アンケート記事
2024年秋から健康保険証が廃止され、マイナンバーカードと一体になったマイナ保険証に切り替わる予定です。民間医局コネクトでは会員医師1298人にアンケートを実施し、マイナ保険証が導入されることで医療現場ではどんなメリットやデメリットを感じているのかを調査しました。勤務先の医療機関でカードリーダーの導入など、マイナ保険証への対応手続きの進捗具合は、「対応済み」「対応中」と答えた人を合わせて半数近くを占めました。患者の医療情報の確認や共有ができることをメリットに感じている医師も多い一方で、業務の効率化につながっていると感じている人はまだ少なく、「機器の認識が遅い、反応しないなどの不具合がよく生じる」「スタッフの業務負担が増えた」といった悩みも多く寄せられました。
医師本人は5割超がマイナンバーカード取得済み、保険証とも連携
Q:健康保険証の廃止、マイナ保険証への切り替えに関心はありますか。(回答数1298)
まず、健康保険証の廃止やマイナ保険証への切り替えへの関心度を尋ねました。「関心がある」(34.4%)と「少し関心がある」(38.9%)を合わせて、7割以上が関心あると答えています。「あまり関心がない」(19.1%)と「関心がない」(6.7%)を合わせて、関心がないと答えた人も2割以上にのぼりました。
Q:マイナンバーカードは取得済みですか。また、保険証との連携手続きは済んでいますか。(回答数1298)
医師本人のマイナンバーカード取得とマイナ保険証への連携手続きについて尋ねました。最も多かったのは「マイナンバーカードを取得済で、すでに保険証との連携も終えている」という人で、半数以上の54.7%(710人)を占めました。「マイナンバーカード取得済で保険証連携は手続き中」9.6%(124人)を加えると、6割以上を占めています。
一方で、「マイナンバーカードを取得済だが、保険証との連携をする予定はない」という人は、22.7%(295人)でした。度重なるマイナ保険証への切り替えトラブルについての報道が影響している可能性も考えられます。また、「マイナンバーカードの取得予定はない」という人も10.3%(134人)いました。
Q:保険証との連携手続きにどのような印象を持ちましたか。(回答数834)
「マイナンバーカード取得済で保険証も連携済」「マイナンバーカード取得済で保険証連携手続き中」と回答した834人に対して、保険証との連携手続きにどのような印象を持ったかを聞きました。
「大変だった」(2.9%)と「少し大変だった」(20.3%)を合わせて、約2割が大変だと感じたと回答しました。一方で、「あまり大変ではなかった」(32.7%)と「大変ではなかった」(23.5%)を合わせると半数以上に上りました。「どちらともいえない」は20.6%(172人)でした。
Q:健康保険証の廃止、マイナ保険証への切り替えについてどう思いますか。(回答数1298)
健康保険証の廃止、マイナ保険証への切り替えについての評価を尋ねました。「良いと思う」(24.0%)と「やや良いと思う」(19.2%)を合わせて、4割超が好意的な評価をしています。一方で、「あまり良いとは思わない」(16.6%)と「全く良いとは思わない」(12.5%)を合わせて、約3割が良くないという評価を下しています。最も多くの回答を集めたのは「どちらともいえない」(27.7%)でした。
「診療報酬軽減」の認知度が低い傾向に
Q:マイナ保険証に関わる各項目について、どのくらいご存知ですか。(回答数1298)
マイナ保険証の導入によって制度変更になる「健康保険証廃止」「マイナ保険証への切り替え」「システム導入の義務化」「診療報酬軽減」「おくすり手帳としての利用」「カードの一元化(診察券、保険証、お薬手帳)」「医療情報の確認や共有」といった項目について、どの程度認知されているのかを聞きました。
ほとんどの項目について、「内容まで理解している」「何となく知っている」を合わせて7割~9割近くを占めました。しかし、「診療報酬軽減」は、他の項目よりも認知度が低い傾向にあり、「内容まで理解している」(16.3%)と「何となく知っている」(46.5%)を合わせて62.8%にとどまっています。「知らない」と回答した人は22.4%と、他の項目よりも高い結果になりました。
Q:マイナ保険証に関わることについて、情報入手源はどこですか。(複数回答可、回答数1298)
マイナ保険証に関わることについて、情報の入手先について聞きました(複数回答可)。最も多くの回答を集めたのは、「新聞やテレビ、アプリなどの情報」(762人)で、以下「政府からの情報」(553人)、「医療情報サイトからの情報」(278人)、「市役所などの行政機関からの情報」(269人)、「職場での情報」(172人)と続きます。
Q:市役所など行政機関から勤務先に対してマイナ保険証に関わる周知はありますか。(回答数1298)
市役所など行政機関から勤務先に対してマイナ保険証に関わる周知があったかどうかを尋ねたところ、「ある」と回答した人は14.2%(184人)にとどまり、「ない」が51.3%(666人)で過半数を占めました。「わからない」は34.5%(448人)でした。
また、市役所などの行政機関からの周知があったと答えた184人に対して、その内容について自由記述形式で尋ねました。
多かった回答は、「マイナ保険証に切り替えを促すお知らせ」(腎臓科・男性・30代)、「マイナ保険証の使い方などの患者向けの資料」(内科・40代・男性)、「制度が始まったこと、対応を要請されていること」(産婦人科・30代・女性)、「県立病院のため導入すること、職員は積極的に導入するように通達されている」(麻酔科・30代・女性)、「切り替えを促進し、医療の効率化を進める」(産業医・30代・女性)など、マイナ保険証についての周知や対応の推進に関する内容でした。
そのほかには、「クリニックにカードリーダー設置が義務化されるという事前通知」(眼科・50代・男性)、「レセプト軽減と、本人確認の厳正化に伴う紙保険証の貸し借りが無くなるなどのメリットを推して周知してくるようになっていた」(精神科・40代・男性)といった回答も寄せられました。
勤務先のマイナ保険証対応は「対応中・対応済み」が約半数
Q:勤務先の医療機関で、カードリーダーなどマイナ保険証に関わる対応の進み具合はいかがですか。(回答数1298)
ここからは、勤務先でのマイナ保険証の対応について聞きました。まず、勤務先の医療機関で、カードリーダーなどマイナ保険証に関わる対応の進み具合について聞きました。「対応済み」(28.3%)と「対応中」(20.5%)を合わせると、半数近くの医師の職場で対応が進んでいました。一方で「対応検討中もしくは迷っている」は9.6%、「対応予定なし」は7.6%でした。最も回答を集めたのは「わからない」(34.1%)でした。
Q:勤務先の医療機関でカードリーダーの導入など、マイナ保険証への対応手続きはいかがでしたか。(回答数633)
勤務先のマイナ保険証に関わる対応について「対応済み」「対応中」と回答した633人に対して、マイナ保険証への対応手続きに対する印象を聞きました。
「大変だった」(7.3%)と「少し大変だった」(25.6%)を合わせて32.9%、「あまり大変ではなかった」(18.3%)と「大変ではなかった」(5.8%)を合わせて24.1%と、大変ではなかったという人がやや優勢でした。全ての回答で最も多かった回答が「わからない」で、43.0%でした。
Q:マイナ保険証に関するシステム導入により、業務効率化は出来ていますか。(回答数367)
マイナ保険証に関わる対応について「対応済み」と回答した367人に対して、マイナ保険証に関するシステム導入によって業務の効率化は出来ているかどうかを聞きました。
「出来ている」(4.1%)と「やや出来ている」(11.7%)を合わせて、業務効率化ができていると回答したのは15.8%にとどまっています。一方で、「やや出来ていない」(14.2%)と「出来ていない」(28.6%)を合わせて42.8%と、4割以上が導入による業務の効率化を実感できていないことがわかりました。最も多くの回答を集めたのは「わからない」で41.4%でした。
Q:ご自身の医療機関では、2024年秋までにマイナ保険証に関するシステム導入は可能ですか。(回答数266)
マイナ保険証に関わる対応について「対応中」と回答した266人に対して、2024年秋までにマイナ保険証に関するシステム導入は可能かどうかを聞きました。
最も多かったのは「対応可能」で48.1%(128人)でした。「対応不可能」は12.4%(33人)、「わからない」は39.5%(105人)という結果でした。
患者の医療情報の確認や共有ができるメリットの一方で、対応に苦戦中との声も
Q: マイナ保険証の導入で想定されるメリットは何だと思いますか。(複数回答可、回答数1298)
ここからは全員に対して、マイナ保険証の導入に対する印象を聞きました。まず、マイナ保険証を導入するメリットについて尋ねました(複数回答可)。最も多かったのは「医療情報の確認や共有ができる」(473人)でした。以下、「持ち運びするカードが減る(診察券、保険証、お薬手帳の一元化)」(440人)、「お薬手帳としての利用ができる」(416人)、「確定申告の医療費控除手続きができる(自動化)」(354人)、「引っ越しや転職時も更新が不要になる」(350人)という結果でした。病院での利便性向上や手続きの簡便化についての選択肢に多くの回答が集まりました。
自由記述形式で聞いた「その他」では、
・将来的に、死因究明にあたって過去の受診歴や治療歴の情報がかなり得やすくなることを期待しています(その他(法医学)・30代・答えたくない)
・コスト低減による国の医療費削減(消化器内科・40代・男性)
といった回答が寄せられました。
Q:マイナ保険証の導入で想定されるデメリットは何だと思いますか。(複数回答可、回答数1298)
続いて、マイナ保険証の導入で想定されるデメリットについて聞きました。最も多かったのは「システムダウンやエラーにより使用できない場合がある」(556人)でした。以下、「高齢者にはマイナ保険証の利用申請が難しい」(555人)、「人為的なトラブルが多すぎて、使用するのが不安」(513人)、「個人情報漏洩のリスクや詐欺などの心配がある」(479人)、「マイナンバーカード紛失時に健康保険証が利用できない」(459人)という結果でした。万が一の際に利用できなくなることや、情報漏洩リスクへの不安についての選択肢に多くの回答が集まりました。
デメリットに関する「その他」自由記述では、
・機器の準備や情報漏洩について医療機関がリスクや賠償金を背負う可能性が出てくるが、それに対する国の責任の明確性はない(総合診療科・30代・男性)
・医療情報の共有が出来ると言うが、どの程度の情報をどう共有するのか、まったく現場で議論がないままに進行している(小児科・50代・男性)
・精神疾患の既往を知られたくない場合に他の医療機関に知られてしまう(産業医・30代・女性)
・意識のない患者の場合に使えない。顔に怪我をしている場合も使えない(眼科・60代・女性)
といった回答が寄せられました。
Q:患者さんからのマイナ保険証の問い合わせはありますか。(回答数1298)
患者さんからのマイナ保険証の問い合わせはあるかどうかについて聞きました(複数回答可)。「ご自身に直接問い合わせがあった」が52人、「他の先生や職員に問い合わせがあった」が173人でした。「問い合わせはない」は516人、「わからない」が573人でした。
患者さんからのマイナ保険証の問い合わせについて、「自分に直接問い合わせがあった」と回答した医師52人に対して、具体的にどのような内容の質問だったかを自由記述形式で聞きました。
特に多かった回答は、「マイナ保険証についてどのような運用になるか」(総合診療科・30代・男性)、「具体的な使用方法」(循環器内科・30代・男性)、「今度から保険証をどうすればいいのかという高齢者の問い合わせ」(内科・30代・女性)といったマイナ保険証の使い方・機能についてのほか、「使用できるのかどうか」(整形外科・40代・男性)、「いつから使用可能か」(内科・20代・男性)といったマイナ保険証が病院で使えるのか・いつから使えるのかについての質問でした。
そのほかには「使用時の個人情報の範囲について」(内科・40代・男性)、「情報漏洩は大丈夫か、今月分の薬剤情報は出ないのか、など、なんで私に聞くのか分からないような質問」(内科・60代・男性)、「医療費は安くなるのか」(総合診療科・30代・男性)など、マイナ保険証の安全性や医療費について尋ねられたという回答もありました。
患者さんからのマイナ保険証の問い合わせについて、「他の先生や職員に問い合わせがあった」と回答した医師173人に対して、具体的にどのような内容の質問だったかを自由記述形式で聞きました。
特に多かった回答は、「使用が可能か、使用方法などについて」(内科・50代・男性)、「過去の特定健診の結果が見られるのかどうか」(健康診断・40代・女性)、「マイナンバーカード申請手続きやマイナ保険証の読み取り方など、基本的なことをよく尋ねられるようです」(呼吸器内科・30代・答えたくない)など、マイナ保険証の使い方・機能についてのほか、「勤務する医療機関がマイナ保険証を利用できるか否か」(精神科・30代・男性)、「マイナカードはもう使えるかという問い合わせ」(消化器内科・30代・男性)など、マイナ保険証が病院で使えるのか・いつから使えるのかについての質問でした。
そのほかには、「自分の情報が漏れているのではないかという問い合わせ」(眼科・60代・女性)、「紙の保険証でもいいのかという事務的な問い合わせ」(代謝内科・30代・男性)、「マイナ保険証を使用すると、通常の健康保険証より安く済むのか」(腫瘍内科・40代・男性)、「紛失したので受診できないのか。対応しているのか。期限が切れているのでどうしたらいいか」(内科・30代・男性)など、保険証の安全性や医療費についての質問も同様に多く寄せられているようです。
また、「窓口の職員が使えることを知らなかったので、クレームが来た」(糖尿病科・30代・女性)という回答もありました。
Q:マイナ保険証について困っていること、問題点、トラブル事案はありますか。(回答数1298)
マイナ保険証について困っていること、問題点、トラブル事案はあるかについて聞きました。「ある」という人は18.6%(241人)、「ない」という人は81.4%(1057人)でした。
マイナ保険証について困っていること、問題点、トラブル事案について「ある」と回答した241人に対し、どのような問題があるかを自由記述形式で尋ねました。以下、回答の一部を紹介します。
【機器が読み取りできない/システムダウンや緊急時の対応】
・読み取れず患者が一時自己負担せねばならないケースがあった(精神科・30代・男性)
・保険証との紐付けミスで読み取れない患者が当院でもいた(内科・30代・男性)
・認識が遅い、反応しないなど不具合がよく生じる(放射線科・40代・男性)
・救急対応時(意識不明患者の本人確認)にマイナンバーカードから必要な情報が得られない(内科・20代・女性)
・システムに強い職員が十分でない。投資に費用が掛かる、エラー等が発生したときに日常診療に影響する懸念が大いにある(総合診療科・30代・男性)
・マイナンバーカードだけ持っている泥酔者を含めた意識障害患者が救急搬送されてきても、暗証番号もわからず、保険診療に対する費用請求という入口から悩まされることとなる。特に夜間救急帯は「当日に精算できない」と訴える患者が日中に比較して少なくなく、かつ踏み倒す人もいる。それでも国からはマイナンバーカードが対応できなかったとしても窓口負担は本人申告の割合で、という責任のない発言が繰り返され、どれだけの労働力と人件費と赤字を医療機関が背負わされるリスクとなるのかをわかっていない(総合診療科・30代・男性)
【個人情報漏洩リスク】
・情報漏洩のリスク、紐付けミス(小児科・40代・男性)
・守秘義務をこれまで以上に気を付けないとトラブルが起きる。個人情報が抜き取られ悪用のリスクが高まる(内科・30代・男性)
・個人情報が流出しかねないトラブルが日々報道されていること(糖尿病科・20代・女性)
【先生自身・病院側が理解していない】
・テレビで見るような不手際が多く、漠然と不安である。知らないこともまだまだ多く、全ての医療機関が一斉に導入してもらわないと困る(麻酔科・30代・男性)
・あまり具体的な点がわかっておらず、申請しない人に対してどういうデメリットがあるかもわかっていない(糖尿病科・30代・男性)
【患者(高齢者)が対応できない】
・機械に不慣れな人は申請が難しいと思う。基本的に対応スマホをもっていないと、マイナポータルにアクセスできず、申請方法がない(神経内科・40代・女性)
・高齢者へのサポートの手間(内科・40代 ・女性)
・いまだに病棟で寝たきり身寄りなしの患者が取得できない。代行は手間がかかりすぎる(消化器外科・70代以上・男性)
・老人施設での訪問診療でマイナンバーカードの管理や保険証確認をどうするか(内科・30代・女性)
【病院側の作業の増加】
・スタッフの業務負担が増えた。お薬手帳の方が昔の内容を確認しやすい(内科・50代・男性)
・役所に問い合わせるべきことを患者さんから問われてしまうこと(精神科・50代・男性)
・病院にどうしたらマイナ保険証にできるのかといった問い合わせが多く、業務に差し支える(内科・40代・女性)
回答からは、緊急時やトラブル時の際の不安や、情報漏洩への対策、高齢者への対応など、切実な声が多く寄せられました。
まとめ:エラーやトラブルの際の対応など、病院側の負担増への懸念の声多数
今回のアンケートでは、マイナンバーカードを取得済ですでに保険証との連携も終えていると答えた医師は半数以上の54.7%でした。健康保険証の廃止やマイナ保険証への切り替えについての評価を尋ねると4割超が好意的な評価をしています。
一方で、勤務先の病院でのマイナ保険証への対応については、不安の声や対応に追われる現場の声が多く寄せられました。勤務先の医療機関でのマイナ保険証への対応手続きの進み具合は、「対応済み」「対応中」は合わせて約半数。「対応済み」の人のうち、マイナ保険証に関するシステム導入によって業務効率化を感じられている人は15.8%にとどまっています。
マイナ保険証について困っていることや問題点、トラブル事案について尋ねた自由記述回答からは、「機器が読み取りできない/システムダウンや緊急時の対応」「個人情報漏洩へのリスク」「病院側の作業が増えている」といった悩みが多く寄せられました。
【アンケート概要】
調査期間:2023年8月7日~13日
対象:「民間医局」会員の医師
回答者数:1298人(男性924人、女性335人、わからない・答えたくない39人)