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2017.03.21

延期が決定した「新専門医制度」の課題と現状

延期が決定した「新専門医制度」の課題と現状

新専門医制度の開始は、当初予定されていた2017年4月から2018年4月へ延期になりました。これは2016年7月の日本専門医機構の社員総会での決定事項です。延期の理由となっている課題と、2016年10月時点の現状をお伝えします。

「新専門医制度」の課題と現状を考える

医師のキャリア形成から見た「新専門医制度」の課題は?

医師のキャリア形成から見た「新専門医制度」の課題は、次の3つです。

・新専門医制度では研修や進路変更の自由度が減る?
2004年に臨床研修が必修化されてから13年が経ちました。導入時には賛否両論がありましたが、研修医にとっては、臨床研修先選びの自由度が増したことには間違いないでしょう。
では、新専門医制度はどうでしょうか?
現在、2年の臨床研修を修了した後、多くの研修医が後期研修・専門研修と呼ばれる研修を受け、自分が選択した専門の診療科の知識や経験を深めています。2018年4月に延期された新専門医制度では、初期研修後、19の基本領域のいずれかの専門医資格を取得し、その後、サブスペシャルティ領域に進む流れになります。最終的には、基本領域とサブスペシャルティ領域で各1つ、合計2つの専門医になることができます。
けれども、例えば基本領域で小児科専門医を取得した後、サブスペシャルティ領域で小児外科の専門医を取得することはできません。この場合は、外科専門医を取得した後、サブスペシャルティ領域で小児外科の専門医を取得しなければならないのです。「小児科全般を学んでから小児外科に進みたい」という進路希望は閉ざされ、途中で進路変更することも難しそうです。

・新専門医制度の総合診療専門医のキャリア形成
新専門医制度では、基本領域に「総合診療専門医」が新たに設けられています。本制度の肝いりで導入された総合診療専門科ですが、ほかの診療科と違い、現制度下で認定された専門医が不在の中でのスタートとなり、カリキュラム自体もまだ確立されていないのが現状です。
そして、総合診療専門医の取得後、次のステップである「サブスペシャルティ領域」で取得できる専門医が無いなど、現状ではキャリア形成の道筋が見通しにくくなっている点も課題となっています。

・新専門医制度での女性医師の出産・育児との両立
キャリア形成にかかわる、女性医師の出産・育児の問題もあります。医学部で学ぶのは6年。最短で入学・卒業しても卒業時点で24歳です。そこから初期研修2年。旧制度では、この26歳時点で専門に選んだ診療科の研修(後期研修)をはじめることができました。けれども、新専門医制度では初期研修からさらに3年~6年かけて専門にしたい診療科の専門医を取得することになります。30代半ばまでが研修期間となり、女性医師にとっては出産・育児の機会が奪われかねません。

「新専門医制度」全体の課題は?

「新専門医制度」全体の課題は、次の2つです。

・医師の偏在の助長
元々、医師不足が叫ばれているのは、ほとんどが地方都市です。ところが、新専門医制度ではそうした医師の偏在がいっそう助長されることが懸念されています。その理由は、2つあります。
1つ目は、新専門医制度では、研修先となる要件のハードルが高いため、大学病院や都市部の大病院が研修先として認定されることが予想されます。
2つ目は、新専門医制度の専門医になるためには、手術の経験数や症例数、活動実績が求められるため、この面でも大学病院や都市部の大病院へ研修医が集中する、と考えられます。

・開業医の減少
新専門医制度では資格更新の際にも、それまでの診療実績が求められます。従来の制度では、こうした更新要件がなかったため、開業医は自分の専門科を中心としながらも幅広い診療を行い、地域医療を担っていました。しかし、開業しながら本来の専門科の実績を多く積むことは難しいため、専門医更新のために開業を諦め、勤務医となる道を選択する医師が増えるのではと言われています。

2016年10月現在の「新専門医制度」の現状と展望は?

新専門医制度では、従来は内科や外科など各学会が行っていた専門医の認定作業が「全日本専門医機構」に移行します。新専門医制度開始の延期を受け、2017年の専門医認定は、旧制度の「学会による認定」と新専門医制度の「全日本専門医機構の認定」が混在することになります。

ある病院を例にとると、「新専門医制度プログラムでの公募」「旧制度プログラムでの公募」「学会の決定待ち(新旧どちらを選択するか未定)」というように、募集の仕方を工夫しています。これは、新専門医制度の研修先となる病院側の受け入れ体制が間に合っていないことも大きな理由の一つです。具体的には、新専門医制度の専門医認定に必要な研修プログラムの確立や指導医の確保などが間に合っていません。また、各診療科の学会で、対応が議論中、といった理由も挙げられます。
また、すでに旧制度で専門医を取得している医師が、新専門医制度の専門医にそのまま移行できるかどうかなど、検討中の課題も多くあります。医師や医学生の方々は、先行きの不透明な制度改革に、進路を悩んでいらっしゃることでしょう。けれども、多くの医師が述べているように、大切なのは「自分がどんな医師を目指しているか」ということです。それを明確にした上で、その時に選択できる最善の進路を選択することが重要です。

新専門医制度の課題と現状

さまざまな課題が浮かび上がり、延期された新専門医制度。医師のキャリアや身分の安定といったことと併せて、患者にとって有益な制度改革であってほしいものです。
(この記事は2016年10月現在の状況を背景に作成しています。)

最終更新(2016/10/21)

延期が決定した「新専門医制度」の課題と現状

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