記事・インタビュー
民間医局コネクトは9月9日、「現役レジがライブ討論 研修生活を『楽』にするヒント」と題して特別セミナーを開きました。セミナーに先立ち、初期研修医320人にアンケートを実施しました。セミナーではその結果を踏まえながら、研修医の皆さんが討論をしました。
セミナー講師に亀田総合病院・呼吸器内科主任部長の中島啓先生を迎え、今年度のセミナーにパネリストとして参加する研修医2年目の市立池田病院の松下武史先生、研修医1年目の飯塚病院の伊藤駿先生、近江八幡市立総合医療センターの草野侑嗣先生、足利赤十字病院の山田隆斗先生が語り合いました。ファシリテーターは藤田医科大学/総合診療プログラム専攻医の西村涼先生に務めてもらいました。この記事では、アンケートの結果をセミナーの様子も交えて紹介します。
7割以上の人が研修先に満足 給与・待遇への不満がやや多い傾向
アンケートは8月、民間医局に会員登録している初期研修医320人にオンラインで聞きました。回答者の内訳は1年目が60%、2年目が40%で、研修先は市中病院が75%、大学病院が25%でした。
Q. 初期研修の満足度を教えてください
まず、現在の研修先に対する満足度を聞きました。半数以上の53.4%が「やや満足」と回答しました。「満足」(21.9%)という人も含め7割以上の人が研修先に満足していることがわかりました。一方で、「不満」(1.3%)や「やや不満」(6.3%)と感じている人もいました。
研修先に対する満足度を5つの視点からもう少し詳しく聞きました。研修先の「指導体制」や「経験できる症例」については、「やや満足」も含めると7割以上の人が満足していることがわかりました。
Q. 自院の研修について教えてください
職場の雰囲気に大きく影響する「人間関係/雰囲気」や「ワークライフバランス」については、8割以上の人が「満足」か「やや満足」と高く評価しており、研修生活が充実していることがうかがえました。給与などの待遇についても6割以上の人が「満足」か「やや満足」と回答しているものの、「やや不満」「不満」と答える人も2割超を占めました。
Q. ご自身の今の状態はいかがでしょうか?
回答者自身の状態について聞きました。6割以上が「非常に楽しい」「楽しい」と回答。24.4%が「なんともいえない」とし、11%の人が「少しつらい」「つらい」と感じていました。
パネリストたちも時間の使い方やモチベーション維持に悩み
セミナーでは、参加したパネリストたちにも研修先での悩みを聞きました。
草野先生は「時間の使い方で悩みます。空いている時間に何をすべきか、また睡眠時間をどう確保したらいいのか考えます」と教えてくれました。時間の使い方が学生時代とは大きく違う様子がうかがえました。
研修医2年目の松下先生は「僕は勉強に対するモチベーションの維持に悩みます。時間がないかと問われれば、実は勉強する時間が山ほどあったなぁと思うと『あれをやっておけばよかったな』と今になって思うことがあります」と振り返りました。
伊藤先生は「ローテ先の各診療科を長く担当している看護師さんの立場になってみれば、自分はまだ研修医1年目でなかなか至らないところがあるのだろうなと感じることがあります」といいます。山田先生は「研修先に満足しています。人間関係はとてもよく、同期と自然とディスカッションできています」と充実した様子を教えてくれました。
中島啓先生が研修医だったのは18年前のこと。「相談しにくい先生もいましたね。当時、特定の月だけですが、当直を月に15回くらいしたことがありました。それがつらかったですね」と振り返りました。研修医の先生たちからは、「2日に一度のペースで当直に入っていたら、寝られずに帰って寝て、寝られずに帰って寝て当直に入る感じですね」と驚きの声が上がっていました。
研修の悩みは「自己研鑽」という名の業務や相談しにくい指導医との関係…
Q. 研修の悩みがあれば教えてください
研修先でどんな悩みを抱えているのか、自由回答で聞きました。いくつか紹介します。
【経験に関する悩み】
・手技はやらせてもらえるが、なかなか成功できず、自己肯定感が下がり気味です
・指導医が殆どおらず放置されていることが多いこと
・志望科以外のローテがつらい
・1-2ヶ月ごとに科が変わって、その都度転職している感覚になってしんどい
・何も教えてもらえないのに医師としての対応を求められる
・もう4ヶ月経つが、これからも医師としてやっていけるか、不安になる
・当直の時に上級医に帰宅させといてと言われたが、入院させた方が良い症例だと思った時の対応が難しい
・頭が追いつかない
・今はどちらかというと緩すぎる気がしている。研修医の裁量の低さのために「何をしていいのか」分からず、結局積極的に診療に関われていない気がしている
・ロールモデルになる指導医がいない
・裁量権がどこまで与えられているかわかりにくい。どれくらいのラインの医療行為から上級医に確認をとったほうがいいのかわからない
・研修医はほぼ雑用係、患者の治療に積極的に関われない、手技もあまりできない
・後輩に満足に教えることができない。教えるタイミングで自分の技量不足を痛感する
・この先医師をやっていけるか不安になる。
経験が十分ではない中で、医師としての対応を求められることへの不安があったり、逆に積極的に診療に関われなかったりすることから不安を抱えていることがわかります。
【お金に関する悩み】
・給与が低いこと
・時間外に参加必須のカンファなどがあるのに、時間外手当が出ない
・残業時間も既定で決まっているので、どれだけ働いても給与に反映されない
・とにかく給与が安い。時間外がすべて自己研鑽
・医師の働き方改革の影響で、時間外を削るよう指示があり、その中でも症例発表や勉強会の準備はするように、しかし時間外ではやらないようにとのことで、実質自己研鑽という形でサービス残業に近い形でやらされている
「自己研鑽」という名目で、給与に反映されない業務があることへの不満が複数寄せられました。
【時間に関する悩み】
・忙しいためなかなか自分の時間が取れない
・医療書物を読む時間がない
・自己研鑽という名目の業務が多い
・科によって忙しさが異なり、生活リズムを整えるのが難しいときがある
・病棟仕事・手技はたくさん経験できているが、その分休みの確保などで不満が大きい
忙しく業務を終えて帰宅しても、なかなか自分で学ぶ時間が確保できないことを不安に感じる人が多いようした。一方で、回る診療科目によっては、「暇すぎる」という声もあり、科目や施設によって差があるようです。
【人間関係に関する悩み】
・指導医に質問がしにくい。
・指導医の圧が強く、コミュニケーションの障壁が高いことがある。
・怖い上級医に相談しづらい。
・指導医に指導していただくためにはどうすればいいかわからない
・同期の仲が悪い
・2年目の先生や同期に苦手な人がいると、働く上では意外としんどい。みんなが成長していて、自分が置いていかれている気がする
・他の職種の人から研修医への当りが強い
指導医ら上級医との関係に悩む声が複数ありました。また、同期との関係やモチベーションに差があることを悩む声もありました。
研修生活を快適にするための工夫「他の職種の人に丁寧に対応する」「挨拶は必ずする」「質問をする」
Q. 研修生活を快適にするために意識・工夫していることがあれば教えてください
研修生活を送るうえで、心がけていることについても聞きました。
【研修先での工夫】
・特に救急部・救急科の看護師さんの名前は覚えている。お待たせする場合には患者さんやご家族に現在の進捗状況をお伝えするようにしている
・先生方に話しかけるようにしている
・他職種とご飯に行く
・手技は事前に勉強し、機会があれば積極的にやらせて貰えるように事前に上級医につたえておく。「報告、連絡、相談」は逐一する
・病棟の雰囲気やルールを感じ取ってコミュニケーションを円滑にする
・定時までに自分の仕事やレポートを終わらせるように心掛けています
・研修医室に閉じ籠らず、病棟になるべくはりついておく
・自分に今できることが何かということをよく考えている
・その日に学んだことを記録するノートを作っている
・コメディカルとのコミュニケーションを大事にする。特に上から目線にならない、常に敬語を使う、常に感謝を忘れない、など気をつけている
・出来るだけ知識を吸収できるよう上級医に質問や話をするようにしている
・できるだけカルテのショートカット用の文例登録を行う
【生活面での工夫】
・休日は趣味に勤しむ
・睡眠時間は何よりも優先するなど、身体がしんどくならないようにしています
・休日はすべて忘れること
・プライベートも充実させる
アンケートでは指導医や上級医だけでなく、患者さんや他職種の人に丁寧に対応しようと心がけている人が多くいました。失敗に対しては素直に謝罪し、なるべく病棟に身を置いて多くのことを吸収しようと心がけている人が多いようです。また、その日に学んだことを忘れないよう、ノートやアプリにまとめている人も多くいました。
仕事が終わった後や休日には、なるべく趣味に時間を割くなど、研修とメリハリをつけようとする人が多くいました。睡眠時間を確保したり、悩みを抱え込まないようにしたりと体調管理に気を配る人もいました。研修生活の中で、失敗したり、指導医から注意を受けたりすることも多い中で、少しでも多くのことを吸収しようと、自分と関わる医師やコメディカルの人たちの名前を覚え、ローテ先の業務についてあらかじめ確認しておくなど、医師として成長できるよう努めている様子が伝わってきました。
パネリストたちのコツは? やることリストの作成、看護師さんの名前を覚える、投資にも関心
研修生活を充実させるためにパネリストたちがどんなことをしているのかを聞きました。研修医2年目の松下先生は「机の前に大きな付箋を貼ってやることリストをすべて書き出して、終わったら消すようにしています。手技については、研修医同士で引き継ぎ資料を作っています。そこで各科でどんな手技が学べるのかを共有しているので、各科のローテ前にその資料を確認するようにしています。また、ローテ前にその科でどんな手技をするのかがわかると、YouTube動画を見て予習するようにしています」と教えてくれました。
山田先生は「自炊できる時は自炊するなど節約しながら、投資をしています」と教えてくれました。伊藤先生は「同期は18人いますが、いい関係を保つよう心がけています。同期と仲良くしておくことで研修生活も充実できると思います」と話しました。中島先生は研修医時代、看護師さんの名前を必ず覚えて名前で呼ぶようにしていたそうです。
Q. 自己学習・自己研鑽で抱えている悩みはありますか?
自己学習や自己研鑽をするうえでの悩みについて聞きました(複数回答可)。多かったのは「覚える量・勉強する量が多い」(45.3%)、勉強をしなければいけないものの、学生の頃とは違い「勉強する時間を確保するのが難しい」(43.1%)という悩みでした。「研修するのが精一杯で体力が持たない」(35.6%)、「優先順位の付け方・どこから手を付けたらよいかわからない」(33.1%)と、忙しい研修生活を送る中で、膨大な量の勉強をしなければいけないことに対して悩んでいることがうかがえます。
さらに、「勉強方法がわからない」(32.5%)、「学んだことをまとめる方法」(26.9%)と勉強の方法について模索している人もいました。
苦手なスキルは心電図、エコー、読影
Q. 苦手な手技・スキルがあれば教えてください
アンケートでは苦手な手技やスキルについても聞きました(複数選択可)。特に多かったのは、エコー、読影、心電図でいずれも半数以上の人が苦手だと感じていました。続いてCV穿刺(40.6%)、挿管(31.3%)、縫合とルート確保(ともに21.3%)という結果でした。
パネリストたちもやはりエコーや読影は苦手なようでした。松下先生は「エコーはやろうと思ったら救急外来で試せるけれど、フィードバックを受けられるタイミングにしないとやっていても果たして正しいのかどうか不安になる」といいます。専攻医の西村先生はアンケート結果を見ながら、「エコーや読影、心電図はいずれもそうですが、正しい所見がとれているかどうか不安になりますよね」話しました。
中島先生「自分だけのまとめノートは、今も指導に活かしている」
アンケートでは、苦手分野を克服するためのコツについても聞きました。
・おすすめの本を読む
・動画を見て学ぶ
・積極的に手技を実践させてもらう
・検査技師さんにエコーを教えてもらいにいく
・コネクトセミナーなどセミナーに参加する
などという声がありました。
草野先生は「わからないことがあった時はUpToDateを見て確認しますが、考え方などがわからない場合には各科の専門医の先生のところに行って質問する際に『何で勉強したらいいですか』と聞くようにしています」といいます。
中島先生は、研修医時代から今もEvernoteに自分用のマニュアルを作っているそうです。「今でもこのノートを基に指導しています。自分だけのまとめノートを作ることはお勧めです」と教えてくれました。論文執筆にも意欲的な中島先生だからこそのルーティンとして、最新の情報をインプットするためにPubMedから呼吸器関連の論文を曜日ごとに「COPD」「喘息」などとテーマ設定して届くようにしておき、論文をまとめて確認しているそうです。
また、医学部生から「学生時代のうちにしておいた方がいいこととは何ですか?」という質問に対して、松下先生は「遊びはもちろん、趣味や勉強などでまとまった時間をとってしたいことは学生のうちにしておくといい」と答えました。中島先生が学生時代にもっとしておけばよかったと思うことは語学学習だったそうです。現在、海外の医師とやりとりすることが多くなったこともあり、毎朝、オンライン英会話をしているそうです。
中島先生は「アンケート結果を見ると、皆さんが抱える悩みは18年前に僕が研修医として経験したことと同じだなと思います。ただ、勉強に関してはセミナーなども使えるものをうまく使ってください」と医学部生や研修医に語り掛けました。
ファシリテーターを務めた専攻医の西村涼先生は、「初期研修が終われば、起業やアルバイトができます。将来や給与、キャリアなどの悩みもあるかもしれませんが、皆さんのキャリアは無限大です。同じ医療の現場で働く仲間と一緒に前に進んで欲しい」と激励しました。
民間医局コネクトは今年8月でサイト開設から3年を迎えました。研修医の皆さんが医師として成長することを応援しようと日々、コンテンツ作りをしています。3周年を迎えるにあたり、少しでも研修生活を充実させ、悩みがあれば解決の糸口をつかんでもらおうと、特別セミナーを企画しました。
アンケートに回答してくださった研修医の皆さん、ご協力くださりありがとうございました。また、特別セミナー開催のためにお集まりいただいた亀田総合病院・呼吸器内科主任部長の中島啓先生、ファシリテーターを務めてくださった専攻医の西村涼先生、研修医2年目の松下武史先生、研修医1年目の伊藤駿先生、草野侑嗣先生、山田隆斗先生、ご協力ありがとうございました。
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