アンケート記事
「医師の働き方改革」が24年4月から本格的にスタートします。メディカル・プリンシプル社は、「民間医局」の会員である研修医に「医師の働き方」についてアンケートを実施しました。回答した人の6割以上が、勤務先から勤務時間を短縮するよう指示を受けていることがわかりました。ただ、勤務時間の減少に伴い、医師としての手技の習得時間が減っている実態が浮かび上がりました。
半数以上が時間短縮は「ネガティブな影響もポジティブな影響もあった」と回答
「医師の働き方改革」は、医師の深刻な長時間労働を背景に、来年4月から医師の時間外労働の上限が規制されます。病院などで働く医師の時間外労働の上限は、原則年960時間、月の平均で80時間にすることを柱に、制度開始を前に、厚生労働省が医療機関などに積極的に働きかけています。
医師の働き方が長時間労働にならざるを得ない背景には、勤務時間内の診療のほかに、特に若手の医師は、勤務時間外になっても院内に残って手技を習得できるよう自己研鑽を積むことが当たり前になっていることがあります。民間医局コネクトでは、2021年と22年に医学部を卒業した研修医を対象に「働き方改革」に関するアンケートをオンラインで実施しました。
まず、医師の働き方改革の影響で、勤務先から残業時間の制限など、勤務時間を短縮するよう指示があるかどうかを聞きました。回答者の6割超が時間短縮の指示があったと答えました。
Q:医師の働き方改革の影響で、先生の病院では残業時間制限など、勤務時間短縮の指示はありましたか。(回答数118)
勤務時間が短縮した結果、「医師としての修練」に影響があったかどうかを尋ねました。その結果、半数以上の人が「ポジティブな影響とネガティブな影響のどちらもあった」と答えています。また、「ネガティブな影響があった」とだけ答えた人と、「ポジティブな影響があった」とする人は、どちらも2割程度でした。
Q:勤務時間短縮の結果として、「医師としての修練」に影響がありましたか。(回答数74)
勤務時間が短縮した結果「医師としての修練時間が減った」と3割が回答
勤務時間の減少にともなう具体的な影響についても聞きました(複数回答可)。回答した57人のうち、3割近くの研修医が「勤務時間が短くなることで、手技の習得時間が減った」と回答しました。さらに、「勤務時間外で症例に自発的にかかわる機会が減った」という人(12人)や「上級医に教わる機会が減った」という人(7人)もいました。
研修医にとって、手技の習得や症例などにかかわる経験は、医師として今後の診療技術の向上にも関わる問題のため、対策が必要な課題といえます。勤務時間が制限されることで、症例について知見を深める機会が減っている実態が浮かび上がりました。
Q:勤務時間短縮の結果として、 具体的にどのような影響がありましたでしょうか。(回答数57)
時間や場所にとらわれずに学べるセミナーや講習のコンテンツを積極的に活用
勤務時間が短縮することに対応するため、どんな対応をしているのかも尋ねました(複数選択可)。最も多かったのは、「図書などで研鑽する」という人が、半数近くにのぼりました。また、「外部の動画コンテンツを利用して知識を深める」という人も有料・無料を合わせて4割近くを占め、時間や場所を問わずに学べるツールを活用して、勤務時間以外でも積極的に学ぶ様子がうかがえます。
また、2割の人が「勤務時間外に病院に居残り、上級医とコミュニケーションする」としていることから、経験年数の浅い研修医にとって、専門的知識の習得のための上級医との対面コミュニケーションを大事にしたいという思いもあるようです。
一方、全体で2番目に多かったのが「自己研鑽は行うが、勤務時間短縮の影響は全くない」という回答も。アンケートに回答してくれた研修医たちは、医学部生の時からコロナ禍を経験しており、リモート授業やオンラインでの講習にも慣れています。従来、医療現場で当たり前とされていた「研修医が研鑽を積むためには、勤務時間外でも院内に残って習得する」という意識は少しずつ変化してきているのかもしれません。
Q:勤務時間が短縮したことに対応するため、どのような対応をお考え(実行している)でしょうか。(回答数118、複数回答可)
研鑽の場は勤務先だけに限らず、外部セミナーなど幅広く活用
現在、「医業の自己修練」としてどんなことをしているのかも聞きました(複数回答可)。最も多かったのは「専門科目の診療に関する学習」で、半数以上の63人が行っていると答えました。勤務先で行うことが多い「手術や回診などの見学」も32%の人が実施していると答えています。
回答で2番目に多かったのは「外部のセミナー・講習の受講」で、半数近い人が取り組んでいると答えました。研修医が「医業の自己修練」をする場は、勤務先はもちろんのこと、勤務先以外でも積極的に取り組んでいる様子がうかがえました。
Q:先生が現在行っている「医業の自己修練」は、どういった内容でしょうか。(回答数118、複数回答可)
今後も「医業の修練」で活用したいのは外部セミナーや講習
Q:今後行ってみたい「医業の自己修練」は、どういった内容でしょうか。(回答数118、複数回答可)
今後、取り組みたい自己修練についても聞きました(複数回答可)。最も多かったのは「外部セミナー・講習の受講」で、「資格取得のための準備・学習」、「専門科の診療に関する学習」と続きました。文献検索などの研究や、海外の論文を読むのに欠かせない「語学学習」も2割以上の人が取り組みたいと答えました。
まとめ:「手技の習得時間」の減少を補う研鑽の場が求められる
今回のアンケートでは、回答した6割以上の研修医が勤務先から働く時間を短縮するよう指示を受けたと回答しました。それに伴って、ポジティブな影響とネガティブな影響が両方あったと答えた人が半数以上に上ったという結果から、医師の勤務時間の短縮への取り組みは、メリットばかりとは言い切れないようです。
特に、勤務時間の減少による影響として3割近くの医師が挙げた「手技の習得時間が減った」という課題は、研修医が今後、医師としてのキャリアを積んでいくうえでも影響があるため、研修医を受け入れる医療機関にも具体的な対策や指導が必要になりそうです。
アンケートに回答した研修医たちは、コロナ禍の中で医学教育を受けてきた人たちです。「医師の働き方改革」によって勤務時間が短縮する中、勤務先だけでなく外部のセミナーなども活用しながら学んでいる様子がうかがえました。
厚生労働省が第一回医療政策研修会及び地域医療構想アドバイザー会議で示した「医師の働き方改革」の目指すべき未来は、「今は多忙な医師も、自己研鑽に十分な時間を割くことができる」「研究にも十分に時間を注げる」「十分な休息で疲労を回復し、笑顔で働ける」といった状況の実現です。これまで、医師や研修医らの自己研鑽の場は、勤務時間を過ぎても勤務先に居残って学ぶことでした。これからは、オンラインなどを活用して時間や場所に縛られずに研鑽する機会を充実させることも、「働き方改革」のカギとなりそうです。
【アンケートの概要】
調査期間:2023年3月31日~4月10日
対象:「民間医局」会員の研修医
回答者数:118人
回答者属性:2021年、2022年に医学部を卒業した研修医
回答していただいた研修医の診療科内訳は以下の通りです。