記事・インタビュー
古都の歴史的風土が色濃く残る鎌倉市において、年間救急搬送受け入れ件数約1万4000件を誇り、日本屈指の高度急性期病院として稼働する湘南鎌倉総合病院。地域における高度医療の提供にとどまらず、JCI認証を取得し、常勤の英国人医師を教育担当として配すなど、世界標準の医療の実践をめざしている。
今回は、広く世界に通用する人材育成に尽力する湘南鎌倉総合病院 総合内科のジョエル・ブランチ先生に、同院の取り組みや魅力についてお話を伺いました。
Q:日本で医学教育に関わるようになった経緯を教えてください
私が日本と関わるようになったのは、医学部最終学年の1998年、留学先を自由に選べる海外留学プログラムに合格したのがきっかけです。留学先を日本としたのは、独自の伝統文化に興味があったのと、先端のテクノロジーがどのように医学に貢献しているかを自分の目で確かめたかったからでした。
留学中は、日本で医学教育に携わっておられたジェラルド・ステイン先生のご厚意により、亀田総合病院で臨床研修の現場に触れる機会を得ました。そこで英国をはじめ海外とはやや異なる医学教育の実態に直面し、医療面接や身体所見を学ぶことの重要性を強く意識するようになったのです。
英国に帰国してからは総合診療医としてトレーニングを積み、糖尿病と内分泌疾患の診療を行っていたのですが、あるとき、湘南鎌倉総合病院(以下、当院)が研修医教育担当の医師を募集していると知りました。日本で臨床研修の現場に触れ、臨床推論を主軸とする医学教育を行いたいと考えていた私にとって、またとないチャンスでした。幸いにも2006年5月に入職に至り、今年で14年になります。
Q:湘南鎌倉総合病院の教育の特徴を教えて下さい
当院の教育は、研修医の誰しもが抱く疑問に明確に答える、超実践的なプログラムが特徴です。患者さんから学ぶことを重視し、ベッドサイドから得られたあらゆる情報を鑑別診断や治療計画に反映させるスキルを身につけていきます。
症例検討では、研修医が興味深い症例をとりあげ、英語でプレゼンテーションを行います。そして、現病歴ではどれが重要な項目か、鑑別診断にはどの項目に注目すべきか、ベッドサイドから得られた情報とともに確認を行っていきます。
その際、研修医の意見を聞くことも大切にしており、白熱したディスカッションとなるのはしょっちゅうです。研修医は、そうした実践的なプログラムを重ねるにつれ、鑑別診断をはじめとする臨床推論のプロセスを着実に自分のものとしていきます。
Q:医学教育で、海外との違いを意識することはありますか
教育において私が重視するのは、まずはしっかりとした構造をつくることです。たとえば病歴聴取は、やみくもに患者さんに尋ねるのではなく、科学的に綿密に行わなければなりません。
その一法として、あらかじめROS(Review of Systems)のフォーマットを作成し、診断に重要な所見をリストアップしていくことは有用です。一般的に病歴聴取では、まずは患者さんの主訴を聞きますが、ROSでは患者さんが言い忘れたことや、取るに足らないと訴えなかった情報も逃さず収集できるからです。
しかし、日本で行われている症例提示法は必ずしもROSを重視しておらず、海外と異なるのが現状です。これは仕方のないことですが、国際学会や海外のジャーナルで症例提示をすることを前提とするならば、ROSで患者さんの問題を拾い上げ、プロブレムリストに挙げるといった海外での決めごとを理解しておくのは重要です。
Q:必要なスキル、求められる人材像は変化していくのでしょうか
現在、世界的に医療分野でのAI(人工知能)活用が検討されていますが、医師が行う診療とAIによる診療支援のシステムは、それぞれに長所・短所があります。どちらかが優れ、片方を凌駕すると考えるのは無意味なことです。
たとえばAIは、画像から異常所見を判断することは得意ですが、それのみで診断・治療は完結しません。そこに医師の豊富な知識や経験が加わってこそ、精緻な医療が実現するでしょう。現に、日本で開発が進められているAIを用いた診療支援システムの中には、臨床推論を応用したものもあります。つまり、医療における高度なテクノロジーも、総合診療のベースがあってこそ力を発揮できるものなのです。
現在、新型コロナウイルス感染症の影響により、世界中に遠隔診療が普及しつつありますが、それを駆使できるのも、ベースとなる知識やスキルがあってのことです。しかもこれらは一朝一夕で得られるものではなく、十分な教育を受け、臨床のトライ&エラーで身につくものだと思います。
Q:海外からみて、日本の医師が身につけるべきスキルはありますか
日本の医療が抱える問題として、診療科があまりにも専門化・細分化している点が挙げられます。高齢化により、複数の疾患を抱える患者さんが増えている中にあって、多くの医師は「ほかの臓器の疾患は、専門の先生に診てもらってください」というスタンスです。
一方、当院における教育は、臓器、専門性に関係なく、患者さんを包括的に診ることをめざすものです。医療は決して廉価なものでないと考えると、過剰な検査を抑制でき、費用が少なくて済むメリットも軽視はできません。このあたりは、英国に比べて日本人医師の意識はやや低いように思います。
そして、若いうちに包括的に診るスキルを身につければ、特定の診療科で対応できない場合や、原因不明の症状を診るのに欠かせない存在となり、医師としての自信につながるでしょう。自信は正しい診断、治療を促します。それは患者さんの利益につながり、患者さんからの信頼も増していきます。こうした患者さん中心の医療こそ、国や医療制度の違いを超えた世界標準の医療といえます。
Q:海外留学を志す医師は、湘南鎌倉総合病院でどのようなサポートが得られますか
国際学会に参加しプレゼンテーションを行うことは、英語を母国語としない医師にとってはハードルが高いものです。当院では、そのような機会を得た医師を積極的にサポートしています。専攻医に対しては英語の論文作成のアドバイスも行い、私自身、ときに共同執筆者として論文発表も行っています。
海外留学を志す医師にとって、当院での教育は得るものが大きいでしょう。ただし、当院では決して、医師の英語力向上をめざしているわけではありません。目的はあくまで、エビデンスにもとづいた構造的な診断思考力や問題解決力を身につけることです。それらを英語で習得することは、広く海外に目を向け、世界標準の医療を実践する上で役立つはずです。
Q:若い医師に向けて、メッセージをお願いします。
以前、こんなことがありました。ある熱意ある研修医が、「先生のやり方は受け入れられない」と主張するのです。研修医の過程では、多忙な業務に追われ、教わった内容が即座に臨床の役に立たないと感じることもあるのでしょう。それでも何年か経ち、多くの経験を積んだ後、「やはり先生の教えは正しかった」と言ってくれました。
私は常々、研修医の将来を見据え、真に役立つことは何かを考えながら教育を行っています。今後も、意欲あふれる研修医の疑問や悩みを解決し、ときに白熱したディスカッションを交わしながら、世界へ通用する人材へと成長する過程をサポートしていきたいと思います。
湘南鎌倉総合病院では、一緒に働いてくれる医師を募集しています。
お問い合わせ先:https://www.shonankamakura.or.jp/contact/
メール(担当:横田):kenshushonankamakura.or.jp
〒247-8533
神奈川県鎌倉市岡本1370番1
TEL: 0467-46-1717(代表)
<プロフィール>
ジョエル・ブランチ
医療法人沖縄徳洲会 湘南鎌倉総合病院
総合内科 医学教育専任医師
認定等:ロイヤルカレッジ・オブ・フィジシャン
専門分野:一般内科、糖尿病内分泌科
ジョエル・ブランチ
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