記事・インタビュー
メールの書き方を学んだ前回に引き続き、今回も文章力を身につけるべく、今日から実践できる転院時の紹介状(診療情報提供書)の書き方について勉強していきましょう!
カルテやサマリーと比較しても、紹介状を記載する頻度は少なく、なかなか上級医から習う機会もないため、上級医の文面を見よう見まねで、何となく紹介状を作成することも多いですよね……。
また、カルテやサマリーと比べると、紹介状は研修医にとって、どうして書く必要があるのかもわかりにくく、時間ばかりを取られる“雑用”のように感じられてしまうかもしれません。しかし、患者さんが急性期から慢性期/回復期を経て自宅に戻るまで、シームレスで質の高い医療や介護、リハビリテーションを提供するために紹介状は必須です。紹介状は患者さん毎のプロブレムや治療方針を綿密に共有し、目指すべきゴールへ患者さんを導くためのバトンパスの役割を担っているのです。
オリンピックや国体のリレーでも、最も盛り上がるのはこのバトンパスですよね。個々のパスのスムーズさがチームの勝敗を分けるように、医療におけるバトンパスでもミスは時に命取りとなります。
例えば1年目の研修医が記載した紹介状では、その約35%が退院時の処方内容が不正確であり、約15%は処方を変更した理由が未記載であったという報告もあります1)。
このように、私たちの雑なバトンパスのせいで患者さんが不利益を被らないよう、研修医時代の私が、紹介状の記載においてやりがちだった間違いを凝縮した再現を参考にしつつ、ポイントを学んでいきましょう。
私の具体的な経験(失敗)
研修医1年目のある日、私は上級医から担当していた患者さんの、転院用の診療情報提供書の作成を依頼されました。入院時から治療計画を考えながら診療していた症例であり、治療経過を丁寧にまとめることを心がけた以下のような紹介状を作成しました。
診療情報提供書
紹介先医療機関名 □□□□□ 病院
御担当先生 侍史
令和◎年◎月◎日
紹介元医療機関の所在地及び名称 みんなの救命救急医療センター
電話番号 〇〇〇-〇〇〇〇-〇〇〇〇
医師氏名 三谷 雄己 /◎田 聡 拝 印
患者氏名 ○○ さと子 性別: 男・女 生年月日 昭和〇年〇月〇〇日(7◎歳) 職業: 無職 |
傷病名 | #1 細菌性肺炎(加療中) #2 陳旧性脳梗塞 #3 高血圧 #4 脂質異常症 |
---|---|
紹介目的 | 貴院貴科での引き続きの御高診、御加療をお願いいたします。 |
既往歴及び家族歴 | 既往歴:陳旧性脳梗塞(平成20年) 高血圧(平成10年) 家族歴:特記事項なし |
症状経過及び検査結果 | ○○ 様は、肺炎 で入院中の患者 です。10年前に特別養護老人ホーム元気の里に入所され、その後は特に普段とお変わりなくお過ごしでしたが、6月1 日に39 ℃の発熱及び酸素化不良を認めたため当院救急外来へ搬送されました。来院時は酸素10L/min投与下でSpO2 90(%) 、BP 100/60 mmHg、HR 120bpmと呼吸と循環の異常を認め、WBC18,000/μL、CRP 20 mg/dL、胸部CT で右肺下葉の広範な浸潤影を認めました。また、喀痰Gram 染色でGPCに加えGNRの貪食が確認されたため、NHCAPの診断で入院のうえTAZ/PIPC 4.5 g q6hr で加療を開始しました。 |
治療経過 | 喀痰培養からK. pneumoniae が検出され、感受性結果を確認しCEZによる抗菌薬加療を継続しました。その後は呼吸及および循環ともに安定し、現在は室内気で状態は安定されています。血液検査、画像検査とも改善傾向であり、食事と内服を再開したものの、食事摂食量は退院するには不十分であり、ADLの低下もあると判断されるため引き続きの貴院での加療依頼させていただきます。 |
現在の処方 | (点滴)ソリタ-T3号 輸液 500ml /day (内服)バイアスピリン 1回1錠、ランソプラゾール 1回1錠、アジルバ 1回1錠、リバロ1回1錠 いずれも1日1回 朝食後 |
備考 | 急変時DNARです。画像所見と血液検査結果 を添付いたします。 |
ポイントとなるルール・マナー
いかがでしたか?一見、紹介先に配慮した紹介状で大きな問題はないように見えますが、紹介先の医師の視点から見ると、修正した方が良い箇所がいくつかあります。文章の内容を、それぞれ3つのポイントに絞って確認していきましょう。
1.開封する相手の顔を思い浮かべる
まずは、紹介状を読む相手が誰なのかを意識しつつ作成することを心がけましょう。受け手の立場に立って考えるというのは、メールやコミュニケーションの極意と同様、非常に大切です。
受け手としては、日々の外来診療や病棟業務が忙しい臨床医を想定しましょう。紹介先の先生方は、外来で、数分単位でいくつもの紹介状を確認して患者さんに対応していることも多いので、長い文章ではなく読みやすさを重視し、とにかく簡潔にまとめることを意識しましょう。
また、誤解されやすい点ではありますが、紹介状の内容は転院調整に関わるソーシャルワーカーやリハビリテーションに関わる理学療法士など、コメディカルスタッフも確認されています。どの職種でも読みやすいよう略語をなるべく使用しないことが大切です。例えば、内服薬を一般名だけで書くのではなく用法用量と合わせて商品名も記載する、治療経過で用いた抗菌薬はTAZ/PIPCやCEZと略語で書かずに、カタカナの商品名もつけるなど、相手を慮った記載をしましょう。
2.シームレスな治療に必要な内容を過不足なく
次に、紹介先でも自身の病院で行っていた治療をスムーズに継続してもらうために必要な情報を過不足なく記載します。
研修医が勘違いしやすいポイントではありますが、第一に、紹介先の医師が知りたいのは、詳細な現病歴や治療歴のサマリーではありません。入院経過は加療の参考にすることもありますが、その比重は決して大きくないため、分量の観点からもできる限り簡潔にまとめましょう。
治療経過をまとめた後は、治療介入後に改善した現在の患者さんの全身状態を必ず記載しましょう。その際、退院直前のバイタルサインとADLを漏れなく記載する癖をつけましょう。特に今回の症例の様に、高血圧の治療を行っている方ではその人のベースとなる血圧は転院後の管理において非常に重要となります。
それらに加えて、入院中にしておいたことの引き継ぎや、検査結果や検査待ちの検査、退院後の治療スケジュール(いつまで続けるか、注意すべき副作用、新規に処方した理由、処方を中止した理由)も併せて記載します。治療経過はそれぞれのプロブレムごとにまとめておくと、紹介先の医師は情報を確認しやすくなります。
具体的には、現在投与している抗菌薬がいつまで必要だと考えているのか、ポリファーマシーと判断し処方薬の一部を切っているが必要であれば再開をお願いするなど、具体的なアクションにまで落とし込んでおくことが大切です。入院中の判断が見えない経過や、判断の丸投げをしてはいけません。
また、特に、急性期病院からの転院時に重要なのは“ACP(Advance Care Planning)”関連の事項です。
ACPに関連した内容(ご本人の人生観や入院中に治療の差し控えなど)について話し合い決定していればその内容もなるべく詳しく記載します。決まっていなくても転院前に話した内容とそれに対する患者さんや家族のリアクションは引き継ぎ事項として必ず記載しておきましょう。
なお、入院中にしないといけないことと、退院後でもいいことの線引きをして退院後にしてほしいこともまとめると、より親切でしょう。
例えば、肺炎球菌ワクチンの接種歴がない肺炎患者さんの、退院後のワクチン接種の必要性や、外傷患者さんに投与した破傷風ワクチンの2回目・3回目の追加接種など、思いつくことがあれば記載しておきます。
3.転院調整の工程を意識する
上記の内容に加えて、転院先の選定理由や、受け入れ準備に必要となる情報も記載していきます。これらの内容は、研修医として治療や管理を中心に患者さんと関わっていると抜けやすい部分であり、私も研修医時代はあまり意識できていませんでした。具体的には転院目的をはじめ、入院前後でのADLやIADLの変化、介護区分や家屋・施設などの生活環境における情報、また、栄養療法、吸痰や嚥下機能などです。これらは転院先の業務に直結するので非常に重要です。また、一緒に治療方針を決定していくキ-パーソンは誰であるのかも併せて書いておくと良いでしょう。
紹介状の作成が転院調整開始の律速となることも多いので、時間が空いたときにすぐに書く姿勢も大切です。治療が完遂する前であっても、入院中の状態が安定しつつあるタイミングで紹介状の下書きの作成を提案すると、上級医やソーシャルワーカーの方々からの信頼度が高くなること間違いなしです。
まとめ
上記のポイントを踏まえて、改めて紹介状を書き直してみました。
診療情報提供書
紹介先医療機関名 □□□□□ 病院
御担当先生 侍史
令和◎年◎月◎日
紹介元医療機関の所在地及び名称 みんなの救命救急医療センター
電話番号 〇〇〇-〇〇〇〇-〇〇〇〇
医師氏名 三谷 雄己 /◎田 聡 拝 印
患者氏名 ○○ さと子 性別: 男・女 生年月日 昭和〇年〇月〇〇日(7◎歳) 職業: 無職 |
傷病名 | #1 細菌性肺炎(加療中) #2 陳旧性脳梗塞 #3 高血圧 #4 脂質異常症 |
---|---|
紹介目的 | 貴院貴科での引き続きの御高診、御加療をお願いいたします。 |
既往歴及び家族歴 | 平成20年 陳旧性脳梗塞 平成10年~高血圧、脂質異常症 家族歴に特記すべきことなし。 |
症状経過及び検査結果 | ○○様は細菌性肺炎で入院中の患者様です。10年前より特別養護老人ホーム元気の里に入所され、もともとのADLは脳梗塞による左片麻痺はありますが車いす移動や経口摂取、排泄は一部介助で可能であり、簡単な会話であれば意思疎通も成立する状態でした。6月1日に39℃の発熱及び酸素化不良、ショック状態で当院救急外来へ搬送されました。各種診察及び検査の結果、医療介護関連肺炎の診断とし、入院のうえゾシン(4.5g 6時間おき)による加療を開始しました。 |
治療経過 | 喀痰培養からK. pneumoniaeが検出され、感受性結果を確認しセファゾリン(1g 3時間おき)による抗菌薬加療を継続しました。来院時は酸素10L/min投与でSpO290%でありましたが、現在は治療経過良好で酸素療法からも離脱し、バイタルサインも安定しています。現在のバイタルサインは以下の通りです。 バイタルサイン(8/5):JCS Ⅰ-1,体温 36.9℃,血圧 131/60mmHg,脈拍 81/ 分,呼吸数 20/分,SpO2 96%(室内気)病状も改善傾向であるため、セファゾリンに関しては6月7日まで投与し終了する方針としています。 また、入院後、治療と併せてリハビリテーション介入をしておりましたが、ADLは介助があれば座位を保持できる程度の状態にまで低下しており、日中及び夜間の喀痰吸引が必要な状態です。しかし今後はリハビリテーションによって元のADLまで改善も見込めると判断しております。 ご本人及びキーパーソンである長女様と面談を行い、元の施設へ戻ることを目指して、リハビリテーション目的の転院を行う方針となりました。呼吸状態増悪時の気管挿管に伴う人工呼吸管理や心停止時の蘇生処置は希望されず、今後嚥下機能が低下し経口摂取が困難となった際の長期中心静脈栄養や胃瘻増設も希望されませんでした。 併存疾患に関しては施設の嘱託医の××医院で加療されており、現在の内服薬は以下の通りです。 お忙しいところ恐れ入りますが、貴院での今後の肺炎の治療に加え、元の施設への転院を目指したリハビリテーションの継続をご検討のほど何卒よろしくお願い申し上げます。 |
現在の処方 | (点滴) ソリタ-T3号輸液 500ml/day バイアスピリン(100mg) 1回1錠 ランソプラゾール(15mg) 1回1錠 アジルバ (20mg)1回1錠 リバロ(2mg) 1回1錠 いずれも1日1回 朝食後 |
備考 | 患者様の介護度は要介護2です。画像所見と血液検査結果を添付いたします。 |
いかがでしたか?経過を簡潔にまとめ、転院先での管理に必要な情報を盛り込んでみました。
メールと同様に、紹介状の書き方にも絶対に正解ということはありませんが、今回お伝えした3つのポイントを押さえて書く癖をつけると、より相手へ良いバトンパスをすることができ、患者さんにより良い医療や介護を提供できるようになるはずです。
今回の記事を参考に、皆様の研修医生活がより良いものになれば幸いです。
参考文献・記事
1)Legault K. BMC Med Educ. 2012 ;12:77
2)一杉 正仁ほか(著) 医師のためのオールラウンド医療文書書き方マニュアル,2015 メジカルビュー社
3)総合診療 Vol.30 No.8 2020.8 医学書院
4)医学界新聞プラス 2019.07.08 連載 齋木好美「良質な診療情報提供書を書くために」, 医学書院
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