記事・インタビュー
第6回 ヤバイ医師に変貌する自分
梅雨の時期の出雲。本当に「雲が出る」とはよく言ったもので曇ってばかり。それはそれで美しい山々や樹木から出るみずみずしい匂いを感じつつ、この最終回を迎えることが感慨深く、敏腕副編集長と食べた出雲蕎麦の味を思い出しております。
前回はDisruptive physician behavior つまり、ヤバイ医師のヤバイ行為についてお話ししました。このヤバイ医師が与える医療安全・医療経済・臨床教育において予測されるネガティブインパクトはすさまじく、算出できる医師一人の売上やメリット以上に、スタッフが去ったり、若者が集まらなかったり、クレームが増えたりと目に見えにくい被害が存在するというものでした。1)
今回はどのような人がヤバイ医師になってしまうのかという危険な内容に自戒的意味を込めて踏み込みます。
キレたり、怒鳴ったりと誰が見ても分かりやすいヤバイ行為はともかく、一見分かりにくいヤバイ行為もあります。コンサルトや診察の依頼をされた時に責任を持って対応しない、ネガティブな感情を前面に出してしまうなども含まれてしまうそうです。2)げげっ、なんとなく自分にも当てはまるような。しかし、ここには大事な前提条件があって、それが一回だけであったり、まれに見られる程度では決めつけてはいけないと注意書きがあります。2)あくまで日常的に見られるような場合をヤバイ医師と定義するわけですね。では、どのような人間的な傾向がヤバイ医師へと進化しやすいのでしょうか?
下に、陥りやすい医師としての特徴を示しました。
ヤバイ指導医に進化しやすい医師の特徴
(文献1,2より改変)
【短所】
- 横柄である
- キャラクターに圧迫感がある
- 操作性が高い
- 柔軟性が乏しい
- 自己中心的
- 権利意識が高い
- 自分の行いを常時正統化する
- 他者を批判するのが好き
- 自分で行為を反省できず改善できない
- 他者からの善意のヘルプに応じられない
- 好戦的である
- かなりのナルシスト
【長所】
- 高い技術を持っている
- 勉強家であり、知識がある
- 分かりやすい性格
- ハードワーカーである
- 認められている
- 自信家
- 目標達成に執着できる
短所的な特徴は納得しやすいですね。自己中心的で権利意識が高く、他者を批判するのが好きで、自分を反省できないナルシスト……(笑)。いやはやヤバイ医師になる要素が多すぎて救いようがないような気がします。しかし、長所的な特徴を見てみると、えっ、驚きです。高い技術を持ち、勉強家で、自信があって……これって、いい医師になるために必要なことばかりではないですか? もしかしたら本来頑張って良い医師を目指している間に、周囲に対して認識することなく多大なネガティブインパクトを与えているということかもしれません。振り返ってみると自分も柔軟性が欠如して俯瞰的に観察できなくなっていたのかも。人は誰しも自分の欠点を認めて、短所を認識するにはとても勇気が必要ですし、医師免許という資格がわれわれを必要以上に勘違いさせているのかもしれません。
今回の内容、自分の嫌なところを突かれているようでハラハラドキドキしますね。書いている自分自身が一番恥ずかしく、心がとても痛いです。多分皆様も医師という時点で、少しくらい当てはまってしまうこともあるのではないかと思いますが、このヤバイ行為を気付かないうちに周囲に対して行ってしまっている可能性もあります。どうすればヤバイ医師になるのを防げるか?自分は師匠から教えてもらったウィリアム・オスラー先生の『平静の心』と宮本武蔵の『五輪書』を思い出します。「心を広く、直にして、きつくひっぱらず、少しも弛まず、心の片寄らぬように」とあるように、なるべく自然体で自分の感情が動く行為を俯瞰的に見ることがヤバイ医師にならなくて済む方法なのではないかと感じています。
愛すべき島根の医療が発展すればと無理やりつけさせてもらったこのタイトル、いよいよしまねからサヨウナラと言わせてください。読者の皆様、おつきあいいただきありがとうございました!
和足 孝之(わたり・たかし)
2009年岡山大学卒。湘南鎌倉総合病院、東京城東病院を経て、2015年度マヒドン大学臨床熱帯医学大学院へ。2018年よりハーバード大学GCSRT在籍中。2016年より現職。あふれる情熱で臨床教育に力を入れている。
■参考文献
1)GUIDEBOOK FOR MANAGING DISRUPTIVE PHYSICIAN BEHAVIOUR, College of Physicians and Surgeons of Ontario, April 2008.
2)Reynolds, Norman T. “Disruptive physician behavior: use and misuse of the label,” J Med Regul 98.1 (2012): 8-19.
Dr.和足のしまねから“こんにちは”
- (1)「診断エラー学」
- (2)診断エラーと認知バイアスについて
- (3)認知バイアスを乗り越えろ!
- (4)医師こそ、もっと寝かせなさい!!
- (5)あの指導医はヤバイと言われないために
- (6)ヤバイ医師に変貌する自分
島根県関連リンク
和足 孝之
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