記事・インタビュー

都会でのキャリアは大切だけれど、ずっとこのままでいいのだろうか――。そんなふうに考えたことはありませんか?
もし今、何かを変えたいと感じているなら、地方への移住も選択肢のひとつ。なかでも、『移住したい都道府県ランキング』で長年一位に輝く長野県は、自然に囲まれた環境のなかで、仕事のやりがいと生活の充実、その両方を叶えられる絶好の環境です。
今回の記事では、東京の大学病院で経験を積み、出産を機に地元・長野県松本市へUターンした産婦人科専門医・増田彩子先生をご紹介します。『専門医としてのスキルを活かしたい』という想いを胸に、新たなキャリアを歩み始めた増田先生。仕事も子育ても、自分らしく楽しむ姿はバイタリティにあふれています。
あなたも長野県で、医師としての働き方を考えてみませんか?
<お話を伺った方>

Uターンで実現した、専門性を活かす働き方
Q:東京から地元である長野県に戻ろうと思ったきっかけを教えてください。
子どもが誕生し、働き方を見つめ直したことが最初のきっかけです。当時は東京の大学病院で勤務していたのですが、出産を機に、このままここで働き続けるのかと少し考えてしまって。
とはいえ、いきなり辞めるのもどうかと思うし、専門医は取得したい。いろいろ考えた結果、子どもが小学校に上がるタイミングで落ち着ける場所を探そうという結論に至りました。松本で暮らすことを決断したのは、Uターンの3年前です。
Q:移住を決めてから、職場や家庭ではどのような準備をされましたか?
突然辞めるのは失礼だと思い、Uターンを決めてからは医局の先生や上司にずっとジャブを打ち続けました。退職までの2年間には、論文を5本執筆したり学会発表をしたりと、貢献するよう努めました。それもあってか、今でも良い関係を続けられています。
家庭については、夫も松本の出身ということもあり、親に孫を見せられるのは良いことだと賛成してくれました。ただ、夫はサラリーマンのため、今も東京で暮らしており、私と子ども2人が松本で生活しています。週末に夫が松本に帰ってきて、家族で過ごすスタイルです。
Q:長野県で働くにあたって、どのように職場を探しましたか?

私にとって絶対に外せなかった条件は「腹腔鏡手術に携わること」でした。給与や勤務時間よりも、まず手術ができるかどうかが大前提。そうなると、開業という選択肢は自然と消えます。
とはいえ、自分で求人情報を調べてみても、「腹腔鏡手術が可能」で、なおかつ「自宅のある松本市から通いやすい」病院はごくわずかでした。さらに、どういった経緯で転職するといいのかも当時はわかりませんでした。
そんなとき母から「長野県にはドクターバンクがあるみたいだよ」と教えてもらったんです。早速相談してみたところ、担当の方がわざわざ東京まで来て、とても親身に対応してくださいました。紹介いただいた2カ所の病院を見学し、そのなかで穂高病院への入職を決めました。
Q:現在の勤務内容を教えてください。
産婦人科全般を担当しており、手術に加えて今後は不妊治療にも取り組む予定です。腹腔鏡手術は週に3~4件ほど行っていて、実は長野県内で3~4番目に入ります。
勤務体制については、残業はほとんどなく、ありがたいことに当直は免除されています。日中のお産は声がかかれば対応し、年間数日はセカンドオンコールとして、帝王切開や緊急手術の際に呼ばれるといった形です。
Q:先ほど不妊治療とお話がありましたが、来年開設予定のリプロダクションセンターについてもお聞かせいただけますか。
現在、当院で行える不妊治療は、一般不妊治療である「タイミング法」と「排卵誘発」までですが、2026年4月に予定している「リプロダクションセンター」の開設によって、「体外受精」などの生殖補助医療にも対応できる体制が整います。なお、「人工授精」に関しては、胚培養士の入職により、この秋から開始予定です。
Q:開設を考えるきっかけは何だったのでしょうか?

正直なところ、入職当初はリプロダクションセンターを開設するつもりはなく、「腹腔鏡手術に多く携われる人生を送れればそれで十分」だと思っていました。けれども、一般不妊治療で妊娠に至らなかった患者さんたちの「次、私はどこに行ったらいいですか」、「もうここでは治療できないんですね」という声を聞いているうちに、なんとかしたいという思いが積み重なっていったんです。
近隣ですと生殖補助医療を行う機関は松本のみ。当院のある安曇野からは、山を越えて行かなくてはいけません。当院でさえ1時間かけて来ている患者さんが、さらにもう1時間かけて松本まで通院するというのはやはり大変で、その負担から治療を諦めてしまうケースもありました。
私自身、生殖医療専門医の資格を持ちながら活かせていないという葛藤もありました。そうした思いを診療部長に話したところ、「やりましょう」と背中を押してくださり、すぐに病院長も動いてくれて。2か月後には胚培養士も見つかり、準備が一気に進んでいきました。
医療の地域格差を埋めるには、病院や医師が本気で取り組まなければなりません。当院は「地域に貢献したい」という強い思いを持っているからこそ、実現できたのだと思います。
Q:増田先生の今後の目標は?
大学病院のほうが新しい知見や治療に触れる機会は多くあります。だからこそ、私が大学で学んできたことを当院へ還元し、地域の患者さんの力になりたいと思っています。最先端は難しくても、この地域で困っている方々を十分に支えられるレベルにはなりたいです。
また、私は根っからの手術好きなので、リプロダクションセンターの業務を進めながらも、これからもオペは同じ量をやり続けたいですね。
仕事も子育ても自分らしく。長野で築くバランスの取れた暮らし
Q:松本の住環境や生活はいかがですか?
松本は田舎だけど、ほどよく都会で住みやすいです。料理がおいしいお店も多いんですよ。
それと、家が広くなったのも大きなメリットです。東京ではマンションだったので、子どもたちの足音や声をしょっちゅう注意していましたが、今は庭付きの戸建てなので気にしなくてもいいですし、ちょっとした家庭菜園をするといった楽しみもあります。「東京ではできなかったことだよね」と、子供たちと日々話しています。
そのほか、生活面での違いでいうと、車の運転は必須になります。東京では運転をしていなかったため、最初はドキドキしましたね。今も朝の渋滞は大変だと感じますが、運転そのものは慣れてしまえばたいしたことはありませんでした。
年に1、2回は大雪になって、10時にようやく到着する…なんていう日もあります。ただ、病院側も状況を理解しているため、厳しく言われることはありません。「雪で遅刻は困る」なんて言う病院はないと思います。
Q:休日はどのように過ごしていますか?
地元サッカークラブ「松本山雅FC」の応援に、ほぼ毎週のように出かけています。特に子どもたちが夢中で、東京にいた頃は味わえなかった“地元を応援するおもしろさ”を満喫しているようです。
近くにキャンプ場があることもあって、年に1、2回は家族でキャンプに出かけています。長男は釣りが好きで、穂高病院の看護師さんと一緒に楽しむこともあるんですよ。子どもたちは「松本に来てよかった」と、日々話していますね。
Q:最後に、移住やUターンを考えている先生へメッセージをお願いします。

移住やUターンを考えるときに、「地方ではやりたいことができないのでは?」と思う方もいるかもしれません。ですが、必ずしもそうではありません。私自身、リプロダクションセンターの件で「こうしたい」と想いを伝えたところ、病院の協力を得て実現できました。
一方で、移住やUターンは都会で一定の経験を積んでからで良いとも感じています。東京には教育体制やシステムが整っており、若い時期に外の環境に身を置くことは、医師として成長するうえで大きな力になるからです。
キャリアは自分の気持ち次第で築けます。自分が何をやりたいのかを明確にし、「この分野で貢献したい」という芯を持っていれば、地方であってもそれを形にできる病院はあるはずです。
長野県ドクターバンク
土日・祝日関係なく、全国どこへでも私たちが、お伺いします!!(オンライン相談可)
長野県ドクターバンクとは、
長野県が行っている、医師無料職業紹介事業です。
どのような支援を行っているのか、
ドクターバンクの担当者に伺いました。








長野県健康福祉部 医師・看護人材確保対策課
人気記事ランキング
-
著者が語る☆書籍紹介 『臨床医のためのライフハック(「診療・研究・教育」がガラッと変わる時間術)』
- 新刊
- 研修医
- 医書マニア
著者が語る☆書籍紹介 『臨床医のためのライフハック(「診療・研究・教育」がガラッと変わる時間術)』
中島 啓
-
医療のリアルを届ける──しろひげコンシェルジュ
- ワークスタイル
- ライフスタイル
- 就職・転職
医療のリアルを届ける──しろひげコンシェルジュ
しろひげコンシェルジュ
-
それ、ChatGPTが代わりにやります! “01 患者説明の質と効率を劇的に上げる
- Doctor’s Magazine
それ、ChatGPTが代わりにやります! “01 患者説明の質と効率を劇的に上げる
白石 達也
-
勤務医と開業医の間という働き方
- ワークスタイル
- 就職・転職
- 専攻医・専門医
勤務医と開業医の間という働き方
梶の木内科医院
-
移住×キャリアチェンジ ― 長野で踏み出す新たな一歩
- ワークスタイル
- ライフスタイル
- 就職・転職
移住×キャリアチェンジ ― 長野で踏み出す新たな一歩
長野県健康福祉部 医師・看護人材確保対策課
-
書評『薬の使い分けがわかる! ナースのメモ帳 | こんなときはどれを選ぶ? 薬剤師さんと一緒に作った薬のハンドブック』
- 新刊
- 研修医
- 医書マニア
書評『薬の使い分けがわかる! ナースのメモ帳 | こんなときはどれを選ぶ? 薬剤師さんと一緒に作った薬のハンドブック』
三谷 雄己【踊る救急医】
-
柔軟勤務で子育て中の医師を応援!未来の継承者も歓迎
- ワークスタイル
- 就職・転職
- 専攻医・専門医
柔軟勤務で子育て中の医師を応援!未来の継承者も歓迎
あかつきウィメンズクリニック
-
夜間在宅で切り拓く〈第三の医師像〉 ⑤ 都市と地方、その“医療の余白”をつなぐ―在宅医療の新しい循環へ
- イベント取材・広報
夜間在宅で切り拓く〈第三の医師像〉 ⑤ 都市と地方、その“医療の余白”をつなぐ―在宅医療の新しい循環へ
株式会社on call
-
先輩に聞いた! ④初期研修を充実させるためのアドバイス
- 研修医
先輩に聞いた! ④初期研修を充実させるためのアドバイス
-
都会での学びを長野で活かす。地方だからこそ叶う、キャリアと家族の幸せ
- ワークスタイル
- ライフスタイル
- 就職・転職
都会での学びを長野で活かす。地方だからこそ叶う、キャリアと家族の幸せ
長野県健康福祉部 医師・看護人材確保対策課



