記事・インタビュー

2024.10.04

メディカルデバイス開発物語③「b.g.(beyond glasses) キーコンセプトは“視覚拡張”」

案件番号:24-AX004 施設・自治体名称:株式会社 東京メガネ

はじめに

民間医局「医療の“あったらいいな”デザイン工房」が紡ぐ開発ストーリーも、おかげさまで第3弾。これまで多くの方にご覧頂き、また読後アンケートから沢山のご意見も頂き、深く感謝しています。さて今回は(医療機器ではありませんが)医療現場をはじめ製造や建築等、多くの現場で使われ始めているデバイスを取上げます。先生方の臨床現場でもこれで解決できる課題がないか? 考える材料になれば……と企画しましたので、またアンケートから色々と教えてください。 申し遅れました。私は民間医局で事業開発を担う、金井真澄と申します。

そんな趣旨で今回は「視覚拡張」をテーマに皆さまと考えてゆければ……と思い、「b.g.(beyond glasses)」という製品を取上げます。お話を伺うのは、鹿児島市にある新成病院外科の北薗 巌先生と、株式会社東京メガネ/エンハンラボ事業部でこの開発を主導された座安 剛史様です。

ちなみに北薗先生は、今年4月に行われた第124回日本外科学会定期学術集会において、「メガネ型ウェアラブル端末b.g.を用いた内視鏡手術」との演題でご発表もされています。

北薗 巌先生

山口大学(2002年卒)
・日本外科学会外科専門医・指導医
・日本消化器外科学会専門医・指導医
・日本内視鏡外科学会技術認定医・評議員

座安 剛史様

慶應義塾大学環境情報学部卒業
ベンチャーやコンサル等を経て、大手メガネチェーンにて新規事業を担当。視力矯正の道具であるメガネに対し「視覚拡張」をコンセプトとした未来のメガネをつくるという想いで業界内外からプロジェクトチームを組成し「b.g.」を商品化。現在は東京メガネ・エンハンラボ事業部にて「b.g.」の拡販に携わる。

インタビュー

 金井 :では北薗先生、まずb.g.をどんな場面で使っているか教えて頂けますか。

 北薗先生 :私の専門は消化器外科ですが、現在は夜間・休日に特化したクリニックで、急性腹症や外傷、あとは喘息といった呼吸器内科系の総合診療を行っています。そんな中でb.g.を使うのは、主に内視鏡手術ですね。1時間半から2時間ほど、これをかけたまま手術を行っています。使い始めてもう1年以上になりますか。

 金井 :最初にb.g.を知ったきっかけと背景は、どんなことだったのでしょう。

 北薗先生 :元々は内視鏡手術をやりながら、画面と術野で視線を交互に動かすのをストレスと感じ、視線移動に伴う視野のずれ等も含め負担が大きかったので、「なるべく視線を動かさずに出来ないものだろうか」と思い立ち、ウェアラブルで手術中に画像を見る方法を探しました。そして最初は市販の製品を参考に、自分で試作して何とか使っていたのですが、タイムラグが大きく実用性に乏しいと感じていました。そんな時、ネットでb.g.を見つけたのです。

 金井 :先生が調べた限り、他にはどんな選択肢があって、b.g.を選んだ決め手は何でしたか。

 北薗先生 :まず、私は普段からメガネをかけているので、VRですと圧迫感が強すぎて駄目でした。医師は概してメガネ着用が多いので、違和感を持つ方が多いのではないでしょうか。その点b.g.だと自然ですし、装着も1分程で手間がかかりません。重さも55gと軽いです。

次に値段。実は3年前に購入した他社の製品があるのですが、価格はb.g.の10倍。しかも装着時に使用者に合わせた仕様に固定する為、個人の専用になってしまう。その点でb.g.は微調整が利き、誰でも使えて便利です。3Dは使えませんが、それ程不便には感じません。それよりも手術関係者(看護師・助手)と共有できる点で、メリットが大きいと感じました。

 金井 :なるほど。では逆に、1年以上お使いになって、今感じる課題や改善点はいかがですか。

 北薗先生 :今でも不便はありませんが、「解像度」は良くなるに越したことはないですね。また、「コードレス」になれば革命的に普及すると思います。ドラゴンボールのスカウターみたいに使えるのが理想的ですね。外科医は概して面倒くさいのが嫌いですから(笑)。

 金井 :ではここで、座安さんにも聞いてみましょう。こうした改善は、技術的には可能ですか。

 座安さん :「解像度」と「遅延」は背反なので、医療では(特に手術だと)遅延しないことを最重視して、それとバランスが取れる限りで最高の解像度を実現しています。この話と「コードレス」も関係するのですが、一定の解像度を実現できる容量を遅延なく通信するために、現状では有線を選択していますが、5Gなどで通信技術が向上すれば将来的にはコードレスも可能になるかもしれません。ただb.g.で見る画像は小さい為、現状でも十分に鮮明かと。

 金井 :医療分野では他に、どんな使われ方をされていますか?

 座安さん :熟達した臨床工学技士の手順をb.g.に映し出して、経験の浅い技師の作業時間を大幅に短縮した事例があります。こうした高度に専門的な業務において、長時間で高精細なモニター作業が必要となる場合にb.g.が効果を発揮すると思います。また臨床工学技士は、例えば人工心肺を稼働させる状況などで、多くのモニターを常時監視する必要に迫られるのですが、b.g.を使えば目を離さず同じ視野に収められる点も、好感されているようです。

また歯科の訪問診療において、嚥下内視鏡検査(VE)を行う際、在宅では患者さんと同方向にモニターを置けない場合も多く、患者さんの表情や細かな状況の変化に気付き難いことがあるので、そうした課題の対策としてb.g.をご活用頂いている例もあります。

 金井 :ちなみにb.g.は、製造や建築でも使われているのですよね。そこでは「非透過性」、つまり背景と混じらない点が高評価だと聞いたのですが、その点、医療ではいかがでしょう。

 北薗先生 :私の場合は術野に画像を重ねる訳ではないので、透過してしまうと術野と画像を混同してしまい危険です。眼球だけの動きで見える範囲に鮮明な画像があれば十分ですね。

 金井 :今回この場(民間医局コネクト)は多様な診療科の先生にご覧頂いています。このb.g.が、そうした皆様へ広がる可能性を訊いてみたいと思います。他にどんな応用があり得ますか。

 北薗先生 :要は「画面を見ながら手を動かす」場合に、b.g.があると手技が格段に安定すると思いますね。例えば「胃カメラ,大腸カメラ」(消化器科)は勿論、「鏡視下手術」(呼吸器科,産婦人科,心臓血管外科,泌尿器科等)、さらには「エコー(超音波)検査」でも使えると思うので、これを使うと良い診療科はもっと多岐に亘るかと思います。

 金井 :最後に、臨床上の“あったらいいな”を実現しようと、自ら試作を経てb.g.に辿り着いた先生から、これを読んでいる皆様へのメッセージをお願いします。

 北薗先生 :内視鏡手術のようにだいぶ改善が進み、あとはロボット手術位かと思われるほどほぼ完成している分野でも、私が見つけた「視覚拡張」のように、さらなる「レベルアップに繋がる身近な手段」があり得ることを知って欲しい…そしてそんな風に見つけたb.g.を多くの先生に“楽しく”使って欲しいと思います。妥当な価格だと思うので。

以上いかがでしたか? 皆様がそれぞれの診療科で、臨床課題を考える材料になれば幸いです。さて民間医局「医療の“あったらいいな”デザイン工房」では、この記事を読んだ感想やご意見等をお寄せ頂きたいと思いますので、ぜひ以下のアンケートにお答えください。

アンケートはこちらから

尚、ご回答頂いた先生は「デザイン工房のパートナー医師」と認識させて頂き、今後、先生方の臨床課題に関心ある企業から調査・共同開発等を受託した際、謝礼付でご協力を打診させて頂こうと思いますので、どうかお楽しみに!

 

メディカル・プリンシプル社 事業開発 金井真澄

メディカルデバイス開発物語③「b.g.(beyond glasses) キーコンセプトは“視覚拡張”」

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