記事・インタビュー

本企画では「医師の働き方改革」について、医師会会員15,923名を対象にアンケートを実施し、228名の先生方から現状やこれからの対応についてご回答をいただきました。
医師の働き方制度改正への理解度
病院へのアンケート結果と比較するとどの項目でも「理解している」との回答は少ないです。病院と同様に追加的健康確保措置については、最も理解度が低い結果となっています。追加的健康確保措置は、特例水準に適用される先生方の勤務間インターバルについての決まりも含まれています。
情報収集経路
(自由回答)
所属する学会からの情報(小児科・40代・女性)
インターネット(救命救急科・30代・女性)
M3や日経メディカル(呼吸器内科・30代・女性)
病院へのアンケート結果と比較し、様々な経路から情報を収集していることがうかがえます。特に医療関係ではない経路として、病院へのアンケート結果ではなかったSNSからという回答が多くありました。
働き方改革の推進度
「全く進んでいない」との回答が21%(回答数:49)あり、病院へのアンケートの回答と比較すると、進行しているという実感が少ない傾向があるようです。「あまり進んでいない」との回答を合わせると過半数となり、働き方改革の進行を実感していない様子がうかがえます。
働き方改革に期待すること
(自由回答)
金銭的補償があること。(小児外科・40代・女性)
当直の外注が進むこと。(脳神経外科・60代・男性)
十分な収入が確保されること。(精神科・30代・男性)
緊急の呼び出しがなくなること。(脳神経外科・30代・男性)
働き方改革を無理矢理進めることに伴う各病院のマンパワー低下に関する対処がされること。(救命救急科・40代・男性)
期待していない。(精神神経科・50代・男性)
どの回答もあまり大きな差がない結果となりました。自由回答では、現状負担に感じている業務が軽減することへの期待や、働き方改革によるマイナス面が生じることへの懸念がありました。
医師の働き方改革について、先生が懸念していることを教えてください。
(自由回答)
医師・医療の質が低下すること。(法医学・30代・男性)
A水準が恒久化されてしまう懸念。(産婦人科・30代・男性)
病院の対策が遅れていること。(リウマチ科・40代・女性)
働き方改革を進めることで当然起こりうるマンパワー低下の被害を患者が被ること。(救命救急科・40代・男性)
勤務形態が変わる可能性。(循環器科・40代・男性)
「収入が減少すること」や「副業が禁止されること」を危惧する意見が多くありました。自由回答では、医療の質の低下や、一般則よりも大幅に多いA水準での時間外労働の上限(年960時間)が恒久化することへの懸念もありました。
働き方において重視するポイント
「自分のやりたい仕事であること」と「プライベートの時間を確保できること」の2点の回答が特に多くありました。
プライベートの時間も重要視しながらも、「やりたい仕事である」というやりがいの部分を重視する回答も多く、プライベートとの両立だけでなく仕事の内容を大切にしている先生方が多くいらっしゃることがわかりました。
現在の勤務形態
(自由回答)
研究者として常勤先がある(20代・男性)
企業の専属産業医である(30代・男性)
週に30時間の常勤(訪問診療・40代・男性)
多くは週32時間以上の常勤医師として勤務しているとの回答ですが、研究職・専属産業医の先生からも回答がありました。研究職や専属産業医に関しては、医師の時間外労働の上限とは異なり、一般則での時間外労働の上限規制が適用されます。
【一般則】
〇時間外労働(休日労働は含まず)の上限は、原則として、月45時間・年360時間となり、臨時的な特別の事情がなければ、これを超えることはできなくなります。
〇臨時的な特別の事情があって労使が合意する場合でも、下記の条件を守る必要があります。
・時間外労働 ・・・年720時間以内
・時間外労働+休日労働 ・・・月100時間未満、2〜6か月平均80時間以内
〇原則である月45時間を超えることができるのは、年6か月までです。
〇法違反の有無は「所定外労働時間」ではなく、「法定外労働時間」の超過時間で判断されます。
常勤先における月の残業時間(休日労働を含む)
大多数が月20時間未満であると回答している一方で、80時間以上であるとの回答が11%ありました。
先生方のご意見(自由回答)
・形骸化した働き方改革になりそう。民間の力でうまく回るようにしてほしい。(外科・30代・男性)
・土日に医師が病院にいるという常識が消えてなくなってほしい。(心臓血管外科・30代・女性)
・強行されれば最も困るのは患者ではないか。(精神科・30代・男性)
・働き方改革と言いながら、給与が大幅(4割程度減)した。1勤務あたりの労働人数を減らして、残業時間を減らす方法をとったため、勤務時の業務量が尋常ではなく、いつ事故がおこるかとヒヤヒヤしている。給与もかなり減って、その分バイトをしなくてはいけないので、結局個人的な労働時間は全く減っておらず、むしろ仕事量が増え疲れている。(小児科・50代・女性)
・臨床で働く医師が期待するほど増えていない中で、このまま強引に働き方改革を進めていけば必ず様々な面において医療レベルは低下します。(救命救急科・40代・男性)
・病院の勤務医に負荷がかかりやすい仕組みが改善できないものか。(病理学・40代・男性)
・バイト医と比べて常勤医を大切にしない病院が多すぎるのが問題。(感染症科・20代・男性)
・業務の最適化(職種ごとに仕事をしっかり分業するなど)をすべきと考えるが、業務時間を先に制限しては結局、管理職・管理者が帳尻を合わせることになると思っています。(泌尿器科・40代・男性)
・働き方改革は、一部の医療者が過重労働を強いられないように医療機関を規制するものであってほしいと思います。逆に、この改革が各医療者個人の多様な働き方の自由を奪って、働きづらくするような制度にならないことを切に願います。(呼吸器内科・30代・男性)
・非常勤に対しては何の配慮もされていない。(皮膚科・50代・女性)
・闇残業が増えないか、心配している。(耳鼻咽喉科・50代・男性)
・医師は一般の会社員のように労働時間の管理は難しいのに枠にはめようとするのは無理。(循環器内科・50代・男性)
・結局上司が動かなければ働き方改革などできないので、ある程度の強制力が必要になってくるが、副業も管理しだすと人権侵害になる(本業とは関係ないため常勤先であろうが口を出す権利がない)恐れがあり、コロナ禍でのこの国の人権侵害っぷりを見ていると懸念しかない。(呼吸器内科・30代・男性)
・結局は給料が相当分貰えているかどうか。分配の問題だと思う。いい加減な仕事内容の人が、もらいすぎている時もあると思われる。(整形外科・20代・男性)
まとめ
病院へのアンケートと比較すると、医師の働き方改革の全体的な理解度や対応策の進捗等は病院とドクターの認識の間でずれがある印象です。そのため、働き方改革は現状、勤務される先生方が実感を持てるほどは進んでいないことがうかがえます。
アンケート全体で、目立つ意見としては、収入面に関するものが多く、働き方改革により収入減となることや現在行っている副業が行えなくなることを案じる回答が多くありました。また、自由回答では、医療の質や医療システムの安定性が崩れることへの懸念を示すものも多くありました。
アンケート概要
■調査期間:2022年11月8日~11月23日
■対象:医師会員 15,923名
■回答数:228名
■年齢分布
■男女比
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