記事・インタビュー

夜間・休日往診代行サービス ON CALL 代表 符 毅欣(ふう たかよし)によるシリーズ記事の第8回をお送りします。
夜間往診の現場で「人となり」まで磨かれていく仕組み
前回は、夜間在宅が若手医師にとって「治す医療」だけでなく、「生活を支える医療」を学ぶ場になることを描いた。今回は、その学びが偶然に任されるのではなく、日々の往診のなかで少しずつ積み重なっていく背景に目を向けたい。
夜間往診は、一件一件の関わりが短い。短いからこそ、患者や家族が感じ取るのは、医療の中身と同時に、医師やチームの雰囲気や言葉の温度だ。主治医ではない医師が訪れることも多く、そのふるまいは自然と「医療機関としての姿勢」として受け止められる。
だから夜間在宅では、医療の正しさと同じくらい、安心の伝え方が大切になる。その感覚を育てていくために、現場にはいくつかの「振り返り」が用意されている。
小さな違和感をそのままにしないために

症例の振り返りは、何か大きな問題が起きたときだけに行われるものではない。
患者や家族、施設から寄せられる声、医療機関から共有される所感、同行するスタッフが現場で感じた引っかかり。あるいは、診療後に集まる評価のなかで見えてくる、ほんの小さな揺れ。そうした断片が重なったときに、「一度、皆で立ち止まって整理してみよう」という判断がなされる。
もちろん、明確なクレームとして表に出てくることもある。その場合は医療機関を通じて事実関係を確認し、どこにズレがあったのかを丁寧に振り返る。ただ、ここで重視されているのは、責任の所在を明らかにすることではない。「なぜそう受け止められたのか」「別の伝え方はあり得たか」を、チームとして共有することに重きが置かれている。
週に一度行われるミーティングは、長時間の反省会ではない。おおよそ1時間ほどのなかで、事実を揃え、判断の背景を言葉にし、次に似た場面が来たときの手がかりを残していく。医師だけでなく、コールセンターや往診ディレクターの関わり方も含めて振り返るのは、夜間往診がチームで成り立つ医療だからだ。
在宅医療では「伝わり方」そのものが医療になる

こうした振り返りの場で、話題の中心になりやすいのは、やはりコミュニケーションだ。
医療的な判断が問われることもあるが、現場の実感としては、言葉の選び方や説明の順序、間の取り方といった要素が、結果に大きく影響することが少なくない。
病院では、正確な情報を過不足なく伝えることが何より重要になる。一方、在宅、とくに夜間では、「このまま家で過ごせるのか」という不安のなかで説明を聞く家族がいる。救急搬送という選択肢を示すにしても、その利点と負担をどう並べて伝えるかで、受け止め方は大きく変わる。
若手医師にとって、こうした感覚は最初から身についているものではない。だからこそ振り返りのなかで、「医療としては正しかったか」に加えて、「在宅医療機関としてふさわしい関わり方だったか」という視点が何度も確認される。夜間休日在宅が、生活に寄り添う医療を学ぶ場になる理由はここにある。
往診ごとに積み重なるいくつもの視点
夜間往診の評価は、年に一度の形式的なものではない。
一回一回の往診に対して、同行するディレクターの視点、医療機関の視点、そして患者や家族の受け止めが、少しずつ重なっていく。
ディレクターからは、コミュニケーションや接遇、身だしなみ、医療の進め方といった観点で所感が共有される。患者が安心して話せていたか、多職種との連携がスムーズだったかといった点も、現場の感触として言葉にされる。
事後には、医療機関からのフィードバックが加わる。カルテを見た医療的なコメントに加え、「来てくれた先生の雰囲気が良かった」「家族が落ち着いた」という声が伝えられることもある。主治医ではない医師が関わる夜間休日往診だからこそ、こうした評価は、医師にとって大きな手応えになる。
評価が一方向にならないよう、複数の視点が行き交う形が意識されている。図に示されているように、医師とディレクター、医療機関とチームが相互にフィードバックし合う構造は、誰かを裁くためではなく、ズレを早めにすり合わせるための回路として機能している。

見えることで少しずつ変わっていく
こうした評価やフィードバックが可視化されると、医師の意識は自然と変わっていく。「次は、もう少しこうしてみよう」「この言い方は良かったのかもしれない」。評価は命令ではなく、考えるきっかけとして働く。
夜間休日往診は、外から見れば単発の仕事に映るかもしれない。しかし実際には、判断と説明、チーム連携の経験が積み重なっていく場だ。評価が見えることで、その経験は偶然の学びではなく、自分の成長として意識されやすくなる。賛同する医師が残り、集まっていくという循環も、こうした土台の上に生まれている。
転帰を知ることで学びは深くなる
夜間休日往診では、自分が診た患者のその後を知る機会が限られがちだ。可能な範囲で転帰が共有されることは、医師にとって貴重な答え合わせになる。あの時の判断は妥当だったのか、あの言葉は安心につながったのか。医学的にも、コミュニケーションの面でも、振り返りの材料になる。
加えて、事前の情報共有やマニュアル整備、トラブル事例の周知といった地道な取り組みが、「困る前に支えがある」という感覚をつくっている。こうした安心感が、夜間休日往診を続けるうえでの大きな支えとなり、結果として離脱を減らしていく。
まとめ〜夜間在宅で育っていく「第三の医師像」

夜間往診の現場にある評価や振り返りの仕組みは、医師を縛るためのものではない。医療の正しさと、安心の届け方。その両方を少しずつ磨いていくための、静かな土台だ。
夜の在宅で、生活を守るために判断し、患者と家族の不安に言葉を添え、チームの一員として医療を届ける医師たち。その姿は、連載で描いてきた〈第三の医師像〉と自然につながっていく。
夜間休日往診は、一つのバイトであると同時に、自分の医療観を見つめ直す場にもなり得る。安心して挑戦できる環境があれば、一件一件の往診は、誰かの夜を支えると同時に、医師自身の軸を静かに育ててくれるはずだ。
【 夜間在宅で切り拓く〈第三の医師像〉シリーズ 】

符 毅欣(ふう たかよし)プロフィール

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