アンケート記事
現在、日本では東京や首都圏に、人口や産業、経済、政治、文化といった機能が過度に集中している「一極集中」が起きていると言われていますが、医療界でも同様に偏在の問題や地方の医師不足などが課題となっています。医師偏在対策としては様々な仕組みを組み合わせ、医学部における地域枠や奨学金制度の拡充、なども含めて複合的に展開する必要があるという意見や、政府も「新規開業の要件に医師少数区域での勤務経験を」など色々と検討がされている状況です。
医療業界は他の業界や産業とは異なることも多々あるなかで、医師の皆様の勤務地の選択については個人のキャリア形成はもちろん、ご家族の生活とも密接に関わる重要な問題です。そこで今回、民間医局コネクトでは、医師が地域医療での勤務をどのように捉えているのか、またその背景にどのような価値観や課題があるのか、会員医師に計4回のWebアンケートを実施しました。
[ 目 次 ]
地域医療について
・医師を志した理由
・診療科目選択の理由
・現在の勤務地域、今後勤務したい地域とその理由
・勤務経験・意向とその理由
・開業前の過疎地での勤務義務への考え
・関わる際の働き方選択
・働くうえでのネック
Q. 医師を志した理由を教えてください。(回答数:823・複数回答)
「人の役に立ちたい」が最多、身近な人からの影響も。
やはり、医師を志した理由として最も多かったのは、「人の役に立ちたいと思ったから」(306人)で、全世代で共通し高い傾向が見られました。次いで「学業成績が良かったから」(198人)、「親・家族・教師など身近な人からの勧め」(189人)、「家族・親族に医師がいたから」(185人)と、家庭環境や周囲からの影響も大きな要因となっています。
30代以下では他の世代に比較して、経済的なメリットや、メディア作品などからの影響を受けたという声も多くみられました。
Q. 現在の診療科目を選んだ理由を、いくつでもお選びください。(回答数: 823・複数回答)
興味・関心が最大の要因、年代差のあらわれは働き方・副業志向に。
診療科目を選んだ理由として最も多かったのは、「興味・関心があったから」(443人)。どの年代でも最多となっており、診療科選択の基本的な動機であることがわかります。
次いで「働き方(勤務形態・ワークライフバランス)を重視」(217人)や「専門性・手技へのあこがれ」(203人)が続き、勤務環境や医師としてのやりがいも重要視されています。
30代以下では「アルバイト・副業がやりやすい」(31人)や「高収入が得られるから」(13人)など、経済的・柔軟性を重視する傾向や、「将来的な開業を見据えて」(21人)と、早い段階から将来の独立を前提にしたキャリア設計を考える声が見られました。
50代以上では「家族・親族の影響」(23人)がやや多く、より身近な人の影響がうかがえます。
Q. 現在働いている地域と、今後働いてみたい地域を教えてください(回答数:882・単一回答)
現在は関東・関西など都市圏に集中、今後は九州・北海道・海外への関心が上昇
現在の勤務地域は「関東地方」が36.4%と最も多く、次いで「関西地方」25.3%、「中部地方」14.8%、「九州・沖縄地方」10.3%と続きます。厚生労働省の調査(※)にあるとおり、施設数が多いエリアでの勤務が多く、やはり首都圏や都市圏に多くの医師がいらっしゃる様子がうかがえます。
将来働きたい地域としては、「関東地方」が33.0%で最多で、「九州・沖縄地方」は現勤務地域の10.3%から13.2%へと約4%増加し、「北海道地方」も2.8%から7.0%へと同じく約4%伸びました。また「海外・その他」も0.1%から4.9%に上昇しており、人気の移住先として上がる地方や海外での勤務志向など、多様なキャリア志向が広がっている様子がうかがえます。
※出典
医師偏在是正対策について(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001335627.pdf
医療施設動態調査(令和5年12月末概数)(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/m23/dl/is2312_01.pdf
Q. なぜ今後、その地域で働いてみたいか理由を教えてください。(回答数:882・複数回答)
地元志向と生活重視が上位
働きたい地域の理由は「地元・地元近郊だから」が401件と最多でした。やはり慣れ親しんだ地域で勤務をしたい、またいずれは地元に貢献したいという想いをお持ちでいらっしゃる声を聞くことも多く、その通りの結果となっていると思います。
次いで「ワークライフバランスを重視」237件、「住んだことのない地域で暮らしたい」145件と続き、生活基盤や働きやすさが勤務地選択理由のひとつとなっていることがわかります。
「地域医療へ貢献したい」は82件、「専門性を高めるのに最適」66件、「キャリア形成に最適」56件と、全体の回答数からするとやや少なめではありますが、社会的使命や今後のキャリアへの重要な要素と捉えられている傾向がうかがえました。
Q. 地方や地域医療での勤務経験・意向はありますか?(回答数:882・単一回答)
地方勤務経験は約6割が経験あり
全体では、地方勤務については「経験がある/現在勤務している」が59%と半数以上を占めました。「経験はないが、興味はある」は16%、「経験も興味もない」は25%となります。
年代別では、30代以下は「経験、興味ともない」が28%とやや多めでしたが、40代では24%、50代以降では21%と割合が減少していきます。これと連動し「経験はないが、興味はある」が30代14%だったものが、50代では19%と5%上昇、医師としての経験を重ねるにつれ地域医療への関心が高まっていく傾向が見られます。
Q. なぜ地方で働こうと思いましたか?(地方勤務:経験者)(回答数:516・複数回答)
医局派遣と地元志向が主な理由
地方勤務経験者の理由として最も多いのは「医局派遣先があるから」154件、次いで「地元・地元近郊だから」138件でした。30代以下では「研修医・医学生時代のつながり」36件や「給与・待遇」27件を理由に挙げる割合が高く、50代以上では「地域医療へ貢献」29件が目立ちました。世代ごとに動機の違いがみられ、若手は環境や待遇、ベテラン層は経験を積んだ後の地方医療への貢献意識が強い傾向があります。
Q. なぜ地方勤務に興味がありますか?(地方勤務:未経験者)(回答数:145・複数回答)
新生活体験と地域貢献意識が関心の背景
地方勤務に興味がある理由としては「住んだことのない地域で暮らしたい」が59件と最多でした。次いで「地域医療へ貢献したい」42件、「ワークライフバランスを重視」34件と続きます。30代以下は「新しい地域での生活」への関心が特に強く、50代以上は「地域医療への貢献」が相対的に多い結果となっています。世代ごとに動機は異なるものの、地方勤務をポジティブに捉える傾向が共通して見られます。
Q. 現在医師偏在対策として、開業前の過疎地での勤務が義務付けられる可能性がありますが、どのようにお考えになりますか。(回答数:842・単一回答)
勤務義務化に約5割が前向きで、年代が上がるほど賛成傾向
医師の勤務地義務化について、全体の約5割が「賛成」または「どちらかといえば賛成」と回答しており、一定数の医師がこの制度に前向きであることがわかります。特に50代以上では「どちらかといえば賛成」が44.4%と、他の年代よりも高い割合を示しています。これはキャリアの安定期に入り、社会貢献への意識が強くなる傾向があるのかもしれません。
Q. もし地方や地域医療に関わるとしたら、どのような働き方を選ぶと思いますか。(回答数:842・単一回答)
スポット勤務や2拠点勤務など、柔軟な働き方を希望する医師が多数
地方や地域医療に関わる場合、全体で「スポット勤務や週末の定期勤務」が30.4%と最も多く、次いで「赴任地と現勤務先の2拠点勤務」が21.9%となりました。この結果から、多くの医師は地域医療との柔軟な関わり方を望んでおり、現在の生活基盤を維持しつつ貢献したいと考えていることがうかがえます。
年代別では、30代以下は「赴任地に転居して勤務」が20.4%と他の年代(40代15.6%、50代以上12.1%)より突出して高い傾向があり、若手医師は転居を伴う地方勤務への抵抗が比較的少なく、地域に根ざした新しい挑戦に意欲的であることがうかがえます。
Q. 地方や地域医療で働くうえで感じる「ネック(障壁)」があればご記入ください。(回答数:412・複数回答)
「子供の教育・家族の理解」が最大のネックで、交通アクセスや生活の利便性も課題
地方勤務のネック(障壁)として、「子供の教育・家族の理解」が119件と群を抜いて最も多く、医師の個人的なキャリアだけでなく、子供への教育機会の最大化や家族全体の生活が勤務地選択に大きく影響していることが明らかになりました。また、「交通アクセス」(83件)や「生活面での不便」(40回答件)など、地方のインフラや生活環境に対する懸念も多く挙げられています。
年代別に見ると、50代以上は「バックアップ体制の脆弱さ」が13件、「専門外の疾患」が10件と若い世代と比較し、安定して患者をケアできる体制や緊急時の対応を重視している医師が多いことが見てとれます。
今回のアンケート結果から、医師が地方や地域医療に貢献することに対し、「抵抗感がある」というよりも「地域医療にかかわりたい」と思う反面、「どのような形で関わるか」が今後の課題となることがわかりました。
医師の多くが地域医療に前向きな関心を持ちつつ、それぞれのライフステージに合わせた関わり方を模索しており、若手は転居を含め地域に根ざした挑戦を検討、中堅世代は家庭やキャリアと両立できる柔軟な関わりを志向、そしてベテラン世代は豊富な経験を活かして無理なく地域に貢献しようとしていることがうかがえます。
加えて地方勤務の障壁として「子供の教育・家族の理解」「生活の利便性」という声が多く挙げられており、医師が個人的なキャリアだけでなく、家族の生活を重視していることが明確になりました。
政府としても今後、様々な対策で医師偏在対策を推進していこうとするさなかですが、他の産業とは異なる医療業界の特性、そして何よりも「医師の皆様もそれぞれ一人一人は父親であり母親であり、また、子である」ということを踏まえて推進する必要があると思われます。
医師の皆様のみならず、そのご家族の生活を支援する制度(教育支援など)や、柔軟な働き方を可能にする仕組み、そして専門医同士の連携がスムーズに行えるような医療ネットワークの構築など多様なニーズに対応した支援策を講じることで、医師が安心して地域医療に携われることにつながり、ひいてはそれが持続的な国内全体の安定した医療提供体制を築いていく大きな一歩となるのではないか、という結果となりました。
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【アンケート概要】
対象:「民間医局」会員の医師
回答方法:Webによる回答
調査期間・回答者数:
第1回 2025年7月 4日 実施・ 823人
第2回 2025年7月10日 実施・ 882人
第3回 2025年7月18日 実施・ 842人
第4回 2025年7月24日 実施・ 812人