記事・インタビュー

2025.12.26

夜間在宅で切り拓く〈第三の医師像〉 ⑦ 若手医師と夜間往診―在宅の看取りを支えるチームと学び

案件番号:25-C100 施設・自治体名称:(株)on call

夜間在宅で切り拓く〈第三の医師像〉 ⑦ 若手医師と夜間往診―在宅の看取りを支えるチームと学び

夜間・休日往診代行サービス ON CALL 代表  符 毅欣(ふう たかよし)によるシリーズ記事の第7回をお送りします。

前回は、「家での看取り」の風景と、ご家族の言葉から見えてくる QOL について触れた。今回は、その看取りを含む夜間往診の現場で、若手医師がどのような視点を身につけ、どのようなチームに支えられているのかに焦点を当てたい。

夜間在宅では、往診依頼のうちおよそ三割が看取りに関わるケースであり、残りも「家でどう支えるか」を考える場面が多い。そこには、病院だけではなかなか経験できない学びが詰まっている。

「治す医療」だけでなく「生活を支える医療」を学ぶ

夜間在宅の現場では、救急搬送が必要かどうかの判断だけでなく、「このまま在宅で生活を続けられるか」を見極める判断が求められる。

病院ではどうしても「診断と治療」が中心になりがちだが、在宅では「この人の生活をどう守るか」「家族の負担や不安をどう調整するか」が意思決定の軸に加わる。救急搬送をすれば検査やモニタリングの環境は整う。その一方で、夜間の長時間待機や慣れない病院での急な入院というストレスも生じる。

夜間往診の医師は、そのメリットと負担を一件ごとに天秤にかけ、「搬送するか」「在宅でできる限り見守るか」を判断していく。その際に使う“診たて”のプロセスは、病院とは少し違う。

バイタルや身体所見に加えて、部屋の環境、ご家族の疲れ具合、日々関わっている訪問看護師や介護士の印象など、「生活の情報」が重要になる。夜間往診を重ねるなかで、若手医師は「病気だけを見る」のではなく、「その人の暮らしごと診る」という感覚を身につけていく。

在宅看取りを支える多職種連携とバックアップ

看取りに至るプロセスでは、訪問看護師、薬剤師、後方病院との連携が欠かせない。

疼痛管理が必要なケースでは、オピオイドを含む薬剤調整が鍵を握る。いつでも薬剤師と相談でき、在宅で安全に使えるレジメンと補充体制が組めているかどうかで、夜間の不安や苦痛の程度は大きく変わる。

また、「最後まで家で過ごしたい気持ちはあるが、もし何かあったらどうしよう」という不安を抱えるご家族も少なくない。そのとき、「万が一つらさが強くなった場合には、この病院に入院という選択肢も準備しています」と説明できる後方病院の存在は、心理的な支えになる。在宅での看取りを選ぶハードルを下げるうえで、バックアップの存在を事前に共有しておくことは重要だ。

訪問看護師は、プロセス全体を通じて在宅看取りを支えるキープレーヤーである。医師よりも早く家に駆けつけることができる存在として、急変や看取り前後の時間を支え、ケアの実務を担う。夜間往診医にとっても、「まず訪問看護師がそばにいてくれる」という事実は大きな安心材料だ。

今後は、こうした連携をよりシームレスかつ可視化された形で設計することが課題になる。誰が見ても「この患者さんの看取り体制がどう組まれているか」が一目でわかるフローをつくり、夜間に初めて関わる医師でも迷いなく動けるようにしていきたい。

看取りの経験を、日々の診療とサービスづくりに返していく

現時点では、すべての往診症例が、対応後の内部評価やフィードバックに活用されている。対応した医師のコミュニケーションや判断について、定性的なコメントと5段階評価で振り返り、「どのような声かけや態度が家族の安心につながったのか」「どんな説明が不安を増幅させてしまったのか」を共有する取り組みも始まっている。

また、在宅連合学会などで症例を発表し、全国の在宅医療チームと知見を共有していくことも、これからのテーマだ。こうした発表を通じて、現場が抱えるリアルな課題と工夫を持ち寄れるようになれば、在宅医療というサービスそのものもアップデートされていく。

夜間往診は、「稼げる往診バイト」という側面だけでなく、「在宅医療の実地研修」という顔も持つ。事前オリエンテーションやマニュアル、フィードバックの体制が整った環境を選べば、そこは単なるアルバイト先ではなく、自分の医療観を磨く場になる。

初めての看取りを支える準備と仕組み

初めて看取りを担当する若手医師にとって、いちばん大きな不安は「自分一人で現場を任されるのではないか」という点だ。

この不安を軽くするために、事前の面談で在宅医療の考え方や病院との違い、看取りの流れについて口頭で説明し、マニュアルを通読してもらう仕組みを整えている。初回勤務や看取りが予想されるシフトの前には、改めてマニュアルを読み返してもらうよう声をかけ、必要に応じて、先に経験している医師が電話で待機し、判断に迷う場面を一緒に考えることもある。

現場では、「看取りそのものが医療的に大きなリスクになることは少ないので、まずは落ち着いてください」「患者さんとご家族に、良い言葉をしっかりかけてあげてください」というメッセージを繰り返し伝える。同時に、死亡診断書の記載ミスは公的な手続きに影響するため、往診に同行するアシスタントや本部センターが、第三者の目で内容をチェックする体制も用意している。

こうした準備や仕組みが、「初めての看取り」のハードルを少し下げ、次の在宅医療の経験にも前向きにつながっていく。

まとめ 〜夜間在宅で育つ「第三の医師像」

在宅医療の看取りは、病院の臨床だけでは見えにくい「支える医療」の本質を、夜間往診という限られた時間のなかで学べる場だ。

救急外来とも、日中の訪問診療とも違う現場で、若手医師は「病状」と同じくらい「暮らし」を見て判断する感覚を磨いていく。多職種と連携しながら在宅の看取りを支え合う経験は、病院医・在宅医という二分法では語りきれない「第三の医師像」を形づくるプロセスでもある。

在宅医療に関心を持ちながら、まだ一歩を踏み出せていない若手医師にとって、夜間往診は良い入口になり得る。教育体制が整った在宅医療機関やバックアップサービスと出会えれば、一件一件の夜間往診が、患者と家族の最期を支えると同時に、自身の医師としての軸を静かに育ててくれるはずだ。

符 毅欣(ふう たかよし)プロフィール

2017年 京都大学医学部卒業。虎の門病院で初期研修・泌尿器科の専門研修を開始後、長野市民病院・江戸川病院で臨床経験を積む。日本泌尿器科学会専門医。現在は株式会社on call 代表取締役CEOとして、医療現場と経営の双方から在宅医療インフラの構築に挑み、患者・医療機関・地域社会に貢献するサービス創出に取り組んでいる。

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