特集
4人に1人が75歳以上になる超高齢化社会を2025年に迎える日本。既に超高齢化社会に突入している自治体も多く、国は医療制度改革法案によって「在宅医療」の充実を推進しています。
今回は、これからの日本の医療に重要な役割を担う在宅医療に注目し、今後ますますニーズが高まるであろう「在宅医」について様々な角度から解説していきたいと思います。
1. 「在宅医療・訪問診療」の定義と役割
患者は医療を受けたいときどうするか? 当然、患者は病院や診療所に赴きます。
では、患者が病院や診療所に行きたくても、身体が不自由で、病院に連れていく家族などがいない場合はどうするのか? こうした問題は超高齢化社会の突入により増加していくと予想されています。
それを解決するのが在宅医療であり、医師が患者のいる場所(自宅など)に出向いて行う診療が「往診」や「訪問診療」です。
「往診」と「訪問診療」は、どちらも患者のいる場所へ出向く点では同じですが、異なるサービスとなります。
往診と訪問診療の違い
往 診
医師が“予定外”に患者のいる場所に赴き診療を行うこと。
訪問診療
在宅療養を行う患者であって、疾病・傷病のため通院が困難なものに対して“定期的”に訪問して診療を行うこと。
「往診」は通院できない患者から、電話などで“予定外”に訪問要請が入り、医師がその都度、患者のいる場所に赴き診療を行うことであり、患者が困ったときの臨時の手段となります。
これに対して、「訪問診療」は、在宅医療を行なう患者で通院が困難な方に対し、あらかじめ診療計画を立て、“定期的”に患者のいる場所に赴いて行なう診療となります。
2. 診療点数の高い「訪問診療」
医師や看護師などの医療従事者が患者の元に赴く「往診」や「訪問診療」には、人員体制などの医療資源を外来などより多く必要とするため、診療報酬は外来と比べ約10倍高く設定されています。
診療点数の比較
外来(再診料) | 72点 |
往診(往診料) | 720点 |
訪問診療(在宅患者訪問診療1) | 833点 |
また、「往診」や「訪問診療」は診療点数が高いため医療上の必要性にかかわらず安易に実施されることのないよう、下記のように一定の要件が定められています。
往診・訪問診療の実施要件
保険医療機関の所在地と患家の所在地との距離が16キロメートルを超える往診・訪問診療については、当該保険医療機関からの往診等を必要とする絶対的な理由がなく、特に患家の希望によって行われる場合は認められないものとされている。
これは、患者の自宅から16キロメートル以内に診療を行う医療機関があるにも関わらず、患家の希望により遠方の医療機関から往診・訪問診療を行うことは、医療資源を多く消費し、ひいては医療保険に負荷を及ぼす可能性があるためです。
なお、半径16キロメートル以内に、患家の求める診療に専門的に対応できる保険医療機関が存在しない。また、専門的に対応できる保険医療機関が存在していても往診・訪問診療を行っていない場合や、往診距離が片道16キロメートルを超えた場合などであって、「特殊の事情」(冬期積雪時や道路事情が極めて悪く、往診に相当長時間を要する事情にあること)があったときは16キロメートルを超えて往診などを行うことができます。
3. 日本の医療でさらなる重要性を増す「訪問診療」
厚生労働省は地域包括ケアシステムの構築や、高齢化で進む医療ニーズと保健費用増大への対応など超高齢化社会に向けた対策を推し進めています。厚生労働省による診療報酬の改定(2016年4月から施行)では訪問診療の基準に新たな改定が行われました。
訪問診療における2つの主な改定
①
在宅への訪問を専門として外来患者を受け入れる
設備を十分に持たない診療所を認める
それまで厚生労働省は、訪問診療を行う際は一定の広さの診察室を設けて医療機器を揃えることなどにより、外来に応じる体制を整えておくよう診療所を指導していました。つまり訪問だけを専門にした運営は認めていなかったのです。
2016年4月施行の診療報酬の改定により、外来応需の義務を負わない“在宅医療専門の診療所”が制度化され、訪問診療の推進と、患者を地域で診られる受け皿の拡充が図られました。
②
患者の重症度、訪問回数に応じた医学管理料の細分化
これまで画一的だった訪問診療の医学管理料が、重症度や訪問回数によっても細分化されるようになりました。管理料はこれまでの「同一日に訪問診療を行う人数」から「単一建物内で医学管理を行っている人数」へと定義が見直され、個別訪問数による高い管理料の算定ができなくなりました。これにより、居宅で末期がんなどの重症者を中心に診療していた医療機関は増収となり、軽症者を中心に多くの訪問診療をしていた医療機関は減収になることが予想されます。
さらに充実した緩和ケアを提供する医療機関への加算も設けられ、在宅医療における緩和ケアの重視も図られました。
“在宅医療専門の診療所”が認められ、さらに「重症度、訪問回数に応じた医学管理料の細分化」や「充実した緩和ケアの加算」など、正に超高齢化社会に向けた改定であり、今後の日本の医療における在宅医療の重要性と位置付けの高さをうかがうことができます。
4. 「訪問診療」における働き方と求人ニーズ
医師の「訪問診療」における働き方には、“施設”への訪問診療医として働く、そして“個人宅”への訪問診療医として働くという、大きく分けて2つの働き方があります。
“施設”への訪問診療
医療機関と提携したケアミックス、グループホーム、老人ホーム、高齢者賃貸住宅などを定期的に訪問し、利用者の診療を行います。個人宅とは異なり、一つの施設でまとまった人数の診察を行うことになります。
“個人宅”への訪問診療
医療機関と提携したケアミックス、グループホーム、老人ホーム、高齢者賃貸住宅などを定期的に訪問し、利用者の診療を行います。個人宅とは異なり、一つの施設でまとまった人数の診察を行うことになります。
訪問診療の求人は、「外来+訪問診療」での募集が多いですが、最近では「訪問診療のみ」の募集も増えてきています。
訪問診療は、施設訪問、個人宅訪問に関わらず、その性質上、勤務条件は基本的にオンコールあり、24時間365日体制であることが多いです。しかし、日勤は常勤医が担当し、夜間は非常勤の医師が対応する施設もあり、ワークライフバランスを重視した働き方も可能です。
日本の医療は今後、方向性として病床数を削減し高齢者を他の施設や在宅に誘導することが強くなると予想されているため、在宅医療のニーズはますます高まり、訪問診療医の活躍できる場所も都市部や地方に関係なく全国的に増えていくでしょう。
5. 在宅医の年収について
在宅医の平均年収 | 約1,658万円 |
(医師募集求人の平均年収 約1,454万円)(医師の平均年収 約1,240万円)
※診療科の平均年収、募集案件の平均年収は「民間医局」調べによるデータを参照
※医師の平均年収は「厚生労働省 平成28年 賃金構造基本統計調査の統計データ」を参照
在宅医の年収は医師全体の募集年収と比較して高めとなっています。これは外来診療や病棟管理とは異なり、24時間365日の対応、オンコールあり、移動あり(車の運転など)、さらに医療資源の乏しい地域での医療活動や、後期高齢者医療制度、介護保険制度などを背景とした高い診療報酬などが要因と考えられます。
さらに、院長や所長といった役職の募集も多く、年収2,000万~2,500万円以上の求人も見受けられます。
6. 「在宅医療」に必要なスキルと資格
在宅医に求められる能力は総合的に診ることができるスキルですが、臨床を数年経験した医師であっても対応することは可能です。また、医療スキル以外にも重要となるのはコミュニケーション能力です。在宅医は患者の健康管理や基本的な検査、治療以外にも緩和ケア、看取りという重要な仕事があります。患者や家族の希望を聞き、気持ちに寄り添った診療が求められるため、日頃からの密なコミュニケーションは必須であると言えます。
在宅医の求人は内科医の募集が多く、2018年度から始まる新専門医制度での「総合内科専門医」や内科系、外科系に関係なく幅広く診ることができる「総合診療専門医」、さらに急病患者を診療科に関係なく診療し、救命救急処置や集中治療に秀でた「救急科専門医」の資格取得は、在宅医療をする上で非常に有利なものとなるでしょう。
そして、在宅医として活躍するために取得しておくべき資格があります。それが日本在宅医学会の「在宅医療専門医」です。
日本在宅医学会 在宅医療専門医制度について
■ 申請資格
・医師免許を有し、医師として5年以上の経験を有していること。
・医師としての人格ならびに見識を備え、在宅医療に実績を有していること。
・日本在宅医学会の会員であること。ただし、研修プログラムの実施に支障のないかぎり、会員歴は問わない。
・日本在宅医学会が定める基礎学会の研修を修了していること、または日本在宅医学会のさだめる基礎学会の認定医あるいは専門医資格を取得していること。
・緩和ケア研修と内科研修を修了していること。ただし、一定の条件を満たす場合は、これを免除する。
・日本在宅医学会の在宅研修プログラムを修了していること、あるいは申請期日までに在宅研修プログラムを修了見込みであること。ただし、5 年以上の訪問診療の経験を有するもので、日本在宅医学会が認めたものは、在宅研修プログラムでの研修を免除し、認定専門医試験受験資格を認める(以下これを実践者コースという)。実践者コースの申請については細則で定める。
試験については一次審査として書類審査、二次審査として専門医試験が行われ、「在宅医療専門医」の合格率は、2011年度で66.7%となっています。
また、在宅医として「日本在宅医学会専門医」以外にも、「家庭医療専門医」や「老年病専門医」などの資格も重要なものとなります。各専門医資格についての詳しい情報は下記のホームページをご確認ください。
・「在宅医療専門医」について
一般社団法人 日本在宅医学会
http://www.zaitakuigakkai.org/k-senmon.html
・「老年病専門医」について
一般社団法人 日本老年医学会
http://www.jpn-geriat-soc.or.jp/index.html
・「家庭医療専門医」について
一般社団法人 日本プライマリ・ケア連合会
http://www.primary-care.or.jp/nintei/index.html
在宅医療は今後ますますニーズが高くなる分野です。
在宅医のニーズも高まり、日本の医療にとって重要な存在になることは間違いありません。
在宅医は患者の生活環境など私的部分にまで関わりながら、病気だけではなく心にも向き合います。患者や家族からの反応もダイレクトに感じることができ、医師としてのやりがいも充実度も非常に高いと言えるでしょう。
全人的医療を理想とする医師の方は、ぜひ在宅医という道も視野に入れ、キャリアを考えてみてはいかがでしょうか。
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