記事・インタビュー
ドイツはノルトライン=ウェストファーレン州にあるボン大学で循環器内科のフェローとして働いている杉浦 淳史です。
この記事では、日本生まれ日本育ちの循環器内科がドイツでの研究・臨床留学の中で経験するさまざまな困難・葛藤・喜びを、ありのままにお伝えします。
生活のセットアップ、国民性と文化の違いでメンタル崩壊!?
ドイツに来てからの、単身(家族は夏から合流)で行う生活のセットアップはいろいろ大変でした。主には、住民登録、携帯電話契約、銀行口座開設、住居探し、VISA申請、子供の学校見学、などでしょうか(他にも細かいことはたくさんあった気がします)。ドイツは「テルミン(予約)」大国で、「○○○の申し込みをしたいんですが」というと、返ってくる言葉は「じゃあ、テルミンをとらないと」です。当然、市役所や銀行などは当日行ってゴネても全く相手にしてくれません。そして市役所や外国人局では、そのテルミンの空きが1〜2ヶ月先、というのがザラです。
また、現場主義の国民性のためか、担当者によって言うことや必要な書類が変わってきます。さらに、真面目な印象があるドイツ人ですが、自分の知らないことを聞かれた時などは、さも知っているかのように結構適当なことを言います(笑)。
たとえば語学学校の初日、その日は朝8時5分に市役所の住民登録申請のテルミンをとっていました。まずは7時30分に語学学校に行ってそのことを話すと、「大丈夫よ、とりあえずここでの手続きを済ませてから行けばいいわ」とのこと。そして11時ごろに市役所に行くと、「時間が過ぎているよ。テルミンを取り直しなさい」。慌ててWebで見ると、すでに2ヶ月待ち。
国民性と文化の違い、そして思うように伝えられない言葉の問題と相まって何度も痛い目をみて、メンタルの危機にさらされたことが幾度となくありました。しかし、週末はライン川沿をランニングしたり公園に寝転がって読書したりと、現実逃避をしながらなんとか生き抜いていました。
語学学校通い
生活のセットアップと同時に、語学学校通いが始まりました。ドイツ語はごくごく簡単なことを言えるだけで、ヒヤリング能力はまったくの見込みナシ。「Wie bitte?(え、なんて言いました?)」を1日50回は言っていたと思います。そして、そのたびに嫌な顔をされて、同じことを同じスピードで繰り返し話してくるドイツ人たちに、途中から分かってもいないのに「あ〜、OK、OK、Danke schön」と適当にその場から逃げて、自己嫌悪に陥る悪循環でした(笑)。
語学学校では世界中から集まる多くの語学学生と出会いました。彼らのほとんどは、ドイツの大学入学やドイツでの就職を目的としていました。それは、ドイツの大学は学費が非常に安く、かつ交通費が全て免除されるなど、学生にとってとても良い環境であること、また失業率がヨーロッパで一番低く雇用先も見つけやすい、ということが理由のようです。
「より良い仕事や教育を求めて国を超えて語学を勉強する」。これは世界では広く浸透している考え方なんだと、多くの出会いと交流を通じて知ることができました。そして語学学習以上に、彼らとの飲み会やイベントは留学当初の辛い時期を乗り越える大きな助けにもなりました。
職場での仕事?開始
病院での生活は、当初、右も左も分からず文字通り手探り状態で大変でした。というのも、ボン大学の僕が働く部門にはここ数年フェローとして働いていた人がおらず、「フェローの仕事はこれとこれ!」といったものは皆無だったからです。
同時期に来た日本人フェローの田畑先生と一緒にカテ室で治療を見学したりしていましたが、言葉も分からない、仕事もない、皆の輪に全く入れない、という感じでした。ドイツ人の看護師さんはとても美人で可愛いのですが、みんな気が強くて早口で、こちらから話しかけなければ会話はなし。何かできることはないかと治療後の片付けや床のモップ掃除とかをしてみたら、「彼は医者なんでしょ? なんで掃除なんかしてるの!?」と言われる始末。それでもまぁなんとかなるもので、掃除のおじちゃんやゆっくり話してくれる人など、話しやすい人を見つけて会話をしたり、自分から雑談を積極的にふったりすることで、徐々に意思疎通がとれるようになっていきました。初めて「アツシ」と相手が呼んでくれた時は嬉しかったですね。とはいえ、相手から振られた話には相変わらず「ya(はい)」か「nein(いいえ)」しか口から出てこなかった気がします。
<プロフィール>
杉浦 淳史(すぎうら・あつし)
ボン大学病院
循環器内科 指導上級医(Oberarzt)
論文が書けるインテリ系でもないのに「ビッグになるなら留学だ!」と、2018年4月からドイツのボン大学にリサーチフェローとして飛び込んだ、既婚3児の父。
杉浦 淳史
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