アンケート記事

2023.07.07

勤務医に開業・事業承継への関心を聞く ハードルは経営や患者確保への不安 ~「開業・事業承継」アンケート~


勤務医は開業することへのメリット・デメリットについてどのように考えているのでしょうか。民間医局コネクトは、「民間医局」の会員である医師に「開業・事業承継」についてアンケートを実施しました。勤務医の7割以上が開業に関心があり、地域医療への貢献のほか、労働環境や収入面でメリットを感じている人が多いことがわかりました。一方で、経営維持や開業資金の借り入れについての不安の声も多数寄せられました。昨今、注目されている事業承継についても聞きました。

勤務医の7割以上が開業に関心 魅力は地域医療への貢献や労働環境の良さ

民間医局コネクトでは、民間医局登録の医師に「開業・事業承継」に関するアンケートをオンラインで実施しました。

まず、開業に対する関心について聞きました。現在開業医であると回答した14人を除いた308人のうち、約2割にあたる58人が今後開業するつもりで考えていると回答しました。開業予定はないが興味はあると答えた人を含めると、7割近い人が開業することに関心があることがわかりました。

Q:将来、医師として開業することについて、先生ご自身に当てはまるものを教えてください。(回答数322)

「現在開業医である」「今後開業するつもりで考えている」「開業予定はないが、興味はある」と回答した235人に対し、開業を考える理由について尋ねました(複数回答可)。最も多かったのは「患者さんの近くで『かかりつけ医』として地域医療に関われるやりがい」で約4割にあたる105人が回答しました。以下、「勤務医よりも収入が高い」が94人(40%)、「開業して事業主として経営に携われる」が89人(38%)と続きます。かかりつけ医として地域医療に貢献したり、経営者として携われたりする「やりがい」の面でポジティブにとらえている医師が多いことがうかがえます。

さらに、「診療時間や休診日がはっきりしていて、勤務医より労働環境がいい」と考える人が84人(38%)、「仕事以外の時間が取りやすい」が67人(29%)、「転勤や異動がない」が54人(23%)、「勤務医よりも精神的なストレスが少なそう」が39人(17%)と、開業医になることは、働く環境の面でも魅力的だと考えている人も一定数いました。

Q:開業医になることを考えた理由は、どんな点ですか?(回答数235、複数回答可)

開業医になる一番のメリットを具体的に何だと思うか、自由記述形式でたずねました。

「自分の労働成果がきちんと収入に反映されること」(糖尿病科・30代)
「自分の診療方針がたてられる」(産婦人科・30代)
「病院の経営者として自分の意思で行動できる」(リウマチ科・40代)

といった、収入面や自身の裁量の広さについての回答が目立ちました。

また、

「自分の理想の医療を実現できる」(消化器外科・40代)
「地域の子ども達の健康の支援ができること」(小児科)

など、自分の理想の医療が実現できることや、患者さんとの深い関わり・地域貢献などへのやりがいを挙げる声もありました。

その他には、

「好きなように診療時間をコントロールできる、医師間の気遣い不要」(呼吸器内科・30代)
「煩わしい人間関係からの解放」(小児科・30代)
「緊急呼び出しがないこと」(消化器外科・30代)
「当直勤務がないこと」(内科・20代)
「定年退職がないこと」(その他・40代)

といった、勤務時間や働き方、人間関係など、さまざまなしがらみから解放されることをメリットと考えている医師もいました。

開業へのハードルは経営や開業資金の借り入れ、院長としての精神的な負担

開業医になることのデメリットについても聞きました(複数回答可)。
最も多かったのは「経営を維持できるかどうか不安」(172人)で、次いで「開業資金を借り入れることへの不安」(169人)、「院長・経営者としての精神的なストレス」(159人)でした。いずれも5割前後の回答を集めており、経営者としてリスクを負うことへの不安が上位を占めるという結果となりました。

また、「事業の計画や税金などの手続き面への負担」(115人)、「レセプト作成やスタッフ採用など、診療以外の仕事への負担」(111人)など、勤務医時代とは異なり経営者として診療以外でもやるべきことが多いことをハードルととらえている医師も3割以上いることがわかります。

その他には、「仕事以外の時間が取りづらそう」(87人)、「勤務医よりも患者とのやりとりが煩雑になりそう」(86人)、「自分の医療水準の維持への不安」(80人)、「自分の診療科以外の疾患を知る機会が減る」(22人)、「開業した同僚が苦労している」(20人)という人もいました。

Q:開業医になることについて、デメリットとして考えるのはどんな点ですか?(回答数322、複数回答可)

開業医になるうえで、一番ハードルになることについても自由記述形式で聞きました。

「赤字で倒産もありえること」(消化器内科・60代)
「開業後早期に安定した収入が築けるか」(消化器外科・40代)
「最初の借金額が大きくなること」(産業医・20代)

など、莫大な初期費用がかかることなど、金銭面でのリスクを不安視する回答が多く寄せられました。

また、

「開業と経営のノウハウがないこと」(緩和ケア科・40代)
「従業員の生活も背負って経営しないといけない」(透析科・30代)
「安定した患者数を抱えることができるか」(消化器内科・30代)

といった回答からは、自身の経営力や経営者として負うべき責任やリスク、患者の確保(集客)について不安に感じている様子がうかがえます。

その他には、

「スタッフの管理」(産婦人科・30代)
「医学医療以外の負担が増える」(放射線科・40代)
「専門性の高い分野の勤務医をしているので、ジェネラルに診療できるかが不安」(放射線科・40代)
「市町村医師会で波風を立てずに開業の同意を得ること」(糖尿病科・30代)

など、医学医療以外で負担が増えることや医療レベルの維持、地元医師会との関係を懸念する声などがありました。

第三者承継は初期費用を抑えられるものの 患者の確保やトラブルへの不安も

後継者がいない病院を承継して、開業医になる「第三者継承」についての考えを聞きました。「病院を承継して開業医になることに興味がある」は48%、「興味はない」は49%と、回答が半々に分かれるという結果になりました。

Q:病院を承継して開業医になることについて、先生ご自身に当てはまるものを教えてください。(回答数322)

自身で一から開業することに比べて、第三者から承継をすることのメリットについても尋ねました(複数回答可)。最も多くの回答を集めたのは「承継元の患者を引き継げる」が217人(67%)で、以下「設備導入などの初期費用が抑えられる」が214人(66%)、「開院する場所などを探す必要がない」が192人(60%)と続きます。また、「スタッフを確保する必要がない」は143人(44%)、「承継元が培ってきた信頼を引き継げる」は127人(39%)、「税金面での優遇がある」は40人(12%)がメリットだと考えていることがわかりました。

Q:自身で一から開業することに比べ、第三者から承継をするメリットは何だと思いますか。(回答数322、複数回答可)

第三者承継を行う場合の心配な点と、その不安を解消されれば承継することを前向きに考えられる点についても聞きました(複数回答可)。

心配な点と、その心配ごとが解消されれば承継を前向きに考えられる点の両方で特に多くの回答を集めたのは、「承継元が抱えているトラブルがないかどうか」と「すでにいるスタッフとの人間関係の構築」でした。患者とのトラブルやスタッフとの人間関係など、人間関係構築に対して不安を抱えている医師が多いことがうかがえます。

また、「承継後に安定的に外来患者が確保できるかどうか」「安定的な月収があるかどうか」「事業承継する譲受費用の捻出」「事業主として、経営手腕が問われること」といった項目も、いずれも3~4割ほどの医師が選択しています。経営面での不安も第三者継承の懸念材料となっていることがわかりました。

Q:自身が第三者承継を行う場合の心配点と、解消されれば前向きに考えられる点。(回答数322、複数回答可)

具体的に事業承継の依頼があった場合、詳しい内容を聞いてみたいかという質問に対しては「はい」が29%、「いいえ」が66%と、圧倒的に「いいえ」が上回るという結果となりました。先の質問では、第三者継承について48%が「興味はある」と回答しているものの、実際に引き受けることについて一歩踏み出してみるという人は少ないようです。

まとめ:開業には7割が関心を持つものの借り入れのリスクや経営面で不安も

今回のアンケートでは、勤務医の7割以上が開業に関心を持っていることがわかりました。開業することで地域医療への貢献ができることに加えて、収入面やワークライフバランスの面で勤務医よりも良い待遇を期待している人が多いことがうかがえました。一方で、経営維持や開業資金の借り入れ、患者の確保などに対してハードルに感じているようです。

その点、病院を承継して開業医になる「第三者継承」は、継承元の患者を引き継げることや設備導入などの初期費用が抑えられることがメリットです。しかし、実際に引き受けることについて具体的に話を聞いてみたいという医師は3割程度にとどまりました。

【アンケートの概要】
調査期間:2023年6月8日
対象:「民間医局」会員の医師
回答者数:322人

回答を寄せていただいた医師の年齢や診療科目の内訳は、以下の通りです。

勤務医に開業・事業承継への関心を聞く ハードルは経営や患者確保への不安 ~「開業・事業承継」アンケート~

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