬は合剤、それも、複数の薬草などを組み合わせたもので、単独では効かないとされている。それに対して西洋医学の薬剤は基本的に単剤だ。ある化学物質が、生体内に存在する分子に特異的に作用して効果を発揮するというのが近代医学的な薬剤の本質だ。漢方薬とて化学物質から成り立っている。それが複数、というよりも数多くが協働して初めて効果を発揮するってどういうこっちゃねん。
鍼灸となるともっとわからん。経けいらく絡が重要で、経絡に沿って経けいけつ穴(ツボ)がある。広辞苑によると、経絡とは「漢方医学で気血が人体をめぐり流れる経路をいう」とある。う~ん、その気血ってなんやねんと調べると「人体内の生気と血液。血液の循環」とあるけれど、明らかに血液の循環とは違うやろ。それに、経絡などというものは解剖学的に存在せぬではござらぬか。
というような質問をビシバシと投げかけて、若林さんが答えていかれる。誤解のないように言っておきたいのは、わからないからダメとは全く考えていないということだ。理屈がわからなくても効くのだから、東洋医学をできるだけよく理解して使うべきではないかというスタンスなのである。
二冊目は講談社ブルーバックスの『東洋医学はなぜ効くのか』を。漢方薬や鍼灸についての科学的エビデンスを紹介した本である。あんたはわかってないと言うたやないか、と思われるかもしれないが、ちょいと説明を。確かに、なぜ効くのかがわかっている事例はある。しかし、それはごく一部にすぎないし、エビデンスレベルでいくと西洋医学には遠く及ばない。個人的には、こういう研究がどんどん進んで、いずれ西洋医学と同じレベルで東洋医学も語れる時代が来ればいいと考えている。けれど、正直なところ、なかなか難しいんとちゃうやろかという気がしている。
日本と違って、韓国では漢方医学部と漢方医師の制度がある。だから、「身体と痛みに対する『複数の』理解を考察することができる興味深い現場(フィールド)」になっている。そういった見地から「韓医学を中心に、西洋医学と対照」するのが三冊目の『二つ以上の世界を生きている身体 韓医院の人類学』である。西洋医学は疾病を固定的なものと捉えて治療するのに対して、韓医学では生命の流れの中で考えるらしい。やっぱり哲学なんやわ。
時を置かずして刊行されたスタンスの違う三冊を合わせて読んだら、東洋医学を多角的にイメージすることができること請け合いでおます。まぁ、もちろん、一番読んでほしいのは私らの本ですけど。ということで、何卒よろしゅうに。
今月の押し売り本
今月の押し売り本
今月の押し売り本
仲野 徹
隠居、大阪大学名誉教授。現役時代の専門は「いろんな細胞がどうやってできてくるのだろうか」学。
2017年『こわいもの知らずの病理学講義』がベストセラーに。「ドクターの肖像」2018年7月号に登場。
※ドクターズマガジン2024年12月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。
仲野 徹
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