アンケート記事
地震や津波、豪雨など、自然災害に襲われることが多い日本。災害発生時には、ボランティアや物資支援、金銭的支援、そして医療支援と、さまざまな支援が行われています。民間医局コネクトでは、医師・初期研修医・医学生を対象に、災害支援をテーマとしたアンケートを実施し、1,884名から回答を得ました。災害医療支援の経験から、勤務先の災害対策、また被災時にどのような支援が必要か・必要と考えるかなどまで、さまざまなことについてうかがいました。多くの方が災害支援に前向きな考えを持ち対策が進む一方で、その意識は個人により開きがある、と考えられる結果となりました。
[サマリー]
・「災害医療支援」を行ったことがあるのは13.4%で、回答した医師の10%強が経験。「これまでに行ったことはないが、今後行う予定」は21.9%であり、3人に1人が災害医療支援の経験または行う意思があると回答
・災害医療支援の活動形式はDMATを含めてさまざま。被災した地域でもともと勤務していたという回答が20%弱
・DMAT登録者は少数に限られるものの、約30%が今後DMATに登録したいと考えている
・DMAT登録者の40%強は、自ら希望して登録した
・DMATとして活動している医師、これから活動しようと考えている医師は、自ら進んで社会や人のために自分の能力を活かしたい、それが自分の成長につながると考えている
・DMATに登録したくないと考えている人は、自身の診療範囲と、時間的余裕のなさを理由に多く挙げている
・勤務先が被災した時のマニュアルや対策は、マニュアル44.3%、対策51.0%が「わからない」と回答し、ほぼ半数が実情を把握できていない
・マニュアルがあると答えた人のうち、常日頃から読み備えている人は10%未満
・医療機関では災害時にはさまざまな対策が準備されており、中でも連絡網や指揮系統の整備が進んでいる
・被災した地域に勤務していた方の60%強は、医療支援が「とても助かった」と回答
・金銭や物品の支援は「不足した」という回答が目立つ
※グラフでは小数点以下を四捨五入しています
3人に1人が災害医療支援を経験、または今後行う予定
まずは医師や初期研修医、医学生に、災害支援の経験について聞きました。医療支援、その他の支援について、経験時期と今後の意向を回答いただきました。
Q:これまでにご自身は、「災害医療支援」「ボランティアや寄付などの災害支援」を行ったことはありますか。それぞれあてはまるものをお選びください(単一回答マトリクス、回答数1,884)
「直近1年以内に行ったことがある」の最多は「義援金・寄付などの金銭的支援」の28 %でした。金銭的支援は、「直近1年以内ではないが行ったことがある」も含めると50%以上が「ある」と回答し、経験者が最も多い結果となりました。
経験者の割合を見ていくと、「物資の寄付」は15%が経験(直近1年以内4%/1年以内ではないがある11%)、「災害医療支援」は13%が経験(直近1年以内3%/1年以内ではないがある10%)、「災害ボランティア活動(医療とは別)」は11%(直近1年以内2%/1年以内ではないがある9%)と続きました。
「これまでに行ったことはなく、今後行う予定もない」と答えたのは「その他」を除くと、「災害ボランティア活動(医療とは別)」の70%がトップでした。反対に一番低いのは「義援金・寄付金などの金銭的支援」の28%であり、70%以上はすでに経験しているか、今後行う意思があるという結果となりました。
「災害医療支援」に注目すると、行ったことがあるのは13%で、回答した医師(または初期研修医、医学生)の10%強が経験していました。「これまでに行ったことはないが、今後行う予定」には22%が回答し、3人に1人が災害医療支援の経験がある、または行う意思があると回答しました。
これらの災害医療支援について経験がある、または行う予定と答えた方を対象に、その活動形式について聞きました。
Q:災害医療支援を【直近1年以内に行ったことがある】【直近1年以内ではないが行ったことがある】【これまでに行ったことはないが、今後行う予定】とお答えいただきましたが、この点について、あてはまるものをお選びください(複数回答可、回答数665)
「DMAT(日本・都道府県)とは別で活動」と答えた方が260人でトップでした。続いて「DMAT(日本・都道府県)として活動」の134人、「被災した地域でもともと勤務」の116人が続きました(「答えたくない」を除く)。
「DMAT(日本・都道府県)とは別で活動」が、「DMAT(日本・都道府県)として活動」の約2倍という結果となった一方で、「被災した地域でもともと勤務」し、災害医療支援活動を行った人も20%弱いました。
災害医療支援といえばDMAT、というイメージがあるかもしれませんが、実際には多様な医療支援が行われていることがわかりました。
約30%はDMATに登録している、または今後登録予定
代表的な災害医療支援チームであるDMATについて、医師や医学生はどのように考えているのでしょうか。まずは、前問で「DMAT(日本・都道府県)として活動」と答えた134人を除いた方、つまりDMATとして実際に活動した人以外の方1,750人に、DMAT登録状況と登録意思について質問しました。
Q:DMAT(日本・都道府県)について、ご自身にあてはまるものをお選びください(回答数1,750)
DMATに「現在登録している」人は1%、「今後登録する予定」も3%と少数でした。一方「登録はしていないが、今後登録したいと思っている」と意思を示した人は25%いました。
DMAT登録者は少数に限られるものの、約30%が今後DMAT登録したいと思っていると回答し、これは最初の質問で「災害医療支援」を行ったことがある・今後行う予定と答えた人とほぼ同じ割合でした。災害医療支援に関わるということは、DMATに登録するということと近い意味で捉えられている、と言えるかもしれません。
続いて、「DMAT(日本・都道府県)として活動」経験がある方、DMATに「現在登録している」と答えた方へ、DMATの登録手順を聞きました。
Q:「DMAT(日本・都道府県)として活動」、または「DMAT(日本・都道府県)に現在登録している」とお答えいただきましたが、どのような手順でDMAT登録者となりましたか(回答数156)
DMATに現在登録している人は156人で、回答者1,884人の8%でした。156人のうち、自ら希望して研修を受け登録者となったのは42%、周囲の勧めで研修を受け登録者となったのは29%、研修なし(厚労省の認可)で登録者となったのは17%でした。
DMAT登録者の40%強が、自ら希望して登録者となったことがわかりました。
続いてDMATの活動経験がある方に、DMATに登録した理由を複数回答可として聞きました。
Q:2つ目のQで「DMAT(日本・都道府県)として活動」とお答えいただきましたが、DMAT(日本・都道府県)に登録した理由を教えてください(複数回答可、回答数134)
「社会の役に立ちたいから」がトップで55人が回答しました。続いて「人の役に立ちたいから」46人、「自らの成長につながる」41人、「自分の能力を活かしたいから」36人となりました。「その他」を除いた最小は「見て見ぬふりができないから」の14人でした。
自ら進んで社会や人のために、自分の能力を活かしたい、それが自分の成長につながると考えている医師が多いということがわかります。一方で「職場の取組の一環だから」に34人が回答し、勤務先の方針によって活動している人も一定数いることが見て取れます。
それでは、DMATとしての活動経験はないものの登録している方、今後登録したいと思っている方は、どのような動機を持っているのでしょうか。DMATに「現在登録している」「今後登録する予定」「登録はしていないが、今後登録したいと思っている」と答えた505人に、その理由について聞きました。
Q:3つ目のQでDMAT(日本・都道府県)に【現在登録している】【今後登録する予定】【登録はしてないが、今後登録したいと思っている】とお答えいただきましたが、DMAT(日本・都道府県)に登録した、もしくは登録したい理由を教えてください(複数回答可、回答数505)
「社会の役に立ちたいから」がトップで251人が回答しました。続いて「人の役に立ちたいから」242人、「自らの成長につながる」182人、「自分の能力を活かしたいから」124人となり、前問のすでに活動している医師たちと、ほぼ同様の傾向があることがわかりました。
一方やや違う点として、「職場の取組の一環だから」は44人で「その他」を除くと下から2番目となりました。これからDMATとしての活動を考えている人は、自らの意思で、社会や人のために活動したいと考えていることがわかります。
それでは、DMATへの登録意思がない方は、どのような理由があるのでしょうか。DMATに「登録したいと思わない」と回答した1,215人に、その理由を複数回答可として聞きました。
Q:3つ目のQでDMAT(日本・都道府県)に【登録したいと思わない】とお答えいただきましたが、そのようにお答えになった理由を教えてください(複回答数可、回答数1,215)
「必要な能力が足りていないと思ったから」がトップで546人が回答しました。「時間的余裕がないから」の478人が続き、この2つが他を引き離しました。「勤務先が『災害拠点病院』または『DMAT指定医療機関』ではないから」は、152人にとどまりました。
「必要な能力が足りていないと思ったから」(平均回答率45%)を診療科別に見てみると、放射線科(67%)、皮膚科(57%)、泌尿器科(57%)、精神科(53%)、小児科(52 %)、産婦人科(52%)の割合がやや高い傾向がありました。災害医療には総合的な診療が求められるため、自身の診療範囲との適合性を考慮した結果と言えるでしょう。
そのほか、「自分の時間を大切にしたいから」225人、「参加のしづらさ・抵抗感があるから」218人など、さまざまな理由に一定数が答えていました。
勤務先が被災した時のマニュアル・対策は、約半数が「わからない」と回答
近年国内では様々な災害が発生しており、人ごとではありません。また災害支援は医療だけに限るものでもありません。医師や初期研修医、医学生が今後災害支援を行いたいと思っているのか聞きました。
Q:今後ご自身は、「災害医療支援」「ボランティアや寄付などの災害支援」を行いたいと思いますか。それぞれお気持ちに近いものをお選びください(単一回答マトリクス、回答数1,884)
「ぜひ行いたい」「やや行いたい」と回答した割合は、「義援金・寄付金などの金銭的支援」が63%、「物資を寄付」が43%、「災害医療支援」が43%、「災害ボランティア活動(医療とは別)」が35%となりました。
各項目で高い数値となっており、様々な支援へ関心を抱いていることが見て取れます。特に「災害医療支援」については前述の「経験」に関する質問の回答よりも大きく高い数値であり、意欲の高さがうかがえます。
続いて、現在の勤務先に災害時のマニュアルや、災害対策があるのか質問しました。
Q:「災害時のマニュアル」や「災害に備えた対策」について、ご自身の勤務先にあてはまるものをそれぞれお選びください(回答数1,884)
「ある」と回答したのは、マニュアルが34%、対策が27%で、マニュアルがあると回答した割合のほうがやや高い結果となりました。ただし「わからない」が、マニュアル44%、対策51%と高い割合を占めており、実情を把握できてない医師、医学生がほぼ半数であることがわかりました。
続いて、マニュアルが「ある」と回答した方643人に、マニュアルを見たことがあるか聞きました。
Q:「入院患者の安全確保」「被災者に対する医療提供」に関するマニュアルが「ある」とお答えいただきましたが、実際にそのマニュアルをご覧になったことはありますか(回答数634)
32%が「一度も読んだことはない」で、「常日頃読んでいる」の7%と大きく差が開きました。
読んだことがある方は68%、「1度だけ」しか読んだことがないのがそのうち33%、「きっかけ」があれば読むが28%であり、習慣的に読んでいる方の割合はごく少数であることがわかりました。
続いて勤務先に災害対策が「ある」と回答した511人に、対策の内容を複数回答可として聞きました。
Q:「被害を最小限に留める」かつ「迅速に医療機能を回復させる」対策が「ある」とお答えいただきましたが、具体的にどのような対策をしているか教えてください(複数回答可、回答数511)
「円滑に職員招集を行うことができる連絡網および指揮系統が整備されている」に最多の296人(58%)が回答し、唯一半数以上となりました。それに「年に1回以上の災害訓練を実施」220人(43%)、「スピーディに意思決定を行うことができる体制が整備されている」209人(41%)、「医薬品・医療材料・水と食料・非常用電源を3日分以上備蓄している」190人(37%)が続きました。
「その他」「わからない」を除いた最下位は、「診療継続・中止・病院避難の判断基準の決定」の137人でしたが、その割合は27%と4人に1人以上がこの対策があると回答しており、低い割合ではありませんでした。各項目にそれぞれ100人以上が回答し、さまざまな対策が講じられていて、中でも連絡網や指揮系統の整備が進んでいることがわかりました。
またマニュアルを常日頃から読んでいる、という方は少数であったものの、対策が「ある」と答えた方は、その概要を把握していると言えそうです。
被災した医師の60%強が、医療支援が「とても助かった」と回答
ここまで見てきたように、災害が発生した時はさまざまな支援の方法が考えられます。中でも、医師や初期研修医、医学生はどのような支援が特に必要だと考えているのでしょうか。
被災した医師116名を対象に、とても助かった支援、不足した支援について聞きました。
Q:2つ目のQで【被災した地域で勤務していた】とお答えいただきましたが、外部からの「とても助かった支援」「不足した支援」を教えてください(複数回答可、回答数116)
「とても助かった支援」は、「医療関連の支援」70人、「炊き出し、誘導などの人的支援」63人、「医薬品・医療材料・水と食料などの物品支援」58人、「「義援金」などの金銭的支援」57人の順で上位を占めました。
「不足した支援」は、「わからない/特になし」が45人とトップで、回答者の40%弱が答えました。物品支援が34人、金銭的支援が32人、人的支援が25人と続きました。
医療支援は、「とても助かった支援」でトップでありながら、「不足した支援」では最下位(18人)となっており、今回のアンケートからは、支援がある程度行き届いている、行き届きつつあると言えそうです。一方「とても助かった」けれど「不足した」支援は、金銭や物品の支援ということも読み取れます。
それでは、被災した医師以外の方は、どのような支援が必要と思うのか、1,768人を対象に聞きました。
Q:この先、勤務する医療機関、またはご自身が経営する医療機関が被災することを想定した場合、どのような支援が必要だと思いますか(複数回答可、回答数1,768)
「医療関連の支援」(1,104人)と「医薬品・医療材料・水と食料などの物品支援」(1,091人)が、「炊き出し、誘導などの人的支援」(636人)と「『義援金』などの金銭的支援」(599人)を、2倍弱引き離すかたちとなりました。
多くの医師、医学生が医療関連、および医療を支える物品の支援が必要だと考えていることがわかりました。
いつどこで起きてもおかしくない災害への備えを
今回の結果からは、医師や初期研修医、医学生の約3人に1人は災害医療支援に前向きであることがわかりました。被災した医師は高い割合で医療関連の支援が重要であると意見しており、活動する意思がある方は今後活躍の機会が訪れることでしょう(もちろん災害は起きてほしくありませんが)。
一方、約3人に2人は今後も災害医療支援に関わる意思はなく、勤務先が被災した時のマニュアルや対策があるか分からないと回答した方が約半数と、災害支援についての意識は個人差が大きいということもわかりました。
実際に災害医療支援を行った方のうち、一定数(約20%)は「もともと被災地域で勤務していた」医師であるという結果も得られました。災害は日本中、いつどこで起こるかわかりません。自分事として捉え、日頃から備えておくことも必要ではないでしょうか。
【アンケート概要】
調査期間:2023年2月16日~19日
対象:「民間医局」会員の医師・初期研修医・医学生
回答者数:1,884人(男性1,332人、女性469人、答えたくない83人)
執筆者:Dr.Ma
2006年に医師免許、2016年に医学博士を取得。大学院時代も含めて一貫して臨床に従事している。現在も整形外科専門医として急性期病院で年間150-200件の手術を執刀する。知識が専門領域に偏ることを実感し、医学知識と医療情勢の学び直し、リスキリングを目的に医療記事執筆を開始した。一般の方向けの医療解説と、医療関係者向けのコラムを主に担当し、これまでに執筆した医療記事は300を超える。