アンケート記事

2024.03.28

医師の90%以上が、患者コミュニケーションスキルを普通以上と自己評価 〜コミュニケーションアンケート〜

普段から診察などで、患者やその家族とコミュニケーションをとることが多い医師たち。コミュニケーションのスキルやその内容などについてどのように考えているのでしょうか。民間医局コネクトでは、患者とのコミュニケーションについてアンケートを実施。2,247人の医師から回答を得られました。多くの医師がコミュニケーション向上に取り組み、自信を持っているとともに、一定の課題を抱えている現状が明らかとなりました。
※グラフの小数点は四捨五入しています

[サマリー]
・患者とのコミュニケーションスキルは、95%以上の医師が重要だと回答
・話しやすい雰囲気作り、話の聴き方、理解しやすい説明など、患者の立場を尊重した具体的な取り組みが多数挙げられた
・90%以上の医師が、コミュニケーションスキルを普通以上と自己評価
・自身と患者との間で「過去5年以内にトラブルがあった」と答えた医師は24%
・コミュニケーションを軽視している人のほうが、重視している医師よりも、患者とのコミュニケーショントラブル発生率がやや高い
・コミュニケーションスキルの自己評価が低い医師は、高い医師よりも、患者とのコミュニケーショントラブル発生率がやや高い
・トラブルの頻度は「年に1-3回程度」が最多で80%超
・患者トラブルの要因は、「診療以外のコミュニケーションに十分な時間が取れない」が最多で、僅差で「医師のコミュニケーションスキル不足」が続いた
・半数以上がコミュニケーションスキル向上のトレーニングを「受けてみたい」と回答。しかし経験がある医師は全体の20%以下
・コミュニケーションスキルを重要視している医師の方がトレーニングを「受けてみたい」と多く回答した

ほぼすべての医師が、患者コミュニケーションが重要と回答

医師は、患者やその家族とのコミュニケーションをどのように捉えているのでしょうか。まずは、コミュニケーションスキルがどの程度重要と考えているのか、聞きました。

Q:患者とのコミュニケーションスキルについて、どの程度重要だと思いますか(回答数2,247)

「かなり重要だと思う」が73%で最多を占めました。「やや重要だと思う」が24%であり、合計すると97%の医師が、患者とのコミュニケーションスキルが重要だと考えていることがわかりました。

それでは、具体的にどのようなコミュニケーションスキルが重要だと考えているのでしょうか。普段から心掛けていることを、自由回答方式で聞きました。

Q:患者とのコミュニケーションで心掛けていることがあれば教えてください

[雰囲気作り]
・目を見て話す、雑談でもいいから話をする(泌尿器科 30代)
・笑顔(皮膚科 50代)
・偉そうにしないこと(小児科 40代)
・あなたのことを覚えていますよということを伝えるように心がけている。前回話したことをメモしておいて、そこから話を始めるなど(消化器内科 50代)

[話を聴くスタンス]
・相手の話を聞いてから答える(消化器内科 30代)
・患者の話を遮らない。話が纏まらない人には要約してあげて意思疎通の確認をしている(消化器内科 30代)
・言葉の背景にある真意を掴むよう試みる 実際はボディランゲージや言葉の間隔に現れる(泌尿器科 30代)

[患者説明]
・相手の立場に立って、平易な言葉で説明する(内分泌科 30代)
・相手の理解がどこまでできているのかを慎重に見極める(消化器内科 40代)
・相手が持っている医学や科学知識の程度に応じて、説明内容や表現を変える。医学や科学に詳しい相手に対しては、不必要にかみ砕かず、医学的に正確な表現を心掛ける。相手が素人である場合には、医学的には不正確であっても「わかりやすい」表現を用いる(病理学 40代)

[患者への共感]
・挨拶、相槌の徹底(糖尿病科 *年代は答えたくない)
・遠くの親戚のつもりで忙しくても丁寧に親身になって接する(眼科 40代)
・接しやすいよう柔らかな物腰を心掛けるが、共感しすぎないよう一定の距離を保つようにしています(血液内科 30代)

[患者への質問]
・できるだけオープンクエスチョンを心掛ける(循環器内科 40代)
・目を見て話す。 今抱えている心配事がないか、必ずこちらから質問をする(腎臓科 30代)

[その他]
・患者と家族の意向を把握するように努めるが、医者を前にした会話では本心を曝け出さないことも多いので、看護師さんにも情報聴取してもらう(呼吸器内科 40代)
・大事な話をするときにはしっかり時間を確保しておく。前後の予定が立て込んでいると、心の余裕もなくなるため(内科 30代)

自由回答にも関わらず90%近くの医師が回答し、患者との雰囲気作り・話を聴くスタンス・患者説明・患者への共感・患者への質問などについて、漠然とした内容から、かなり具体的な内容まで、さまざまな意見が寄せられました。

回答率や回答の内容は、後述する「コミュニケーションスキルの自己評価」と一定の関連が見られ、「自己評価が高い」医師ほど回答率が高く、回答が具体的である傾向がありました。

多くの医師がこだわりを持って患者との信頼関係を築く努力をしており、そこに自信を持っていることがうかがえます。

それでは、これらのコミュニケーションに関わる項目について、医師たちはどの項目が特に重要だと考えているのでしょうか。

Q:次に挙げるコミュニケーションに関わる項目について、ご自身の中で最も重要だと思うものを1つだけ選んでください(回答数2,247)

「患者が話しやすい、聞きやすい雰囲気作りをする」が29%で最多でした。続いて「患者の話を聴く」25%、「患者が理解してもらえる説明」24%、「患者の容態を理解し共感する」18%、と票を集めました。

一方で、「患者に質問する」は3%にとどまりました。

医師自身がどう振る舞うか、どう動くか、ということもありますが、患者が話しやすい、理解しやすい、動きやすいということを重視する姿勢がわかります。近年、治療方針など医療全般に患者個人の意向や価値観が重要視されるようになり、日頃のコミュニケーションにおいても患者の立場を尊重しようとしている、と言えるのではないでしょうか。

90%以上の医師が、コミュニケーションスキルを普通以上と自己評価

患者とのコミュニケーションが重要であると考え、さまざまな心掛けをしている医師たちは、自分のコミュニケーションスキルをどのように評価しているのでしょうか。コミュニケーションの各項目について、自己評価を聞きました。

Q:次の項目について、それぞれどの程度自信があるか自己評価をしてください(単一回答マトリクス、回答数2,247)

聴く力・質問する力・共感力・説明力・雰囲気作りのすべての項目で、90%以上の医師が「普通」以上のスキルを持つと自己評価していました。「自信がある」「まあまあ自信がある」に絞っても、約50%を占めていました。

「自信がある」のトップは「患者が話しやすい、聞きやすい雰囲気作り」の17%で、「まあまあ自信がある」も含めると、唯一60%を上回る項目となりました。前述の自由回答の質問でも、「雰囲気作り」には多くの具体的なコメントが寄せられました。多くの医師が重要視し、またそこに自信を持っていることがわかりました。

続いて、総合的な自己評価を聞きました。

Q:患者とのコミュニケーションについて、総合的な自己評価をしてください(回答数2,247)

総合的な自己評価でも「普通」以上と答えた医師が95%以上となりました。「とても良い」は9%、「良い」が最多で51%、「普通」が38%でした。「悪い」は2%、「とても悪い」は0.1%と少数でした。

医師の4人に1人は、5年以内にコミュニケーショントラブルを経験

いくらコミュニケーションに気をつけていても、医師と患者の間では、すれ違いや食い違いが起きることは珍しくありません。医師は、コミュニケーションが原因でトラブルを経験することはあるのか、聞きました。

Q:過去5年以内に、ご自身と患者との間で、コミュニケーションが原因によるトラブルはありましたか(回答数2,247)

76%が「過去5年以内にトラブルがなかった」と回答しました。一方「過去5年以内にトラブルがあった」は24%でした。

自己評価では95%以上の医師が患者とのコミュニケーションを「普通」以上と回答していましたが、4人に1人は5年以内にコミュニケーショントラブルを経験していたことがわかりました。

それでは、トラブルを経験した医師には、どのような傾向があるのでしょうか。トラブルの有無と、前述の質問「患者とのコミュニケーションスキルについて、どの程度重要だと思いますか?」の回答を重ねて見てみましょう。

コミュニケーションスキルを「あまり重要だと思わない」「まったく重要だと思わない」と答えた人の、「過去5年以内にトラブルがあった」率は35%でした。一方、コミュニケーションスキルを「重要」「やや重要」と答えた人の「過去5年以内にトラブルがあった」率は24%でした。

コミュニケーションスキルを軽視している医師のほうが、重視している医師よりも、患者とのコミュニケーショントラブル発生率がやや高いことがわかりました。

続いて、トラブルの有無と前述の質問「患者とのコミュニケーションについて、総合的な自己評価をしてください」の回答を重ねました。

コミュニケーションスキルの自己評価が「悪い」「とても悪い」と答えた医師の「過去5年以内にトラブルがあった」率は43%でした。一方、コミュニケーションスキルの自己評価が「とても良い」「良い」医師の「過去5年以内にトラブルがあった」率は22%とやや低い数値となりました。

コミュニケーションスキルの自己評価が低い医師は、高い医師よりも、患者とのコミュニケーショントラブル発生率が高いといえそうです。また、コミュニケーショントラブルを経験したことで、コミュニケーションスキルの自己評価が低下した、と見ることもできるかもしれません。

一方で、自己評価が高い医師でも、5人に1人以上はトラブルを経験していたことは注目に値します。そこで、「過去5年以内にトラブルがあった」と回答した529人にトラブルの実際について聞きました。患者とのトラブルは、どれくらいの頻度で発生しているのでしょうか。

Q:過去5年間で患者とのトラブルは、どのくらいの頻度で発生しましたか(回答数529)

トラブルの頻度は「年に1-3件程度」が最多で82%でした。「年に10件以上」と答えた方も、少数ながら1%いました。

コミュニケーショントラブルの頻度は高いとは言えなさそうですが、たとえ1回であっても医師・患者にとって大きなストレスになることは間違いないでしょう。それでは、患者とのトラブルが起こる要因を、医師はどう考えているのでしょうか。全回答者を対象に質問しました。

Q:患者とのトラブルの直接的な要因で、ご自身のお考えに最も近いものを1つだけお選びください(回答数2,247)

「診療以外のコミュニケーションに十分な時間が取れない」が最多で37%の医師が回答しました。僅差の35%で続くのが「医師のコミュニケーションスキル不足」でした。「患者の理解能力不足」の回答も23%ありました。

自己評価の質問では、回答者の95%以上が患者コミュニケーションを「普通以上」と答えていましたが、この質問では約35%が「医師のコミュニケーションスキル不足」が要因となり患者トラブルが起こりうると回答しました。

多くの医師が普段からの心掛けでコミュニケーションスキルに一定の自信を有しているのと同時に、コミュニケーションの時間が足りないと感じている、自身や他の医師のコミュニケーションスキルに問題意識を持っている、と言えるのではないでしょうか。

コミュニケーションスキル向上のトレーニング経験がある医師は少数

コミュニケーションを重要であると捉え、問題意識を持っている医師たちは、コミュニケーションスキル向上のためのトレーニングやレクチャーについて、どのように考えているのでしょうか。経験があるのかどうかも合わせて、聞きました。

Q:コミュニケーションスキル向上のトレーニング・レクチャーがあったら、ご自身は受けてみたいですか(回答数2,247)

半数以上の52%が「受けてみたい」と回答しました。一方で、29%が「受けてみたくはない」と回答して次点となり、意見が分かれました。

「過去受けたことがある」が14%、「現在、勤務先で受けている」が4%、「現在、勤務先とは別で受けている」が1%であり、トレーニングやレクチャー経験がある医師は、全体の20%以下であることがわかりました。

続いて、この結果と「患者とのコミュニケーションスキルについて、どの程度重要だと思いますか?」の結果を重ねました。

コミュニケーションスキルが「かなり重要」「やや重要」と答えた医師のうち53%がトレーニングやレクチャーを「受けてみたい」、29%は「受けてみたくはない」と回答しました。一方、コミュニケーションスキルが「あまり重要だと思わない」「まったく重要だと思わない」と答えた医師は、47%が「受けてみたい」、47%が「受けてみたくはない」と回答しました。

全般的には、コミュニケーションスキルを重要視している医師の方が「トレーニングを受けてみたい」と多く考えていることがわかりました。さらなるスキルアップを目指したいという向上心の表れであると言えそうです。またそれだけでなく、医師はコミュニケーションスキルについて他者から評価されることが少ないため、自身のスキルを確認・再評価したい、という考えがあるのかもしれません。

コミュニケーションスキルが「あまり重要だと思わない」「まったく重要だと思わない」と答えた医師も、半数近くはトレーニングやレクチャーを「受けてみたい」と回答しました。それほど重要と捉えていなくとも、コミュニケーションスキルの必要性を認識している医師が多い、と言えるでしょう。

コミュニケーションスキル向上のトレーニング、レクチャーを受けている、または受けたことがあると答えた医師のうち、コミュニケーションスキルを重要視していないのは0.3%とわずかでした。トレーニングやレクチャーは、コミュニケーションに興味を持つ動機づけとしても有効であると言えそうです。

コミュニケーションスキルは、重要な診療スキル

医師は、苦労して学んだ知識や技術を活かすために、コミュニケーションを欠かすことはできません。本アンケートでも、医師のほとんどがコミュニケーションを重要であると認識し、こだわりを持った心掛けを実践していることがわかりました。

その一方で、一定数の医師が患者とのコミュニケーショントラブルを経験しており、コミュニケーションに関して学ぶ機会が少ない現状も浮き彫りになりました。自己評価の高い医師もさらなるスキルアップや客観的な評価の必要性を感じていると思われ、多くの医師にとってコミュニケーションは共通の課題であると言えそうです。

医師にとって最も重要なのは正しい医学的知識や技術であることに疑いの余地はありませんが、コミュニケーションについても一つの診療知識・スキルであると捉えて、真摯に向き合っていく姿勢が必要と思われます。

【アンケート概要】
調査期間:2023年10月5日~11日
対象:「民間医局」会員の医師
回答者数:2,247人(男性1,627人、女性543人、答えたくない77人)

 

執筆者:Dr.Ma
2006年に医師免許、2016年に医学博士を取得。大学院時代も含めて一貫して臨床に従事している。現在も整形外科専門医として急性期病院で年間150-200件の手術を執刀する。知識が専門領域に偏ることを実感し、医学知識と医療情勢の学び直し、リスキリングを目的に医療記事執筆を開始した。一般の方向けの医療解説と、医療関係者向けのコラムを主に担当し、これまでに執筆した医療記事は300を超える。

医師の90%以上が、患者コミュニケーションスキルを普通以上と自己評価 〜コミュニケーションアンケート〜

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