記事・インタビュー
院内の研修医向け勉強会で、持ち回りのレクチャーを今週いよいよ担当することになった…。
いよいよ来年度から後輩ができるけど、ちゃんとレクチャーできるか心配…。
医師は想像以上にレクチャーする機会があると思います。
一方で、レクチャーの仕方について上級医から体系的に習う機会は少なく、先輩たちのスライドを見よう見まねでとりあえず作ってみて、その何となくスライドの添削を受けたあとで、よくわからないままレクチャーしてみるという方も多いのではないでしょうか?
今回は研修医時代の私が経験したしくじり体験を共有しつつ、レクチャーをする際におさえておくべきポイントを3つご紹介します。
私のしくじり体験
院内で若手医師が持ち回りでやっているある日の朝の勉強会で、私は頭部外傷についてのレクチャーを担当することになりました。2年目も後半に差し掛かり、救急科を専攻することも決まっていたので、1か月前から気合を入れて、いろんな参考書や論文のレビューなどを集め、たくさん勉強し、スライドを念入りに準備しました。
レクチャー当日、私はこの1か月で私が理解した頭部外傷の分類や重症度評価、画像評価の適応や重症頭部外傷の初期診療から専門治療まで、研修医が知っておくと良いことを持ち時間で全て伝えようと熱心にレクチャーしました。
序盤は「意識の評価はまいど(ま:四肢麻痺、い:意識レベル、ど:瞳孔所見)で覚えましょう~」と少しユーモアも交えながら話を進めていましたが、後半はだんだんと話が専門用語や略語ばかりに…。自分でも話しながら正しい知識なのか自信がなくなってきており、手元に準備していた原稿をうつむきながら読み上げることに必死になっていました。なんだか同期や後輩研修医は眠そうな顔をしています。
たくさん作ったスライドを話し終えるころには自分の持ち時間が終了し、質問の時間を設けることもできずレクチャーは終了してしまいました。研修医のみんなは、たくさん調べていてスライドも綺麗ですごかったと言ってくれましたが、なんだかモヤモヤする…。
ポイントとなるルール・マナー
まずは昔私が経験した恥ずかしい失敗談を紹介しましたが、多かれ少なかれ皆さん同じような経験をしたことがあるのではないでしょうか?がんばってリサーチをするあまり、文献にそのまま登場する専門用語や略語を多用したり、いかに自分が勉強したかを披露することがいつの間にか目的になってしまい、受講者の立場を考えられていないレクチャーになってしまうのが研修医レクチャーあるあるだと思います。受講者にとってより満足度が高く、教育効果の高いレクチャーにするためのポイントを3つ紹介します。
1) 誰に対して、何を目的としたレクチャーなのかをはっきりとさせるべし
まず、レクチャーの対象者や目的を明確にすることが重要です。レクチャーの目的は、受講者の明日からの診療のアクションプランを変えることだと私は考えます。次こんな患者さんの症例を経験したら必ず○○の検査を入れようとか、けいれん後の患者さんを対応するときは必ず■■の身体所見を確認しよう、といったように具体的であればあるほど良いと思います。
また、どんな受講者が何人きいてくれるのかもしっかりと確認しておきましょう。対象者の職種や年次よって、背景知識は異なります。受講者の知識レベルに合わせてレクチャー内容を調整することが大切です。内容が難しすぎても、簡単すぎても受講者は退屈に感じてしまいます。難しすぎる場合は必要に応じて専門用語をわかりやすく言い換えたり、簡単になりそうなときは最新の知見や実臨床で悩みやすいテーマも追加して、受講者に驚きや疑問を意図的に与えることができないかと考えてみましょう。
2) スライドには本当に伝えたいことだけを最小限にすべし
目的と目標をしっかり設定したところで、自分が今回のレクチャーを通じて何を伝えたいかを改めて考えておきましょう。個々で大切なのは、そのメッセージを最小限に厳選するということです。自分が調べたこと、勉強したことをみんなにも伝えたいと思い、詰め込んでしまう気持ちはわかりますが、ここはぐっとこらえます。なぜなら、人は私たちが期待しているよりも物覚えが悪いからです。レクチャラーと初期研修医が講義のあとに重要なポイントをそれぞれ3つ書き出してみると、2/3の初期研修医がレクチャラーと重要なポイントが1つしか⼀致しなかったということを示す論文があります¹)。スライドの内容を詰め込み過ぎるのは逆効果なのです。受講者に持ち帰ってもらいたいメッセージ(Take home message)は、多くて3つまでにすることを心がけましょう。
また、発表時間が何分なのかによって準備する内容も伝えられるメッセージの数も変わります。例えば5~10分のショートクチャーであれば持ち帰ってもらうメッセージは1つでも十分かもしれません。そして、レクチャーをする際は、練習も兼ねて予演会をして、時間を確認しておくことが望ましいです。また、レクチャーの長さにもよりますが、質疑応答と発表し始めるまでのプロジェクターなどの準備も含めて最低5分は余裕をもって準備するようにしましょう。もし自分で上手にメッセージを設定することができない…と悩まれる方は、事前にヒアリングやアンケートをして、受講者たちが知りたいことを把握すると良いでしょう。
3) 導入ではこのレクチャーを受ける必要性や動機づけを意識すべし
どんなメッセージを含めたスライドを作りたいのか目標も定まったところで、いよいよ最高のスライドを作り始めようと意気込んでいるそこのあなたへ最後のポイントをお伝えします。一旦受講者側の気持ちを想像できるよう、自分が受講したレクチャーのことを思い出してみてください。例えば、学生時代に定期試験の予定がない授業の内容をどれだけ覚えていたでしょうか?また、臨床実習で興味を持てなかった診療科の半日間しっかりと受けた座学のレクチャーの内容は今臨床の現場で活きていますか?
私達は、レクチャーを受ける前にそもそもこのレクチャーは受ける必要性があるのか判断し、そして自分にはこのレクチャーを聞きたいというモチベーションがあるのかないのかによって大きく集中力や記憶の定着度が変わってしまう悲しい生き物です。そのためレクチャーを始める前に、まずは何故この内容を受講者が習得する必要があるのか、その目的についてもしっかりと説明しましょう。そして、特にこのレクチャーを受けたあとで、どのようなことができるようになるのかを具体的に説明することで、受講者にワクワク感を与えましょう。
この動機づけは個別性が高ければ高いほど有効だと思います。例えば、来年から眼科を専攻することが決まっている研修医に対し、アナフィラキシーショックについてレクチャーする機会があったとします。彼女は来年からの眼科専門治療の勉強で頭がいっぱいで、あまりこのレクチャーにモチベーションをもってもらえていなさそうです。皆さんならどのような導入を考えますか?
1つの案として、私なら眼科医になってからのセッティングでもアナフィラキシーショックを経験する可能性はあるということを伝えてみると思います。治療や術前の感染予防として抗菌薬を投与する機会は必ずあるはずなので、抗菌薬によるアナフィラキシーは誰でも対応することができるようになるべきだ、という論理構成で導入をしてみます。このように、どんなレクチャーであれ将来の自分に役立つのだと感じてもらい、目の前のスライドをいかに自分事に感じてもらうかが重要だと考えています。
まとめ
これら3つのポイントをおさえることで、受講者にとって聞きやすく、到達すべき目標や学ぶ目的やわかりやすいレクチャーへぐっと近づくと思います。
最後に、ハワイ⼤学内科医学教育で紹介されている、レクチャーを作成する際の10のステップを紹介させていただきます。
表1)レクチャーの10のステップ)より作成
これらの10のステップに沿ってレクチャーを作成すれば、より効果的なレクチャーを作ることができるようになるはずです。今回解説したポイントの他にも、レクチャーでの話し方や情報の調べ方、レクチャー後の受講者の理解度や満足度など、より良いものを追求しようと思えばこだわるべきことはたくさんあります。今回ご紹介したポイントやこのステップを参考にレクチャーをたくさん経験して、自分なりの型を模索していきましょう。
参考文献
1)Lautrette, A. et al. Intensive Care Med. 37, 1323–30 (2011).
2)ハワイ⼤学内科医学教育の「効果的なレクチャー」のスライド Richard T.Kasuya,M.D.,M.S.Ed.
3)野木真将,橋本忠幸,松尾貴公,岡本武士(2022).チーフレジデント直伝!デキる指導医になる70の方法:研修医教育・マネジメント・リーダーシップ・評価法の極意.東京:医学書院.
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