記事・インタビュー
民間医局が、専攻医・研修医・医学生におすすめ書籍を集めた「医書マニア」。
医学書を読むのが大好きな先生方より、医学書のレビューをお届けします。
レビュー:三谷雄己先生(踊る救急医先生)
腎盂腎炎は、日常診療のあらゆる場面で鑑別から外せない重要疾患です。
救急外来では「尿が汚くて熱がある=腎盂腎炎?」という短絡的な思考に陥りがちですが、本当にそれだけでよいのでしょうか?
閉塞性病変や多剤耐性菌、合併症のリスクを見逃していないでしょうか?
本書『とことん極める!腎盂腎炎』は、そのような“思考停止”を防ぎ、正しい診断とマネジメントに必要なエッセンスを存分に学べる一冊です。
臨床で出会う尿路感染症の悩みを、「たかが腎盂腎炎、されど腎盂腎炎」という視点で多角的に深掘りしています。
- 書評『とことん極める!腎盂腎炎』
1.本書のターゲット層と読了時間
【ターゲット層】
- 腎盂腎炎や尿路感染症を日常的に診療する内科・総合診療科・救急科の医師
- 泌尿器科や在宅診療を行う医師、初期研修医・後期研修医
- 看護師や薬剤師、その他多職種で尿路感染症管理に携わる方
【推定読了時間】
約5~6時間(じっくり読み込む場合。全221ページで網羅的な内容)
2.本書の特徴
本書を一言で表すなら、「日常診療で“絶対に外せない”腎盂腎炎の実践知が、この一冊に凝縮されている」です。
以下に挙げる特徴的なポイントは、本書を読むうえで大いに参考になるはずです。
- ①総論からマネジメントまで、一貫した構成
- 本書の冒頭にある「たかが腎盂腎炎、されど腎盂腎炎」という言葉通り、総論から診断、治療、再発予防、そして多職種連携にいたるまで、腎盂腎炎の“すべて”を網羅。パッと見にはニッチに感じるテーマを、深く掘り下げた作りになっています。
- ②「極める」というタイトルどおり、実践で使えるTipが豊富
- 一般的・教科書的な解説だけでなく、「合併症が疑われる腎盂腎炎の見分け方」「治療効果判定のタイムコース」「バルーンカテーテル留置の必要性」など、臨床でありがちな悩みの具体的解消法がテンポよくまとめられています。
- ③診断プロセスの要所がクリアカット
- 「尿が汚い=腎盂腎炎?」という安直な診断を避けるために、問診・身体所見・尿検査・画像診断(エコーやCT)の使いどころを丁寧に解説。さらに、誤嚥性肺炎や他の診断を除外するアプローチもしっかり書かれています。
- ④多剤耐性菌や合併症への対応
- 日常診療で頭を悩ませる「耐性菌が検出されたら?」「外来加療と入院加療の抗菌薬選択はどう変える?」といった重要事項が整理されており、学んだその日から即使える内容です。
- ⑤多職種連携の重要性を徹底強調
- 腎盂腎炎の患者さんが発熱で来院した際の看護師との連携、薬剤師が考慮すべき抗菌薬の選択、在宅医療での尿道カテーテル管理など、チームで患者さんを支える際に役立つノウハウが満載です。
3.個人的総評
本書を初めて手に取ったとき、「尿路感染症をここまで掘り下げる書籍があるんだ!」と驚きました。腎盂腎炎は一見ニッチな領域に映るかもしれませんが、実際には救急外来から病棟管理、在宅医療に至るまで非常に遭遇率が高い疾患です。
その分、「熱と尿所見があればとりあえず腎盂腎炎」と決めつけるリスクや、合併症を見逃して重大な転帰につながる可能性もゼロではありません。そうした落とし穴を埋めるために、本書は極めて実践的でわかりやすいヒントを次々と提示してくれます。
- 非特異的症状との鑑別を怠らない
本書では、「腎盂腎炎は意外に非特異的な症状が多い」という視点が何度も強調されます。これは誤嚥性肺炎や虫垂炎など、他の疾患と鑑別をつけにくいケースがあるからこそ。たとえば、「72時間以上解熱しなければ合併症を探る」という具体的な基準や、新たな疾患の可能性を排除しない柔軟な思考法がとても参考になります。 - 耐性菌やリスクファクターへの目配り
多剤耐性菌が広がりを見せる現代において、「どのタイミングで血液培養を取るか?」「どれくらい広域な抗菌薬を選ぶべきか?」などの問いは、臨床で常に直面する重要課題。本書では、外来での投薬と入院加療での選択肢を明確に分け、リスク因子を見極めながら最適解を探るプロセスを丁寧に紹介しており、迷ったときに心強いです。 - 再発予防や在宅ケアにも踏み込んだ充実度
腎盂腎炎は治療後の再発をどう予防するかも大切。本書はリスクファクターへの介入やクランベリーのエビデンスなど、思わず「そこまで書いてくれるのか!」と嬉しくなる細かいトピックを取り上げています。在宅医療での尿道カテーテル管理やバルーンカテーテル交換頻度についても言及があり、現場の疑問に寄り添った構成が好印象です。
総じて「軽快なリズムで読めるけれど、内容は骨太」というのが率直な感想。著者陣の腎盂腎炎診療に対する熱意が行間から溢れており、日常診療における“最前線の疑問”に寄り添ってくれる良書だと思いました。
4.おすすめの使い方・読み進め方
- ①まずは気になるトピックを拾い読み
- 「合併症の検索」「CT所見の見方」「外来 vs 入院の抗菌薬選択」など、現場で直面する疑問を目次からピックアップして参照するのがおすすめ。Q&A形式ではないものの、章立てが細かく、探しやすいです。
- ②具体的なタイムコースをイメージしながら読む
- 腎盂腎炎は「72時間目の解熱が分岐点」といわれるように、改善速度の評価や合併症の発症タイミングが極めて重要。本書にある治療効果判定のポイントを頭に置きつつ、自分の患者さんの経過と照らし合わせて読むと理解が深まります。
- ③多職種連携の章をチームで共有
- 看護師や薬剤師、さらに在宅スタッフと連携する場面で参考になるコラムが多々あります。「排尿ケアチーム」や「腎盂腎炎マネジメントにおける薬剤師の視点」など、チーム医療を円滑にする工夫が学べるので、周囲と一緒に読んでも有益です。
- ④再発予防・在宅医療編をマニュアル的に活用
- 本書の後半には、再発防止策や在宅での尿道カテーテル管理など、普段あまり教科書に載らない内容がしっかりフォローされています。必要になったときに戻ってこられる“引き出し”として、付箋やメモを活用しながら読むと便利です。
- ⑤最後に総論を通読し、知識を一元化
- 個々の章で興味を満たした後、再度総論(I章)に戻って全体像を俯瞰すると、腎盂腎炎診療のプロセスがしっかりつながる感覚を得られます。
5.まとめ
『とことん極める!腎盂腎炎』は、尿路感染症のなかでもひときわ頻度が高い腎盂腎炎について、総論からマネジメント、再発予防まで幅広くカバーする“実践書の決定版”といえるでしょう。
ニッチに思える領域をここまで掘り下げている書籍は貴重であり、研修医や若手医師はもちろん、在宅医療に携わるベテラン医師にとっても新たな発見が多いはずです。
本書はページ数が221ページと手ごろなので、一気に通読するのもよし、症状や合併症など気になる箇所をピンポイントで拾い読みするのもよし。
日常診療の現場で繰り返し参照できる一冊となるはずです。腎盂腎炎の鑑別や治療方針で迷ったときには、ぜひ本書を開いてみてください。
6.医書レビュー
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<プロフィール>

三谷 雄己(みたに ゆうき)先生
救急科専門医
日本医師会公認健康スポーツ医
JATEC・ICLSインストラクター
立派な救急医を目指し、指導医の先生方に教えていただきながら日々修行させていただいています。
信念である「知行合一」を実践できるよう、臨床で学んだ内容をアウトプットすることで心掛けております。
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