記事・インタビュー

※ドクターズマガジン2019年11月号に掲載された内容です。
#05 研究話いろいろ
獨協医科大学麻酔科の山口重樹教授と訪れたカナダ保健省(Health Canada)突撃取材のアリバイ的記念写真。
この連載を読んでくれた子育て中の同級生から、「自分から行動するところがディズニー・プリンセスと一緒だね!」というお褒めの言葉? をいただき、あまりの不意打ちにしばし脱力しました。奮戦の行き着く先がプリンセス呼ばわり……あの人たち、ただの他力本願なのだと思っていたら、最近は自立した女性が自ら頑張って幸せをつかみ取る、みたいな描写なんですってね。昔から割とあざといなあという印象ではありましたが、そういうことなら良かったです。どうもありがとう同級生。今回は研究話です。
痛みの克服は病院だけじゃない、医師だけでもない
カナダはEBM(科学的根拠に基づく医療)という概念がかつて生み出されたお膝元(1991年McMaster大学Guyatt医師)だけあって、臨床研究が盛んです。私も疼痛患者に対する臨床研究に取り組んでいます。日本ではできない特殊な研究である根拠は、留学先のSullivan教授が15年以上かけて自ら開発した、行動療法プログラムを使用していること。言うのは簡単なのですが、これはすごいことで、治療薬を使用した臨床研究は上市後の売り上げが見込まれることから開発予算が高額なため、研究が進みやすいものの、こうした地道で着実な痛みの非薬物治療は世界的にも予算不足から研究が進みにくいのです。
最近、慢性疼痛患者は脳のネットワークに異常をきたしていることが分かってきており、特有の行動特性があります。(例えば、動けば痛むという恐怖条件付けがなされて、怖くて動かない→さらに痛みが強くなる、という悪循環など。)われわれが研究に使用している介入プログラムは、そのような疼痛患者特有の行動特性にアプローチしています。開発者のSullivan教授自身は心理士ですが、北米で心理士を養成するのは難易度が非常に高く大変なコストを要するため、多職種(理学療法士、作業療法士など)が医療費を使用する診療とは別の枠組みで患者の意欲を引き出し、社会復帰を促すプログラムを単独実施できる構成で、世界各国で普及が進められています。簡易に誰でも行える治療は尊ばれない風潮がありますが、効果のほどは学術的な手順に沿って積み重ねられたエビデンスが物語り、私自身もデータを分析しながら日々実感しています。
この安全で地道な介入プログラムがどのようにして効くのかというメカニズムについてはまだ想像の域を出ないので、今後機序の解明に踏み込んでいく所存です。
カナダの公的研究費
研究話にちなんで、あまり知られていないカナダの公的研究費の情報が知りたいというリクエストがあったので、調べてきました。日本の研究者は日本学術振興会や日本医療研究開発機構(AMED)の研究費を目指し、米国ではNational Institutes of Health(NIH)が公的研究費を給付しますが、カナダはCanadian Institutes of Health Research(CIHR)が国家的で大規模な多施設研究や基盤研究などをフォローする研究予算を繰り出しています。これに申請するのは一般にベテランで一流の主任研究者で、ちょろっと留学に訪れた私のような者が申請するための少額公募はありません。若手研究者の登竜門となるのは、各州が運営する研究組織や大学が資金提供している研究費です。州は研究成果が州に貢献するような研究テーマを公募します。日本では地方自治体が積極的に個人研究者向けの科学研究予算を立てる話をあまり聞きませんので、これはカナダならではの研究費事情といったところでしょう。州の研究組織や大学は奨学金も提供していて、例えばケベック州の場合は、FRQS(Fonds de recherche du Québec‒Santé)という健康研究基金や、以前話題にしたMcGill大学の痛み研究所Alan Edwards Centre for Research on Pain(AECRP)も独自の研究費や奨学金を募っています。留学生向けのものもあるため、留学希望の研究室に、そのような奨学金の申請要件について尋ねてみる手もあります。
次号最終回
最終回では、カナダでの臨床従事に関する電話取材や、カナダ保健省(Health Canada)突撃リポートの内容に触れたいと思います。お楽しみに。(見よ! この特派員的な動き!)
山田 恵子(本名)Keiko Yamada
McGill大学心理学科ポストドクトラルフェロー
日本学術振興会海外特別研究員
山田 恵子
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