アンケート記事

2024.03.07

医師は、子どもに医学部進学を強要しないが、志望する場合は全力で支援 〜教育アンケート〜


国内外の大学で学び医師免許を取得した医師たちは、どのような受験を経験し、進学先を選んできたのでしょうか。一方、自分の子どもにはどのような進路を求めているのでしょうか。民間医局コネクトでは、教育をテーマに、本人の経験と子どもに対する考えに関するアンケートを実施。1,562名の医師から回答を得ることができました。医師は子どもの進学先について本人の意思を尊重したいと考えつつ、本人が医学部進学を希望する場合は、親として支援しようとする姿勢が伝わる結果となりました。

[サマリー]
・医師の6割近くが中学までに受験を経験
・医学部の学費は「100万円未満」が55%、「300万円以上」が22%(出身大学:国公立66%、私立30%)
・高校生以上の医師の子どもは、中学までの受験経験が多数派
・医師の子どもは1人目40%、2人目43%、3人目30%が医学部へ進学
・医師の子どもは9割前後が自分の意思で進学先を選択
・医師の子どもの大学学費は年間「100万円未満」が3割強で最多。一方「300万円以上」も2割前後
・親である医師の7割前後は、子どもの進学先を本人の意思に任せたいと考えている
・親である医師、子どもとも希望が決まっている中では5割前後が医学部志望
・子どもが医学部志望の場合、9割以上が浪人を許容

医師の6割近くが、中学までに受験を経験

回答者である医師本人と、その子どもについて回答いただくため、はじめに子どもの有無を聞きました。

Q:ご自身にお子さまはいらっしゃいますか(回答数1,562)

回答した医師のうち、7割以上に子どもがいる、という結果でした。

続いて、子どもがいない、または答えたくないと回答した437人を対象に、ご自身の受験についていくつか質問しました。
まずは、高校よりも前の段階で受験をしたことがあるか、複数回答可として聞きました。

Q:ご自身について、幼稚園から中学校までの間に受験をした経験はありますか(複数回答可、回答数437)

最多は「中学受験をした」で、437人中228人が経験していました。「あてはまるものはない」が次点で、189人でした。少数ながら、「幼稚園受験をした」方も20人いました。

回答者の6割弱が中学校までに受験を経験しており、医師の多くは早い段階で受験をしていることがわかりました。

続いて、出身の大学について聞きました。

Q:ご自身の大学進学先を教えてください(回答数437)

回答者のうち66%が「国公立大学」、続いて30%が「私立大学」で、本アンケートの回答者は、国公立大学出身の医師が多数派でした。

それでは、その進路を選んだのは主に誰の意思だったのでしょうか。
437人のうち、「答えたくない」と回答した14名、「その他」と回答した1名を除いた422人へ質問しました。

Q:ご自身の大学進学先について、その進路をお選びになったのは、どなたのご意向が一番強かったですか(回答数422)

81%が「自身の意向」で進学先を決定しており、「親の意向」により決定した人は15%という結果でした。
「その他の方の意向(親族、学校教師、塾講師など)」も少数ですが4%いました。

同じ回答者に、大学受験の勉強方法について、聞きました。

Q:ご自身が大学進学先に入学するため、当時行っていた自主学習以外の勉強方法を教えてください(複数回答可、回答数422)

最多は「予備校(医学部専門以外)」で155票を獲得、続いて「学習塾」が142票でした。3番目に多いのは「学校の授業のみ(補習含む)」の96票で、「予備校(医学部専門)」は、64票で4番目という結果になりました。

難関であり専門的な勉強が必要とされる医学部ですが、医学部専門の予備校へ通っていた方は少数派という結果でした。

続いて、大学の学費について聞きました。

Q:ご自身の大学進学先について、年間にかかった学費を教えてください(回答数422)

最多は「100万円未満」で半数以上の55%の方が回答しました。次点は「300万円以上」で22%でした。「100万円〜200万円未満」は10%、「200万円〜300万円未満」は4%でした。

「100万円未満」の55%、「300万円以上」の22%という数値は、大学進学先の比率(国公立66%、私立30%)と近い値となりました。国公立医学部の学費は100万円未満、私立医学部の学費は300万円以上であることが多い、と考えられます。

医師の子どもも、中学までの受験派が優勢

早い段階で受験を経験することが多い医師たちは、子どもの教育をどのように考えているのでしょうか。

まずは、「子どもがいる」と答えた1,125人の方に、子どもの人数を聞きました。

Q:ご自身のお子さまの人数を教えてください(回答数1,125)

「1人」と「2人」がほぼ同率でそれぞれ40%、「3人以上」は17%でした。全体の8割が2人以内という結果でした。

続いて、子どもの年齢を聞きました。

Q:ご自身のお子さまの学齢等を教えてください。4人以上のお子さまがいらっしゃる方は、ご年齢が高い1~3人目のお子さまについてお答えください(回答数1,125)

1人目の子どもの学齢は、「未就学児童」が最多で41%。続いて「小学生」が24%、3番目は「社会人(大学進学経験あり)」の9%でした。

2人目の子どもの学齢は、こちらも「未就学児童」がトップで42%でした。続いて「小学生」が25%、3番目は「社会人(大学進学経験あり)」の8%となりました。

3人目の子どもの学齢は、1人目・2人目同様に「未就学児童」が最多の46%で、続いて「小学生」25%、3番目が「社会人(大学進学経験あり)」8%でした。

2人目、3人目になるにつれて、「未就学児童」の比率が高くなりますが、1〜3番目に多いのはすべて「未就学児童」「小学生」「社会人(大学進学経験あり)」という結果でした。

それでは、この子どもたちはどのような受験を経験しているのでしょうか。1人目について、その他、答えたくないと回答した10人を除いた1,115人に聞きました。

Q:1人目のお子さまについて、幼稚園から高校までの間に受験をした経験はありますか(複数回答可、回答数1,115)

未就学児が全体の4割(463票)を占める中、「あてはまるものはない」が最も多い640票でした。それを除くと「中学校受験をした」が最多で224票でした。続いて「小学校受験をした」が142票、「幼稚園受験をした」が125票という結果でした。

高校生以上は全体の26%(289票)ですが、「高校受験をした」は111票であり、少数派であることがわかりました。

続いて2人目がいると回答した673人(その他、答えたくないと回答した5人を除く)に、同じく受験について聞きました

Q:2人目のお子さまについて、幼稚園から高校までの間に受験をした経験はありますか(複数回答可、回答数673)

1人目の子どもと同様に「あてはまるものはない」が最多で413票。それを除くと「中学校受験をした」がトップで139票でした。続いて「小学校受験をした」「幼稚園受験をした」が同数で61票という結果でした。「高校受験をした」は56票で、1人目と同じく少数派でした。

続いて3人目がいると回答した220人(その他、答えたくないと回答した2人を除く)に、同様の質問をしました。

Q:3人目のお子さまについて、幼稚園から高校までの間に受験をした経験はありますか(複数回答可、回答数220)

1人目、2人目と同様「あてはまるものはない」がトップで143票でした。これを除くと「中学校受験をした」が最多で33票で、「高校受験をした」が20票で続き、「幼稚園受験をした」18票、「小学校受験をした」16票という結果でした。

1人目から3人目まで「あてはまるものはない」が最多ですが、受験をしたと回答した中では「中学校受験をした」がすべてでトップとなっていました。早い段階で受験をした医師自身の経験が、反映された結果といえるでしょう。

医師の子どもは、3~4割強が医学部へ進学

早い受験を経験することの多い医師の子どもたちは、その後どのような大学に進んでいるのでしょうか。大学生以上の子どもがいると回答した方に、進学先や受験、学費について聞きました。

Q:「大学生」「大学院生」「社会人(大学進学経験あり)」のお子さまについて、大学進学先を教えてください(回答数185=1人目のお子さま/105=2人目のお子さま/34=3人目のお子さま)

1人目・2人目・3人目の子どもすべてで、「私立大学に進学(医学部以外)」がトップでした。続いて多いのは、1人目・2人目の子どもでは「国公立大学に進学(医学部)」、3人目の子どもでは「国公立大学に進学(医学部以外)」という結果でした。

医学部への進学は、1人目の子どもが約40%(国公立大学24%、私立大学14%、海外留学1%)、2人目の子どもが約43%(国公立大学23%、私立大学19%、海外留学1%)、3人目の子どもが約30%(国公立大学18%、私立大学12%、海外留学0%)でした。

医学部内で私立大学が占める比率を見ると、2人目の子どもが約44%で最も多く、3人目が約40%、1人目が約36%の順になっていました。

続いて、子どもの進学先を選択したのは主に誰の意思だったのか、聞きました。

Q:お子さまの大学進学先について、その進路をお選びになったのは、どなたのご意向が一番強かったですか(回答数179=1人目のお子さま/103=2人目のお子さま/34=3人目のお子さま)

1人目・2人目・3人目の子どもすべてで大多数が「お子さま(ご本人)」でした。

「親御さま(回答者さまご自身)」を見ると、1人目は6%、2人目は11%、3人目は9%となっており、1人目よりも2人目・3人目のほうが若干多い傾向が見られました。

続いて、受験のための勉強方法について聞きました。

Q:お子さまが大学進学先に入学するため、当時行っていた自主学習以外の勉強方法を教えてください(回答数179=1人目のお子さま/103=2人目のお子さま/34=3人目のお子さま)

1人目・2人目の子どもでは、「学習塾」が最多で、「予備校(医学部専門以外)」が続きました。3人目の子どもでは、「学校の授業のみ(補習含む)」が最多で、続いて「学習塾」、「予備校(医学部専門以外)」という結果となりました。

「予備校(医学部専門)」は、1人目の子どもが24人、2人目の子どもが10人、3人目の子どもが5人と少数でした。

学習塾や医学部専門以外の予備校、学校の授業のみが多く、その他が少ないという結果であり、前出の「回答者自身の勉強方法」と似た傾向であることがわかりました。

続いて、同じ回答者を対象に、子どもの大学学費について聞きました。

Q:お子さまの大学進学先について、年間にかかった学費を教えてください(回答数179=1人目のお子さま/103=2人目のお子さま/34=3人目のお子さま)

1人目・2人目・3人目ともに、「100万円未満」が最多でそれぞれ3割強の方が回答しました。「300万円以上」は1人目が19%、2人目が24%、3人目が18%となっており、2人目がやや多い傾向がありました。2人目は私立大学医学部へ進学する割合がやや高く、それを反映していると考えられます。

医師の子どもの進学先は「本人に任せたい」が多数派

全体の3~4割強が医学部へ進む医師の子どもたち。大学進学前の段階では、どのような進路を希望しているのでしょうか。

子ども本人、また親である医師はそれぞれどのように考えているのか、それぞれ聞きました。

Q:未就学児童~大学受験浪人生のお子さまがいらっしゃる方におうかがいいたします。「お子さま」がお考えになる「大学の進路希望」について教えてください(回答数921=1人目のお子さま/559=2人目のお子さま/185=3人目のお子さま)

子ども本人の進路希望は、1人目・2人目・3人目ともに「まだ決まっていない」が最多で、1人目68%、2人目71%、3人目81%でした。

希望がある子どもでは「国公立大学に進学を希望(医学部)」が共通で最多でした。同じく希望がある子どものうち、医学部進学(国公立、私立、海外合わせて)を希望する子どもの割合は、1人目約57%、2人目約49%、3人目約44%となっていました。

医師の子どもはまだ進路を決めていない人が多数派である一方、進路を決めている場合、医学部進学を希望している人の割合が高いことがわかりました。

それでは、親である医師はどのように考えているのでしょうか。

Q:未就学児童~大学受験浪人生のお子さまがいらっしゃる方におうかがいいたします。「回答者さまご自身」がお考えになる「お子さまの大学の進路」について教えてください(回答数921=1人目のお子さま/559=2人目のお子さま/185=3人目のお子さま)

1人目・2人目・3人目ともに「お子さまご本人に任せたい」が最多で、1人目64%、2人目67%、3人目73%でした。

希望を持っている中では「国公立大学に進学させたい(医学部)」が共通でトップでした。同じく希望を持っている中で、医学部進学(国公立、私立、海外合わせて)を希望する医師の割合は、1人目約57%、2人目約57%、3人目約43%となっていました。

希望がある人の中で比較すると、子ども自身と、親である医師の医学部志望は、1人目と3人目ではほぼ同等の割合である一方で、2人目では親が希望する割合がやや高いことがわかりました。

医学部進学希望の場合は9割以上が浪人も許容

医学部への進学は難関であり、誰もが現役合格できるわけではありません。浪人を経て進学する人も多い中、浪人生活は子ども本人、そして子どもを養う親に負担がかかります。

親である医師は、子どもの浪人についてどのように考えているのでしょうか。子どもが医学部進学を希望していると回答した医師に、浪人をどこまで許容できるのか、聞きました。

Q:「国公立大学・私立大学・海外留学」でお子さまが医学部進学をお考えになっている方におうかがいいたします。お子さまが大学受験で浪人するとなった場合、どの程度まで許容できますか(回答数201)

「1浪まで」が最多で41%、「2浪まで」が33%で続きました。「3浪まで」は9%で10%を下回りますが、同数の9%が「何浪してもかまわない」と答えました。

また「浪人は認めない」は7%であり、9割以上が浪人することを許容しているということがわかりました。

続いて、浪人を許容すると答えた方に、浪人時の勉強環境について聞きました。

Q:お子さまの医学部進学で、浪人を許容する人におうかがいいたします。「回答者さまご自身」がお考えになる、「浪人時のお子さまの勉強環境」を教えてください(複数回答可、回答数188)

「お子さま本人に任せる」が最多で89人、「予備校(医学部専門)」が58人、「予備校(医学部専門以外)」48人が続きました。「在宅(自主学習)」は9人、「家庭教師」は3人と少数でした。

半数近くは子どもに任せる方針である一方、予備校での勉強を想定する場合は、医学部専門予備校の割合が高いことがわかりました。

それでは、浪人生活にかかる費用についてどう考えているのでしょうか。浪人を許容すると答えた方に、浪人生活で許容できる金額について聞きました。
併せて、医学部進学を希望している子どもがいる方に、医学部の許容できる年間学費をうかがいました。

Q:次に挙げる「お子さまにかかる年間の学費・費用」について、「回答者さまご自身」が許容できる金額を教えてください(回答数201=医学部の年間学費、188=浪人生活の年間費用)

浪人生活、医学部で年間にかかる費用の許容額は共に「100万円〜200万円未満」が最多で、それぞれ44%、32%でした。

「300万円以上」を許容すると回答した方の割合は、浪人生活で11%、医学部で26%であり、医学部の学費のほうをより許容する傾向がありました。

浪人生活を送る場合、寮など、下宿をする選択肢もあります。浪人生活を許容すると答えた方に、下宿についての考えを聞きました。

Q:お子さまの医学部進学で、浪人を許容する人におうかがいいたします。下宿(寮生活等)して浪人生活を行うことについて、どのようにお感じになりますか(回答数188)

下宿を「問題なく認める」が40%、「抵抗はあるが認める」が33%という結果でした。両者を合わせると、7割以上の方が認めると回答したことになります。

下宿するとなれば、それだけ費用がかかります。下宿を認めると回答した方に、下宿する場合の許容額について聞きました。

Q:「下宿(寮生活等)して浪人生活」に年間でかかる費用について、「回答者さまご自身」が許容できる金額を教えてください(回答数137)

「100万円〜200万円未満」が最多で、49%の方が回答しました。続いて「200万円〜300万円未満」が21%、「100万円未満」が15%と続きました。

7割以上の方が、100万円以上を認めると回答したことになります。下宿、浪人を含めて親である医師の費用負担に対する寛容さが読み取れます。

子どもの大学進学先は本人に任せるが、医学部進学を希望する場合は応援

今回のアンケートでは、医師の子どもは早いうちから高い教育を受け、高い割合で医学部へ進学しますが、それは強要されたものではなく自分の意思で選択していると考えられる結果となりました。また、親である医師は、子どもが志望する場合には高い学費や浪人を許容するなど、寛容に支援する姿勢を見せていました。

職務の難しさや忙しさを体感している医師は、子どもに進路を強要することはできません。一方で、仕事のやりがいや収入の高さも同時に知っているため、子どもが志望する場合には全力で応援する心づもりであるようです。

本結果は、子を持つ医師にとって納得しやすい内容だったのではないでしょうか。親として、医師という職務の良い面、難しい面を隠さず伝えて、子どもの意思発達を見守りたいものです。

【アンケート概要】
調査期間:2023年12月12日~18日
対象:「民間医局」会員の医師
回答者数:1,562人(男性1,139人、女性377人、答えたくない46人)

執筆者:Dr.Ma
2006年に医師免許、2016年に医学博士を取得。大学院時代も含めて一貫して臨床に従事している。現在も整形外科専門医として急性期病院で年間150-200件の手術を執刀する。知識が専門領域に偏ることを実感し、医学知識と医療情勢の学び直し、リスキリングを目的に医療記事執筆を開始した。一般の方向けの医療解説と、医療関係者向けのコラムを主に担当し、これまでに執筆した医療記事は300を超える。

医師は、子どもに医学部進学を強要しないが、志望する場合は全力で支援 〜教育アンケート〜

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