記事・インタビュー

2021.01.15

ヘモ活のすすめ(3)

臨床・実験データから仮説を見出すということ

ヘモチ(ヘモグロビン値)を、採血なしで測定することができるようになると、今まで気づかなかった発見があります。前回、ヘモチに意外な日内変動があることをお示ししました。一日中飲み食いせずに仕事していたら、普段は15前後の私のヘモチが、17.2になっていたという体験でした。

ヘモ活のすすめ(1)」で紹介しましたが、私は研究者として『リンパ管新生』という新しい概念を創り上げていく時期に立ち会いました。そもそもリンパ管は新生するのか?に始まり、病気ではリンパ管はどう変化してどう病態に絡んでいるのか?まで、わからないことだらけでした。研究の方法としては、試験管内での実験もあるし、動物実験もありますが、臨床データの確認がないと何の意味もありません。そして特にこのような新しい研究分野では、問題・課題を見出し、仮説を設定するところから始めなければなりません。ヘモチなんてよくわかっているって本当?多くのシニアの医師と話すと、ヘモチは血圧と違ってあまり変化するものじゃあないから頻回に測定する必要はないっていう反応です。そういう人は、非観血的にはヘモチをチェックできないという現状に縛られていないだろうか?

特に若い医師にお伝えしたいのは、医療・医学はわからないことだらけだということ。日常の診療で気になったこと、自分自身の病気体験なんかも大切です。そこに新しい医療につながるアイデア(考え方、概念)が眠っているかもしれません。日常の診療では脱水患者はヘモチで確認しますし、飲み食いせずに働き詰めだとヘモチが上昇するという自分の体験から、私はある仮説を見出しています。シンプルな仮説ですが、それは今回の最後に紹介します。

ヘモチ(ヘモグロビン値)チェックの体験から

現在私は、ヘモ活推進協会で、ヘモチの重要性について一般の方に啓発する活動をしています。貧血、脱水(熱中症)のリスクは既に明白ですが、この具体的な場面をわかりやすく説明することが大切なのと、医学的にも医療者にもわかりやすいエビデンスの構築が必要です。

(体験1)夏の脱水に気をつけよう!

近年、日本の夏は暑く、毎年熱中症が話題になります。私も今夏に家の庭木を切った時には大量の汗をかき、水分補給が間に合わないくらいでした。しかもこの日は、ヘモチの課題研究として“麦茶”での水分補給を試しました。

作業前、昼食も終わりくつろいだ後のヘモチは15.2で、“私のいつものヘモチ”です。それから真夏の庭で2時間ぶっ続けで伸び放題の庭木の枝を切り、下草も刈りました。麦茶はたっぷり飲みましたが、作業が終わる頃にはTシャツは汗でびっしょりでした。そして測定したヘモチは、17.0でした。夏の脱水予防には麦茶はやはりダメでした。次は塩分を含む水分などとの比較研究をすることになるわけです。

ヘモチを下げるには?

ヘモチが低い、つまりは貧血を改善するために鉄欠乏性貧血なら鉄分・鉄剤を摂りましょうということになります。では、ヘモチが高い人にはどういう対処がよいのでしょうか?水分摂取は予防的な対処ですが、ヘモチを下げるにはどうすればよいのでしょうか?脱水症で病院に来られた患者には点滴で補液となりますが、水分を摂取する場合はかなり難しいですね。ここで思いもかけない体験実験を示します。

(体験2)マッサージでヘモチを下げよう!

マッサージで血流がよくなることを確認するために、この機械を使った時のことです。というのも、この機械は血流も評価できるからです。その詳細はまた今度として、この時思いもかけず、マッサージによってヘモチが下がるのを体験しました。下の図は、私を含めた中年男性2名で2回ずつ測定した結果です。いずれの被験者もすべての回においてヘモチは下がり、平均して1.5および1の低下でした。ヘモチが上昇するような脱水の状態に対して理学的な方法で対処できるというのはすごくおもしろいです。*ちなみにこのマッサージ店は、実はプロのスポーツ選手のケアもする有名なスポーツマッサージ店でした。

ヘモチの上昇は下げた方がよい!?

血液の濃縮の評価には、Hbの他にHtも使われます。Ht上昇は、様々な条件付きですが、脳梗塞のリスクになります。このエビデンスが血圧ほど明確でないのは、HtもHbも頻回に測定できないからかもしれません。血圧のように頻回に測定できれば、“Hbの上昇”が脳梗塞のリスクになると私は仮説を立てています。これまでに示してきたように、一日の変動でHb高値になりやすい私は、高血圧とは言えない血圧で40代の時に軽度の脳梗塞を経験しているからです。

次回は、ヘモチの上昇に対処する他の方法について紹介するとともに、科学的な考察も加えていきます。

<プロフィール>

久保 肇(くぼ・はじめ)
外科医師
ヘモ活推進協会代表理事・スターリング株式会社代表取締役・株式会社MSP代表取締役

三重県生まれ。1992年、京都大学卒業。京都大学医学部附属病院、神鋼記念病院で外科医師として修練後、京都大学大学院、ヘルシンキ大学でがんリンパ管研究の創始に携わる。2003年帰国し、京都大学医学部附属病院外科講師、京都大学助教授としてがん研究の後、2010年田辺三菱製薬にて会社のマネージメントを経験。2019年、役立つヘルスケアを啓発することを目指し株式会社メディカルサイエンスパートナーズ(MSP)設立。現在、スターリング株式会社代表取締役、一般社団法人ヘモ活推進協会代表理事。

››› 一般社団法人ヘモ活推進協会
››› Twitter @kuboflt1965

久保 肇

ヘモ活のすすめ(3)

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