記事・インタビュー
沖縄県立八重山病院
内科部長
篠浦 丞
「日本の消化器病学は世界一」という話をよく聞きます。消化器で臨床留学する際、多くの方から「何でわざわざアメリカくんだりまで行くの?」と聞かれたものです。確かに例えばESD(内視鏡的粘膜下剝皮術)は、内視鏡医の方々の不断の努力と綿密なアプローチで、日本のレベルは確実に世界をリードしています。しかし、広大な消化器全体を見ると日本がアメリカに学ぶことはまだまだあると思います。
今回はそのような観点から、アメリカの「コンサルテーション技法」に関連した私の経験をご紹介しましょう。アメリカでは、他の専門科も同様ですが、消化器科は一般内科よりコンサルトを受けてから患者にコミットします。そのため、専門研修医である消化器科フェローは研修中に「コンサルトでよく聞かれる消化器愁訴への対処法」のトレーニングを受けます。私はそれををコネチカット州の病院で受けましたが、そのときは、例えば慢性下痢のワークアップをこう教わりました。
「まず慢性下痢の原則は感染症が少ないこと、やっぱり病歴が重要なこと、それに食事との関係で大体鑑別がつくことだ。まずはこのmnemonics を覚えろ(表1)」
「最初の問診(1-1)でビンゴならそれで上がりだ。乳糖や果糖不耐症は加齢と共に徐々に出てくるので本人も原因を自覚しない事が多い。リスク薬剤はDATSUN(1-2)だ。小腸を狙って放射線照射することはまず無いが、骨盤内臓器照射で結果的に小腸に当たることはあって、その5〜10年後に下痢が発症する事がある。アルコール常習者は慢性膵炎でなくても下痢が多い。糖尿病の機序は蠕動低下によるbacterial overgrowth。ウサギのウンチと下痢を繰り返してれば過敏性腸症候群を考える。これらをヒットしなければ食後に増悪する下痢か(1-3)、夜中もある下痢か(1-4)を聞いてみる」
「厳密な意味でのceliac sprue は白人以外はまず無い。診断は十二指腸生検で絨毛萎縮をチェックするわけだけど、東洋人でも十二指腸絨毛萎縮は寄生虫やbacterial overgrowth で起こる。葉酸が正常なのにB12が低いことで推測できるよ」
「診断をつける事も大事だけど、見落としがないよう決まったやり方で絞り込むことが大事だ」
教科書を開くと、このマンガみたいな方法が実は病態生理にのっとっており、重要疾患をある程度網羅していることを知りました。医学部の講義で出てきた、浸透圧性、炎症性下痢の鑑別やら蓄便で便中電解質を見る、といった「下痢のアプローチ」が実際には使えない事を痛感していたので、この講義は新鮮でした。
ちなみに「Operation」では回盲部切除歴に注意が必要です。ファータ乳頭から消化管にでた胆汁酸は回腸で再吸収されますが、回盲部の切除範囲により胆汁酸が大腸を刺激して生じる水溶性下痢が生じたり、範囲が長い場合には胆汁酸プール自体の低下による脂肪性下痢が生じたりします。
24-7-365 CT のCTは上記コネチカット州の略号で、それ以上の意味はありません。「四六時中(twenty-four seven three sixty five = 四六時中)止まらない下痢は、CとT、と覚える。C=Carcinoid or Carcinoma、T=thyroid imbalance だよ。コネチカットで四六時中働かされている、君達自身を思い浮かべて覚えればいい」といわれました。
表1 「慢性下痢の鑑別と原因薬剤、これだけ覚えたらよいmnemocics」
Muddy ROAD TRAVEL with Family(1-1)
下痢患者で必ず聞くべき情報
Milk and fl uctose allergy/ Drugs/ Roentogen therapy/ Operation-surgical/AIDS&Alcohol/ DM/ Travel history/ Irritable bowel/ Family history of IBD
DATSUN(1-2)
薬剤性下痢の鑑別
Diuretics/Anti-Acids-Anti-Arrhythmia/ Theophylline/ Softner/( u/) NSAIDs
Post Breakfast Complaints with Sick Stool(1-3)
食後下痢の鑑別
Pancreatobiliary disorder/ Bacterial overgrowth/ Celiac Sprue
24-7-365 at CT (ConnecticuT)(1-4)
四六時中(24-7-365)止まらない下痢(exudative diarrhea)
Carcinoids & Carcinoma, Adenoma/ Thyroid imbalanace
監修:岸本 暢将[聖路加国際病院アレルギー膠原病科(成人、小児)]
※ドクターズマガジン2012年2月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。
篠浦 丞
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