記事・インタビュー
民間医局コネクトでは、姉妹サイト「レジナビ」との共同企画として、本年5,6月のレジナビFair大阪と東京にてキャリアセミナー「けいゆう先生と考える!後悔しない診療科の選び方」を開催しました。
セミナー開催に先立ち、民間医局会員の初期研修医に対してキャリアに関するアンケートを実施し、その結果を踏まえながら、講師の山本健人先生(医学研究所北野病院 消化器外科/腫瘍研究部)に進路選択時のアドバイスや考え方について60分お話しをいただきました。
本レポートでは、セミナーのハイライトを3回に分けてお届けいたします。
「診療科選択や将来の働き方に関する調査」
実査期間: 2024年4月17日(水)~ 2024年4月30日(火)
調査対象: レジナビ・民間医局会員の初期研修医1・2年目
回答者数: 218人
調査実施主体: 株式会社メディカル・プリンシプル社
■講師紹介
山本 健人(やまもと・たけひと)
医学研究所北野病院 消化器外科/腫瘍研究部
京都大学消化管外科客員研究員
2010年京都大学医学部卒業。2010年神戸市立医療センター中央市民病院臨床研修医、2012年同外科、2015年田附興風会医学研究所北野病院消化器外科、2017年京都大学大学院医学研究科消化管外科学博士課程を経て、2021年から現職。「外科医けいゆう」のペンネームで医療情報サイト「外科医の視点」を運営し、累計1200万超のページビューを記録。X(旧Twitter)フォロワー数は10万人超。著書『すばらしい人体』『すばらしい医学』はシリーズ累計23万部超。資格に、外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医(大腸)、感染症専門医、がん治療認定医など。
ペンネームの「けいゆう」は、娘と息子の名前からとったもの。
第1章) 後悔しない診療科の選び方
司会 アンケートではまず、第1希望の診療科を聞きました。第1位は「内科」で35%近くを占めました。以下、第2位は「産婦人科」、第3位が「外科」という回答でした。
必要とされる人数に比べると少ない外科志望者
山本先生 1番多い内科には様々な科がありますし、たくさん人が必要な場所ですから、これは予想通りだと思います。産婦人科も2番目に多くて、これも非常に望ましいことですけれど、僕の専門の外科は3番目に多いと言っても、疾患人口(病気になる患者数)に対して必要になる人員数を考えると、かなり少ないと思うんですね。外科は人員が必要であるにもかかわらず結構少ないな、というのは現場でも実感しているところです。
司会 続いて、第1志望の診療科を選んだ理由を具体的に聞きました。具体例を見ると、診療科ごとに多様なとらえ方があることがわかります。
診療科を選ぶ際には医師人生40年をどうとらえるか
山本先生 (アンケート回答の中で)外科を選んだ理由に、技術や業務のレベルアップの過程がわかりやすい、目標や達成度がわかりやすい点が魅力だという意見がありましたが、これは僕が外科を選んだ理由の一つでもあります。
皆さんのほとんどは、20代半ばだと思うんですね。ここから医者になって、多くの人は医者人生が40年ぐらいあるわけじゃないですか。皆さんの人生では多分初めてなんですよ、ほぼ同じことを40年やるって。もちろん途中でやめたっていいし、途中で進路を変えたっていいんですけれど、もし一つのことを40年続けていくなら、と考えたとき、まず僕が考えたのは、技術を仕事にするとレベルアップが可視化されやすいので、むしろ楽だなということなんですね。つまり昨日より今日、今日より明日、自分が前進しているということを実感しやすいので、業務そのものは身体的に多少しんどくても精神的には楽なんですよ。
実際、僕は今の仕事を15年やってきて、スキルアップを続けてもまだ頂上が見えないぐらいの世界です。これは続けていけるなと思っています。
肉体的なしんどさは、病院にもよりますが、最近は働き方改革の影響もあってかなり改善されてきています。また、年齢とともに慣れが生じて、徐々に同じ業務が早くできるようになりますから、肉体的なしんどさは経験が増えるにつれて軽くなります。
仕事がしんどいと思う時、その最大の原因は精神的なしんどさだと思うんですね。肉体的なしんどさは寝たら治りますが、精神的なしんどさというのは、一晩寝てもなかなか治りません。
ですから、精神的に自分が前向きになれる仕事を選ぶという視点は大切だと皆さんに伝えたいですし、僕自身はそれが消化器外科だったということですね。
司会 続いて、選択肢から「除外した科目」についても聞きました。
こちらの図は、オレンジ折れ線の第1希望の診療科に対して、除外した科目の割合を青い棒線グラフで示したものです。(除外した科目については、「複数回答」)
希望科目を除外するときには、除外の理由を考える
山本先生 皆さんの中には、この科は絶対やめとこうって思っている科が複数ある人、いると思うんですよね。
「この科はもう絶対除外」と考えたときに、その除外する理由をちょっと立ち止まって考えてほしいなと思うんですね。
例えば、自分はすごく不器用で心配だから外科に行きたくないという人がいたとして、だけど解剖学や生理学の勉強が好きだとしますよね。最近はすごく器用でなくても、いろんなデバイスがサポートしてくれます。例えば手術支援ロボットは、非常に細かい操作が手ぶれなしにできます。こういうところは、いわば下駄を履けるようになっているんですね。その領域に関心はあるけれど自分の性質的に向いていないと感じたら、実態をよく知って、本当に向いていないのか、じっくり考えてみてほしいなと思います。
もう一つ重要なのは、今いる施設で先輩の姿を見ていて、例えばすごくしんどそうとか、毎日楽しくなさそうだと思ってその診療科を除外していたら、注意してほしいんです。もしかしたら、他の施設なら状況は違うかもしれない。自分の病院の先輩は、どうしても全体のサンプルに見えるんですよ。だけど、他の施設の環境は全然違うかもしれない。病院、地域、大学、とにかく多種多様で、同じ診療科でも診ている患者層、診療システム、年齢層など全く違うことがあるんです。
その領域に学問的に全く興味がない、だったら除外せざるをえないですが、関心があるけれど働き方に心配がある、自分の性格的に合うか分からない、という場合は、最初からその選択肢を捨ててしまうともったいないかもしれませんよね。皆さんは、まだ診療科の選択まで時間があるので(特に初期研修1年目の方はまだ2年近くありますから)、必ずしも自分の可能性を狭めない方がいいなと思います。
司会 続いて、「除外した理由」について聞いたところ、第1位は「除外した科目がない」という回答でした。続いて「忙しそう・きつそうだから」「他科の方が魅力的に感じた」という回答がみられました。
仕事の量が大きいのに比べて自由度や裁量権が少ないと“しんどい”
山本先生 外科は「忙しい」「きつい」というイメージがあると思うんですけど、実際本当にきついかどうかは施設によるところがかなり大きいと思っています。
医局に所属している場合は、その医局の風土によってもずいぶん違うと思うんですね。自分の施設の外科がすごくきつそうであっても、他施設の外科は案外ワークライフバランスが整っているということもあります。僕も、自分の所属先はワークライフバランスがかなりいい方です。状況は施設によって結構違うので、自分の知っている施設の雰囲気を全体に当てはめない方がいいなとよく思います。
外科が「きつい」としたら、その最大の要因は、実はきちんとした分業やタスクシフトが行われていないことではないかと思います。例えば若手に極端に仕事が偏っている、とかですね。あと、事務作業のタスクシフトも重要ですよね。例えば当院では、事務関連の分業が重視されているので、書類作成にやたらに時間を費やすことはあまりありません。
こういう環境が整っている病院とそうでない病院が、現状は残念ながらあるだろうと思いますが、これから働き方改革の外圧によってますます変わっていくのだろうと思います。
あと仕事のしんどさについてもう一つ知っておいてほしいのが、「仕事要求度コントロールモデル」という言葉です。仕事の量が多い割に自由度や裁量権が少ない状態だとしんどい、ということです。仕事の量自体が問題じゃなくて、自分に裁量権が全くないという環境がしんどいんですよ。仕事量が多くても、ある程度自分の裁量で行動することが任されていたり自分のやりたいことをある程度聞き入れてもらえる環境だったら、実はしんどくない。これって環境次第ですよね。
だからこそ、やっぱりある科のイメージを、自分が知っているイメージで固定してしまわない方がいい。ぜひ皆さんも、いろいろな病院に見学に行って比較検討してから進路を決めた方がいいんじゃないかな、と思います。
山本 健人
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