記事・インタビュー
医療・科学情報を提供する国際的なマルチメディア企業、エルゼビア・ジャパン株式会社のChief Medical Officerであり、同社が提供する医療従事者向け情報サイト『今日の臨床サポート』 編集長である飯村傑先生。在沖米海軍病院やハワイでの臨床経験を持ち、帰国後はEBMの普及や製薬企業での勤務など多岐にわたって活躍。そんな飯村先生に、米国の医療や異業種への挑戦など、今日に至るまでのキャリアの軌跡について伺いました。
本記事は前後編に分けて紹介します。海外留学に興味のある医師、臨床以外の新たなキャリアに挑戦したい医師、そしてキャリアに迷っている医師にとっても大いに参考となる内容です。
米国を目指すきっかけと実現へ向けた取り組み
――米国の医療に興味を持ったきっかけを教えてください。
大学時代の医学英語の講師だった、元オクラホマ大学医学部教授、中野次郎先生の影響です。中野先生が教える医学英語は、プレゼンの仕方や、カルテ、処方箋、紹介状の書き方など、米国の医学生が学ぶような専門性の高いもので、外国人が米国でサバイブするための医学英語でした。
その授業がとても面白く、米国の医療に大きな興味を持ったので、6年生の外病院実習ではハワイ大学医学部のプログラムに4週間の短期留学をしました。そのときについたチームリーダーが岸本暢将先生(現・杏林大学第一内科准教授)で、当時は卒後6年目のシニアレジデントだったと思いますが、ものすごくできる先生でした。自分もこんな医師になりたいと憧れましたね。その岸本先生から「将来はハワイ大学に来るんだよね?」と言われ、「よし、行こう!」と米国の医療に進む決意をしたんです。
――米国の医療に進むために、学生時代にはどのような勉強をされていましたか?
中野先生から、「CecilやHarrisonを読みなさい」「ポリクリのレポートはThe New England Journal of Medicineのケースレポートを参考にして英語で書きなさい」というアドバイスをもらい、とにかくそれらを実践していました。また、米国で臨床する際のCVやカバーレターの書き方、メールの送り方、推薦状の生産性などの重要性も教えていただきました。医師に限らず、米国で働く際にはCVなどの書類が規定の書式通りしっかり書かれてあるかどうかは書類選考突破のための最低条件ですし、自分のことを良く知る指導医からのパーソナルな推薦状はとても重要視されます。
――大学卒業後、北摂総合病院(大阪府高槻市)を初期研修先に選んだ理由は?
中野先生が理事をされていたことと、院長先生も米国での臨床を経験されていたことが大きな理由です。幅広い症例を見れただけでなく、朝7時から行っていたモーニングレポートという米国式ケースディスカッションがとても勉強になり、臨床留学の準備期間としてすごくいい環境でした。
――米国で臨床をするためのUSMLEは、どのタイミングで取得されましたか?
当初は医学部を卒業するまでにUSMLEを取得しようと思っていましたが、国試の準備などで忙しく、本格的に勉強を始めたのは初期研修1年目の年末からでした。その年最後の病院勤務が終わった帰りの電車の中で始めたので、そこはしっかり覚えているんですよ(笑)。
最初はSTEP1から勉強を始めたのですが、初期研修の同期たちが「心エコーを覚えた!胃カメラを覚えた!」とか言っているときに、自分はピルビン酸はなんだとか勉強しているのがバカらしくなってきて。考えてみれば、いま臨床に携わっている状況で、しかも国試で勉強した多くの知識がまだ残っている時期なので、臨床知識のSTEP2CKから取得しようと戦略を変え、初期研修2年目のゴールデンウィークに受験して合格しました。その後STEP1も取り、初期研修修了後にすぐにアメリカへ臨床留学しようと思いましたが、そのためのマッチングの申込期日に間に合わないことが分かり、在沖米海軍病院にインターンとして行くことにしました。
インターン後に米国の医療の道へ
――在沖米海軍病院のインターンシップに合格した経緯と、働くメリットを教えてください。
初期研修2年目の夏に沖縄と横須賀の米国海軍病院へ各1週間、実習生として行き、秋にインターンシップの面接を受けて両方合格したので、沖縄を選びました。その年、沖縄は6人の枠に100人近く応募していたそうです。
インターンシップに参加することで、日本では経験できない米国式の医療や医学教育を経験できることはもちろん、多くの日本人医師たちが米国海軍病院のインターンを経て米国に留学をしたり、世界で活躍しています。同期の5名とは今でも交流がありますが、米国のボストンやカナダのケベックで活躍している先生もいます。米国海軍病院でのインターンシップは米国で臨床するための重要なステップになると思います。
――米国海軍病院の臨床や研修の特徴、給与などについて教えてください。
当時の給与は約22万円だったと思います。臨床の体験については、10年目の先生には物足りないかもしれません。しかし3年目になったばかりの自分にとっては経験する全てのことが新鮮でしたし、自分の能力や経験知にマッチしたいい経験ができたと思っています。
臨床の特徴としては、やはり最初は「軍カルチャー」というものにびっくりしました。訓練中の事故による外傷やPTSDなども多く、周産期の症例も充実していました。また、沖縄は環太平洋のなかで最大の米軍病院ということもあり、他の基地から患者さんが運ばれてくることも特徴です。
――海軍病院インターンの後、ハワイ大学内科レジデンシーに至った経緯を教えてください。
米国海軍病院でのインターン中に、オーディション・ローテーションとしてハワイ大学に1ヶ月間行って自分を売り込み、ハワイ大学内科レジデンシーとして合格することができました。当時からハワイ大学へは多くの日本人医師が行っていました。沖縄・横須賀の海軍病院や野口医学研究所、そして沖縄県立中部病院から来ている医師が多かったです。
ハワイ大学以外にもいくつかの米国の病院に書類を送りましたが、全て落とされました。私の海軍病院の同期のように、USMLEで満点を取り、医学部を主席で卒業していれば、外国人でも多くの病院から声がかかると思います。外国人が希望とする病院で働くことやポジションを獲得するには、そういった何か目にとまるセールスポイントが大切です。
――ハワイ大学内科レジデンシーとしてどのような経験を積まれましたか?
ハワイ大学では、3年という期間の中で内科医として経験すべき症例がギュッと詰まっており、濃密な臨床経験を積むことができました。また、レジデントの教育にものすごく力を入れていたので、「医学教育」の分野にも大きな興味を持ちました。そこで医学教育学部の部長に「医学教育を学ばせてほしい」とお願いをして、選択ローテーション(1ヶ月)も作ってもらいました。研修ではPBL(Problem Based Learning)や授業のノウハウなど、医学教育についていろいろと学びました。この選択ローテーションは、現在、レジデンシーたちの人気のローテーションとなっています。
新たな挑戦の場を求めて帰国
――3年間のレジデンシー修了後、日本に戻られたのはなぜでしょうか?
やりたいことがたくさんあって、いろんなことに目移りしてしまい、逆に次の目標を決め切らないままレジデンシーの3年間が終わろうとしていたんです。循環器内科や集中治療、ホスピタリストなどに興味がありましたし、医学教育を学ぶために大学院に行こうとも考えていました。レジデント最終学年では、当時米国の医療界でブームになっていた医療の質改善に出会い、そちらにも大きな興味を持ち、ハワイ大学の関連病院であるThe Queen’s Medical Centerで医療の質に取り組まれている先生につき、医療の質改善を実地で学ばせてもらう機会に恵まれました。
そんな中、米国で生まれた長女を小児検診に連れて行ったとき、小児科の先生から「日本で医療の質管理をできる医師を探している友人がいるんだけど、どう?」と言われ、「一度会わせてください」とお願いしたんです。その友人というのが社会医療法人大雄会の伊藤伸一院長(現・理事長)で、大雄会の総合内科に勤務することになりました。
――米国に留まることは考えていませんでしたか?
もちろん米国に留まることも考えましたが、自分がどう成長していくかを考えたとき、米国での臨床は多くの外国人医師が経験していますし、他とは異なる経験や自分が求められている場で挑戦した方が大きく成長できると思い、日本に戻ることに決めました。人と同じことをしたくないだけの、あまのじゃくなだけだったのかもしれません(笑)。
<プロフィール>
飯村 傑(いいむら・たけし)
エルゼビア・ジャパン株式会社/
『今日の臨床サポート』編集長
※2020年2月12日、USMLEのポリシーを3点変更すると発表しました。
- USMLE STEP 1がスコア制からpass / failへ変更
- 各STEPの受験可能回数が6回から4回に変更
- STEP 2CS受験にはSTEP1合格が必須
移行期間は11ヶ月~24ヶ月となっているため、今後受験を考えている方は公式サイトでご確認することをお勧めいたします。
››› USMLE公式サイト
飯村 傑
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