記事・インタビュー

2025.12.01

夜間在宅で切り拓く〈第三の医師像〉 ⑥ 在宅医療の看取りとは〜家での最期を支える医師のまなざし

案件番号:25-C100 施設・自治体名称:(株)on call

夜間在宅で切り拓く〈第三の医師像〉 ⑥ 在宅医療の看取りとは〜家での最期を支える医師のまなざし

夜間・休日往診代行サービス ON CALL 代表  符 毅欣(ふう たかよし)によるシリーズ記事の第6回をお送りします。

在宅医療での看取りは、病院とはまったく違う表情を見せる。夜間往診に呼ばれる若手医師は、救急搬送の判断だけでなく、「家で最期を迎えたい」という患者と家族の願いに、どう向き合うかを問われる存在でもある。
ここでは、実際の場面を手がかりに、「家での看取り」が患者と家族にとってどのような意味を持つのかを見ていきたい。

在宅医療の看取りが生み出す「家での最期」という選択肢

印象に残るのは、主治医ではない立場で看取りに入ったケースだ。

本来であれば、長く診てきた主治医に来てほしいというのが、ご家族の自然な思いだろう。そのなかで夜間往診の医師は、「これまでの経過や方針は主治医の先生から詳しく伺っています」「今日はそのバトンを受けて、お看取りを担当します」と言葉を添えながら、静かに枕元に立つ。

その日は個人宅での看取りだった。リビングには息子さんや娘さんに加えて、お孫さん、ひ孫さんまでが集まっていた。子どもたちは状況を完全には理解していないのか、ときどきちょろちょろと動き回る。その様子を見ながら、「おばあちゃん、いい顔してるね」「苦しくなさそうで、本当によかったね」と、ご家族から自然と言葉がこぼれた。

診察と死亡確認が終わった後、ご家族は「あの人らしい顔で送ってあげられました」「最後、お家で過ごせて本当によかったです」と語った。最期の時間をどう過ごせたかは、患者本人だけでなく、残された人たちの記憶として残り続ける。在宅医療の看取りは、その記憶を形づくる場でもある。

病院の看取りとの違い――「生活」と切り離されない最期

病院での看取りと比べると、違いははっきりしている。

病棟では面会時間や人数に制限があり、ベッドサイドの周りには私物もほとんどない。夜間に親族一同が集まることは現実的に難しく、「看取りの場面」だけが切り取られてしまいがちだ。

一方で在宅医療では、住み慣れた部屋の匂い、いつもの家具や写真に囲まれながら、家族が「実家に帰る」ときと同じような自然さで集まってくる。キッチンでは誰かがお茶を入れ、別の部屋では孫が宿題をしている。その日常の延長線上に、静かな最期の時間がある。

若手医師がその場に立つと、「医療」と「生活」が分断されていないことに気づく。特別な儀式ではなく、その人の生活の続きとして最期を迎えることができる。そこに、在宅医療ならではの「自然で、本人らしい終わり方」がある。

ご家族の一言が教えてくれる QOL の指標

看取りの場面では、ご家族の一言が QOL の良し悪しを象徴することが少なくない。

ある症例では、もともと「最期は苦しそうで怖い」というイメージを持たれていたご家族がいた。夜間往診や訪問看護を重ねるなかで、疼痛や不安は落ち着き、少しずつ食事も取れるようになった。最期を迎えたとき、ご家族は「苦しそうな顔じゃなかったので、本当によかったです」と、どこかほっとした表情で話していた。

別の症例では、長く入院していた患者が「最後はどうしても家に帰りたい」と希望し、在宅医療チームが調整を重ねて自宅退院を実現した。数日後、自宅で最期を迎えたあと、ご家族は「本当に最後の最後、お家に戻って来られてよかった」「本人の考え方や過ごし方に沿った最期になって安心しました」と振り返っている。

ここで、若手医師が学ぶことは多い。カルテ上の数値だけでは見えない QOL があること。「苦しそうではなかった」「その人らしさを保てた」といったご家族の言葉は、在宅医療の看取りにおける大切な評価軸である。

そして、医師や訪問看護師が、「苦しまれている様子はありませんでした」「穏やかな表情でした」と、最後の経過を言葉にしてお伝えすること自体が、ご家族のケアになる。夜間往診医は、医学的な説明だけでなく、最期の表情や時間の質をきちんと共有する役割も担っている。

まとめ〜「看取りの場」に立つということ

在宅医療の看取りは、「どこで亡くなるか」を決める話だけではない。

その人が大切にしてきた生活の延長に、家族に囲まれた最期の時間をつくれるかどうか。その場に立ち会う医師が、主治医であっても、夜間に呼ばれたスポットの医師であっても、ご家族の記憶のなかにどんな「最期の風景」を残せるか。

夜間往診の現場では、こうした看取りの場面が全体の三割ほどを占めている。決して特別な症例だけではなく、日々の往診のなかに静かに積み重なっていく。

もし今、病院で働きながら「在宅医療にも関わってみたいが、自分に何ができるのか分からない」と感じている若手医師がいれば、一度こうした看取りの現場に立ち会ってみてほしい。最期の表情や、ご家族の一言に触れることで、「自分は医師として何を大切にしたいのか」という感覚が、少し違う形で輪郭を帯びてくるはずだ。

符 毅欣(ふう たかよし)プロフィール

2017年 京都大学医学部卒業。虎の門病院で初期研修・泌尿器科の専門研修を開始後、長野市民病院・江戸川病院で臨床経験を積む。日本泌尿器科学会専門医。現在は株式会社on call 代表取締役CEOとして、医療現場と経営の双方から在宅医療インフラの構築に挑み、患者・医療機関・地域社会に貢献するサービス創出に取り組んでいる。

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