記事・インタビュー

2017.10.27

DPP-4 阻害薬の効果はプラセボと同等?

武蔵国分寺公園クリニック
院長

名郷 直樹・五十嵐 博

  新しい経口糖尿病治療薬であるDPP- 4阻害薬は、近年使用される頻度が増えている薬の一つです。 2012年には18の研究(追跡期間24週間以上)が結合されたランダム化比較試験のメタ分析が発表されています。 2型糖尿病患者(8544人)にDPP-4阻害薬を投与すると、プラセボまたはその他の経口糖尿病治療薬の投与と比較して、心血管系イベントはDPP-4阻害薬群で0.9%、対照群で1.3%とDPP-4阻害薬群で52%少ない(相対危険0.48、95%信頼区間0.31〜0.75)という結果でした。

そんな中、2013年のNew England Journal of Medicine に、DPP-4阻害薬の心血管疾患に対する効果を検討した二つの大規模ランダム化比較試験の結果が発表されました。

一つ目の研究(SAVOR-TIMI 53研究)は、心血管疾患の既往またはリスクを有する2型糖尿病患者1万6492人を対象に、既存の治療に加えて、DPP-4阻害薬の一つであるサキサグリプチンまたはプラセボを投与したランダム化比較試験です。中央値2.1年間の追跡で、心血管死亡、非致死的心筋梗塞、非致死的虚血性脳卒中の複合アウトカムは、サキサグリプチン群で7.3%、プラセボ群で7.2%と同等という結果となっています(相対危険1.00、95%信頼区間0.89〜1.12)。 SAVOR-TIMI 53 研究で注目すべきは、心不全による入院がサキサグリプチン群で3.5%、プラセボ群で2.8%と、サキサグリプチン群で増加している点です(相対危険1.27、95%信頼区間1.07〜1.51)。 また、重度の低血糖はサキサグリプチン群で2.1%、プラセボ群で1.7%と、サキサグリプチン群で多く(p=0.047)、総死亡もサキサグリプチン群で4.9%、プラセボ群で4.2%と、サキサグリプチン群で多い傾向にありました(相対危険1.11、95%信頼区間0.96〜1.27)。

もう一つの研究(EXAMINE 研究)は、急性冠症候群(心筋梗塞または入院を要する不安定狭心症)後の2型糖尿病患者5380人を対象に、DPP-4阻害薬の一つであるアログリプチンまたはプラセボを投与したランダム化比較試験(非劣性試験)です。中央値18ヶ月間の追跡で、心血管死亡、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中の複合アウトカムは、アログリプチン群で11.3%、プラセボ群で11.8%と、これまた同等(相対危険0.96、99%信頼区間の上限1.16)という結果となっています。

SAVOR-TIMI 53 研究の結論は、「リスクが高い2型糖尿病患者において、サキサグリプチンはプラセボと比較して、心血管イベントを増やしも減らしもしなかったが、心不全による入院は増加した」、EXAMINE 研究の結論は、「急性冠症候群後の2型糖尿病患者において、アログリプチンを投与しても、プラセボと比較して、心血管イベントは増加しなかった」となっています。 しかし、これはよく考えてみればおかしなことです。どちらの研究でも、HbA1c は、DPP-4阻害薬群でプラセボ群より低くなっており、心血管疾患を増やすことなく血糖を下げたという主旨なのでしょうが、本来、糖尿病治療の目的は血糖を下げることではなく、合併症の予防にあるはずです。

プラセボと合併症予防効果が同等で、副作用の危険が高い薬に、1錠何百円という値段をつけて、公的な保険医療費で賄うというのは、保険制度を破綻させるための謀略という気さえします。

もう一つ言えることとしては、「小規模ランダム化比較試験のメタ分析には要注意」ということがあります。小規模研究の結果が、一つの大規模な質の高い試験によって否定されるというのは、糖尿病に限らずしばしば経験することです。注意したいものです。

 

【参考文献】

Patil HR, Al Badarin FJ, Al Shami HA, et al. Meta-analysis of effect of dipeptidyl peptidase-4 inhibitors on cardiovascular risk in type2 diabetes mellitus. Am J Cardiol. 2012 Sep 15;110(6):826-33.Epub 2012 Jun 15. PubMed PMID: 22703861.

White WB, Cannon CP, Heller SR, et al. ; EXAMINE Investigators.Alogliptin after acute coronary syndrome in patients with type2 diabetes. N Engl J Med . 2013 Oct 3;369(14):1327-35. Epub2013 Sep 2. PubMed PMID: 23992602.

Scirica BM, Bhatt DL, Braunwald E,  etal. ; SAVOR-TIMI53 Steering Committee and Investigators. Saxagliptin and cardiovascular outcomes in patients with type 2 diabetes mellitus. N Engl J Med . 2013 Oct 3;369(14):1317-26. Epub 2013 Sep 2.PubMed PMID: 23992601.

※ドクターズマガジン2015年5月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。

名郷 直樹、五十嵐 博

DPP-4 阻害薬の効果はプラセボと同等?

一覧へ戻る