アンケート記事

2024.02.15

2024年、医師の働き方の見通しは、「良い変化」よりも「悪い変化」が上回る 〜働き方改革アンケート〜

2024年4月より、医師の働き方改革の新制度がいよいよ始まります。医師たちは自身の働き方にどのような変化が起こる、または起き始めていると感じているのでしょうか。民間医局コネクトでは、医師の働き方についてアンケートを実施。2,134名の医師から回答を得られました。医師たちは働き方改革による具体的な変化を見通し、さまざまな受け止め方をしていることがわかりました。

[サマリー]
・勤務先から働き方改革の説明を受けた医師は、半数以下
・働き方改革の説明は上司の医師、事務担当から受けることが多い
・説明を受けた医師の半数は納得しているが、納得していない医師も17%
・来年度の勤務内容の見通しについて「変化がある」と答えた医師は、良い変化よりも悪い変化があると考えている
・働き方改革による良い変化は連続長時間勤務の減少など勤務時間に関する意見が最多
・働き方改革による悪い変化は給料の減少と、実質当直の宿直・実質勤務の自己研鑽など、サービス残業の増加
・アルバイトを増やす見通しの医師は、減らす医師よりも多い
・アルバイトをしない、減らす理由は「勤務先や医局からの禁止」が最多
・働き方改革の受け止め方は「どちらともいえない」、「良いこと」、「良いことだと思わない」の順に多いが、意見が分かれている

勤務先から説明を受けた医師は、全体の50%以下

はじめに、医師の働き方改革について、勤務先の対応や説明、納得度について聞きました。

Q:医師の働き方改革にあたり、現在の勤務先の対応についておうかがいいたします。 来年度のご自身の処遇の説明について、あてはまるものをお選びください(回答数2,134)

「まだ説明はなく、今後も受けるか不明」が最も多く、50%を超えていました。「しっかりした説明を受けた」は11%、「簡単な説明を受けた」は28%という結果になりました。アンケート実施時点(2023年11月)では、多くの医師が説明を受けていないか、受けていたとしても簡単な説明にとどまっていることがわかりました。

次に、「しっかりした説明を受けた」「簡単な説明を受けた」と回答した医師822人に、誰から説明を受けたのか聞きました。

Q:来年度のご自身の処遇について、どなたから説明を受けましたか(回答数822)

「上司(医師)」「事務部門担当者」から説明を受けた人が最も多く、共に38%でした。次いで「院長」18%、「理事長」が5%という結果でした。

説明を受けた医師は、その内容にどの程度納得できたのでしょうか。続けて聞きました。

Q:勤務先での来年度の処遇の説明内容について、ご自身はどの程度納得しましたか(回答数822)

「とても納得した」11%、「やや納得した」38%と、説明を受けた医師のうちおよそ50%が納得していると回答しました。一方で「どちらともいえない」と答えた医師が35%、「あまり納得していない」12%、「まったく納得していない」と回答した医師も4%いました。

来年度の勤務内容の見通しは、「良い変化」よりも「悪い変化」が上回る

医師の働き方改革により、来年度から医師の勤務内容にどのような変化が起きるのでしょうか。「勤務時間」「勤務日数」「宿直・日直」「給与」「外勤・アルバイト」「自己研鑽」に起きる変化について、「良い変化がある」「変化はあるが良くも悪くもない」「悪い変化がある」「変化なし」「まだわからない」の中からあてはまるものを1つ選んでいただきました。

Q:勤務先での来年度の勤務内容について、ご自身にあてはまるものをそれぞれお選びください(単一回答マトリクス、回答数2,134)

すべての項目で「変化なし」の回答が最多であり、「まだわからない」と合わせて大半となりました。

変化があると答えた医師では、「良い変化がある」よりも「悪い変化がある」の回答が多く、「良い変化がある」と「悪い変化がある」の回答率を比較すると、すべての項目で「悪い変化がある」が約1.5倍以上となっていました。

「良い変化がある」の回答率が高い項目は「勤務時間」が6.7%で最多、「宿直・日直」の5.6%、「勤務日数」の5.2%の順となりました。拘束時間が減ることを良い変化と捉えている傾向がうかがえます。

一方で、「悪い変化がある」の回答率が最も高い項目は「給与」の17.9%でした。「外勤・アルバイト」の17.0%、「自己研鑽」の14.1%が続きます。収入に対して、悪い変化が起こると考えていることが読み取れます。

続いて「良い変化がある」と答えた医師は、どの項目で最も良い変化があると感じているのか、質問しました。

Q:お選びいただいた「良い変化」の中で、最も良い変化を1つだけお選びください(回答数335)

最も良い変化があるのは「勤務時間」がトップで、4人に1人が回答しました。次いで「給与」、「宿直・日直」の順となりました。

では、「悪い変化がある」と答えた医師は、どの項目で最も悪い変化があると感じているのでしょうか。

Q:お選びいただいた「悪い変化」の中で、最も悪い変化を1つだけお選びください(回答数723)

最も悪い変化があるのは「給与」がトップで、30%の医師が回答しました。続いて「外勤・アルバイト」が26%、「宿直・日直」と「自己研鑽」が共に16%となりました。

実際の勤務時間は変わらないのに、給料が下がる可能性も

では各項目でどのような「最も良い変化」「最も悪い変化」が起きる(起きた)と感じているのでしょうか。具体的に見ていきましょう。

「最も良い変化」に対しては、時間外労働の減少や連続長時間勤務がなくなること、曖昧だった時間外手当が明確になること、宿直・日直回数の減少、自己研鑽のための時間確保などに意見が寄せられました。

「最も悪い変化」のほうでは、勤務時間に制限がかかり時間外労働や外勤・アルバイトが減ることで給与が減少すること、名目上宿直であっても実質当直となっていること、自己研鑽の定義が曖昧で時間外労働も自己研鑽とされてしまうことなどが挙げられました。

Q:最も良い変化の内容について、その詳細を教えてください(自由記述式)※一部抜粋

・[勤務時間]当直明けは13時までには帰れるようになった(循環器内科、40代)
・[勤務時間」勤務終了後に帰りやすくなった。患者からのICを断りやすくなった(産婦人科、30代)
・[勤務時間」勤務時間をフレキシブルに決められるようになった(皮膚科、50代)
・[勤務時間」勤務時間内に会議が行われるようになった(小児科、20代)
・[給与」時間外手当の申請がしやすくなった(循環器内科、30代)
・[給与」時間外手当が出るようになりそう(放射線科、20代)
・[宿直・日直」回数が厳格に守られるようになった(麻酔科、40代)
・[宿直・日直」オンコール体制に移行(放射線科、40代)
・[勤務日数」有休が取りやすくなった(代謝内科、20代)
・[自己研鑽」症例報告やケースシリーズに本格的に取り組めそうで、学位に一歩近づける(30代)

Q:最も悪い変化の内容について、その詳細を教えてください(自由記述式)※一部抜粋

・[給与」時間外手当が給与の約半分を占めており、時間外労働が減ることにより給与が減る可能性が高い(循環器内科、30代)
・[給与」実情の勤務時間は変わらないと思うが、記入できる時間外が減り、給料は下がる(消化器外科、30代)
・[給与」休日出勤した分の代休を取らなくてはならないため、超過勤務代が出なくなった(放射線科、30代)
・[外勤・アルバイト」いちいち本院にアルバイト先を報告する必要が出てきた(放射線科、30代)
・[外勤・アルバイト」時間制限がかかり、アルバイトに行けなくなる(病理学、30代)
・[外勤・アルバイト」外勤の時間が制限されて全体の給与が下がる(外科、40代)
・[宿直・日直」宿日直許可を取得したおかげで、翌日朝帰りができなくなってしまった。その上、当直中も救急車搬入を強制されるため、なんちゃって宿日直業務となっている(外科、30代)
・[宿直・日直」医局の人員を考えると日当直を回せなくなる可能性あり(小児科、40代)
・[自己研鑽」定義が不明瞭(腎臓科、20代)
・[自己研鑽」学会発表なども医局都合であっても自己研鑽。患者の手術のための予習も自己研鑽(整形外科、30代)

副業を含めた所得の減少は、すでに起きている

働き方改革の準備期間である現在、医師はどのような変化を感じているのでしょうか。同僚や自分に実際に起きていること、今後起こると考えていることについて、勤務時間や日数、外勤やアルバイト、給与や業務負担等に関する項目にあてはまるものを選んでいただきました。

Q:「同僚から聞いていること」「勤務先で実際に起こっていること」「ご自身が今後起こると考えていること」について、それぞれあてはまるものをお選びください(回答数2,134)

「特になし」を除き、3項目の合計で最多の回答となったのは「副業を含めた所得の減少」でした。「サービス残業の増加」と「外勤の減少」が次いで多い回答となりました。

「同僚から聞いていること」では、「外勤の減少」が最も多く383票、「勤務先で実際に起こっていること」では、「業務体制の変更」372票、「サービス残業の増加」345票、「全体的な業務負担の増加」343票となりました。「ご自身が今後起こると考えていること」では、「副業を含めた所得の減少」が679票で最多でした。

全体を見ると、「サービス残業の増加」や「外勤の減少」、「個人的なアルバイトの禁止」などにより、「副業を含めた所得の減少」が起きている(起こると考えている)という傾向がみられます。

アルバイトを増やす見通しの医師は、減らす医師よりも多い

これまでの質問で、医師の働き方改革は外勤やアルバイトに影響を与えることがわかってきました。そこで現在、または来年度のアルバイトについて伺いました。

Q:現在および来年度のアルバイトについて、ご自身にあてはまるものをお選びください(回答数2,134)

74%の医師が、現在アルバイトをしていると回答しました。来年度の見通しについては、「現在アルバイトをしていて、来年度も回数は変えない」が最多で45%でした。

一方、「現在アルバイトをしており、来年度は回数を増やす」と回答した医師は14%で「現在アルバイトをしており、来年度は回数を減らす」よりも多い結果となりました。また、「現在アルバイトをしていないが、来年度はする」と回答した医師は、「現在アルバイトをしているが、来年度はしない」と回答した医師よりも2倍以上多いという結果でした。

以上の結果から、現在アルバイトをしている医師は、そのままの回数で継続するか、やや増やす傾向にあると言えそうです。

そこで、アルバイトを減らす、中止する、始めないと回答した医師にはどのような事情があるのか、質問しました。

Q:前問で「来年度はアルバイトの回数を減らす」もしくは「来年度は(も)アルバイトをしない」とお答えいただいた理由を教えてください(複数回答可、回答数728)

来年度アルバイトをしない・減らす理由は「勤務先・医局からの禁止」が最多で216票でした。次いで「プライベートな事情で困難なため」「勤務先の業務に集中するため」が共に142票となりました。「労働時間の上限に達するため」も104票を集めました。

「勤務先医療機関の給与が増えたため」は「その他」と並んで最下位の20票でした。

医師の働き方改革が始まると、アルバイトの労働時間についても勤務先で把握されることになります。そこで、アルバイトの申告方法について聞きました。

Q:アルバイトの自己申告について、現在の勤務先で行う具体的な方法を教えてください(回答数2,134)

「常勤先で用意された勤怠システムに入力する」が36%で最多でした。
一方「カレンダーツール等の出力機能を利用する」「自身でExcel等にまとめたものを利用する」も16%、14%と一定の割合を占めていました。

働き方改革の受け止め方は、意見が分かれる

医師の働き方改革がもたらす具体的な影響や変化を見てきましたが、医師たちは働き方改革全体をどの程度良いと感じているのでしょうか。また、今後の転職やアルバイト探しにどのように影響するのでしょうか。それぞれ伺いました。

Q:「医師の働き方改革」が進むことは、ご自身にとってどの程度良いことだと思いますか(回答数2,134)

「どちらともいえない」が約39%で最多でした。

良い・悪いの「回答を見ると、とても良いことだと思う」「まあ良いことだと思う」の合計が35%、「まったく良いことだと思わない」「あまり良いことだと思わない」の合計が26%であり、良いことと受け止める意見が多い傾向がありました。

ただし、「とても良いことだと思う」と「まったく良いことだと思わない」を比べると、前者が7%で後者が10%で、否定的な受け止め方が若干優勢であり、意見が分かれる結果となりました。

Q:今後、ご自身は現在の勤務先で勤務を続けますか。また転職についてのお考えや状況について教えてください(回答数2,134)

転職の意向については、「来年度も現在の勤務先で勤務し、転職も考えていない」が42%で最多でした。

しかし、「来年度も現在の勤務先で勤務するが、状況次第で転職を考える」34%、「現在転職を考えているが、まだ動いていない」10%、「現在転職活動をしている」6%、「すでに転職先が決まっている」7%となっており、50%以上の医師が転職を考える余地があったり、すでに転職へ動いたりしていると回答しました。

医師の働き方改革は、目の前に迫っている

医師たちは、2024年4月から始まる医師の働き方改革により起こる(または起き始めている)変化を、すでに具体的に感じたり、考えていたりすることがわかりました。

今回のアンケートでは「良い変化」よりも「悪い変化」を見通している医師が多い傾向となりましたが、その一方で働き方改革全体については「どちらともいえない」「良いこと」「良いことだと思わない」の順に意見が分かれました。

医師たちは、働き方改革のメリット、デメリットと課題を感じながらも、働き方改革の必要性については認識せざるをえない、という状況にあると言えそうです。

 

【アンケート概要】
調査期間:2023年11月16日~22日
対象:「民間医局」会員の医師、研修医、医学生
回答者数:2,134人(男性1,603人、女性464人、答えたくない67人)

執筆者:Dr.Ma
2006年に医師免許、2016年に医学博士を取得。大学院時代も含めて一貫して臨床に従事している。現在も整形外科専門医として急性期病院で年間150-200件の手術を執刀する。知識が専門領域に偏ることを実感し、医学知識と医療情勢の学び直し、リスキリングを目的に医療記事執筆を開始した。一般の方向けの医療解説と、医療関係者向けのコラムを主に担当し、これまでに執筆した医療記事は300を超える。

2024年、医師の働き方の見通しは、「良い変化」よりも「悪い変化」が上回る 〜働き方改革アンケート〜

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